09. 才能の行方
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居間に行くと、漆塗りの机の上に朝食の準備がされていた。
立場的には弟子…なんだよな俺?
いいのだろうか、甘えてしまっても。
だがまあ、出された物に手をつけない方が失礼だろう。
空のご飯茶碗と蓋付きのお茶碗、中心には焼き魚があり、引き立てるようにお新香が端に座していた。
「いやぁ、朝ごはんなんて久しぶりな気がする…」
早朝家を出て車で移動し、会社に着き次第仕事というライフワーク。
結果まともに食事をとるのは昼のみ、夜は酒を引っ掛けて終わりという食生活だったのだ。
正直朝にゆっくりと、しかもこんなにちゃんとした食事が出来ると考えるだけで心が温まる。
「いただきます。」
手を合わせ感謝。
蓋を外すと茶碗には味噌汁が入っていた。
なんだが妙に懐かしい香りにホッとする。
続けて飯釜を開く。
少し熱い位の湯気に当てられながらも、顔を出したツヤツヤの白米達に思わず感動してしまう。
淡々と木製のしゃもじでよそっていく。
「まずは魚から…と、うおっ。」
箸を刺した途端、パリッと言う皮の焼き目の音と身に詰まった旨みの油が溢れ出す。
そのまま箸でつまんで口に放り込み、たまらず白飯をかき込む。
「はぁ…うめぇ。」
お新香にも手を出し、これまたいい塩加減で白飯を食らう。
そしてそのまま味噌汁を口に流し込んで…
「くぅ〜…染みる。」
再び白飯に手を伸ばそうとしたが、既に茶碗は空になっていた。
遠慮なくって言ってたしな…いい…よな。
そのままご飯をおかわりし、食べ進めていく。
3度目のおかわりで、ちょうど炊いてあった白飯とおかず達を食べ切った頃か。
向かい側に師匠が座っていたことに気づく。
「はっ!す、すみません。夢中で食べてました…」
「はははっ、気にせんでよい。それだけ美味そうに食ってくれたなら、作った儂も満足じゃて。」
「ありがとうございます。
しかしいくら遠慮なくと言われていたとはいえ、炊いてあった分を食べきってしまいました。
すみません。」
「いいんじゃよ。おぬしの為に作ったんじゃから。
それよりもな、話していた魔術適正を調べんか?な、気になるじゃろ?」
「ず、随分と楽しそうですね。」
「そりゃそうじゃ。魔術適正は超特例を除いて、後天的に変化することは無い。
つまり一度調べたら、後に調べることは無いんじゃよ。」
「ってことは単純に知的好奇心からですね。」
「賢者が好奇心旺盛で何が悪いんじゃ。儂も自分含めて4回程しか見たことないんじゃよ。」
「なるほど、それだけ貴重なんですね。」
「まあそういうことじゃ。この魔石結晶自体もかなりのレアもんじゃからな。
個人で所有してるような物好きは儂くらいなもんじゃよ。」
師匠はきっと、好きこそ物の上手なれを体現した人なんだろう。
この世界の賢者がどれほど凄い称号かは分からない。
しかし町の名前になるほどなのだ。とてつもない人物であることは間違いない。
「さあ、やろう。やり方は簡単じゃ。両手で包むように持つだけじゃ。」
そういって、布に包みこちらに渡してきた。
周りの布を剥ぐと水晶体のようだった。
素手で手にすると、魔石結晶が眩い光を放ち始めた。
まるで脈をうつかのように、様々な色へと変化しながら光を発していく。
光が一定の光度で安定してきた頃、やがてその色の変化も落ち着いていく。
それは変色無しの純粋な光だった。
なぜ変色していないのが分かったのか、それは変化していた時の白とは全くもって違ったからだ。
「ほお…文献や多くの魔術研究家が残した予想は正しかったか。」
一体これはどんな魔術に適性があるんだろうか。
正直大人になって無心で働いてきたとはいえ、こういうことに興味がない訳では決してない。
今更ながらに楽しみになって来ている自分がいた。
そんな風に考えていると、魔石結晶はついにその純粋な光で変化を完全に止めた。
その後手にした時のような眩い光を一瞬放ったかと思ったら、元の何の変哲もない水晶体のような姿に戻った。
「いやぁ…!凄いのう!儂もこんな変化を見たのは初めてじゃよ。
いいもん見れたわい、長生きはするもんじゃのう。」
「師匠でもそんなことあるんですね。」
「当たり前じゃよ。これだから魔術は面白いんじゃ。」
「そうだ、師匠。俺は一体何の魔術適正があるんでしょうか?無色で光っていたようですけど。」
「そうじゃそうじゃ、無色じゃったな。いやぁいるんじゃなあこんなヤツも。」
「凄いんですか?」
「そりゃあ凄いとも、過去1度もなかった事象じゃわい。」
「じ!じゃあ教えて貰ってもいいですか!?」
「近いぞ…そう慌てるでないわい。」
おっとっと、凄いと言われてつい昂ってしまった。
落ち着かないとな。
「では…教えて下さい。」
深呼吸をして、師匠の言葉を待つ。
「おぬしは…全属性の…」
「ぜ、全属性の…!!」
「魔術適正無しじゃ!完全に才能なし!
魔術とは生涯縁のない人生じゃろう!」
「えっえぇ…」
「ぶぁっはっはっ!まあそう落ち込むでない。
魔術なんてなくてもなんとかなるわい。
周りの人は皆魔術を使えて、おぬしは使えない。
それだけの事じゃ!」
「い、いや全然それだけじゃないんですけど…
まあ才能がないなら…仕方ないのかも、しれないですね。
聖堂の掃除の仕事、はじめるとします…」
せっかく異世界に来たから、それっぽいことをしたかったのはある。
だがまあ、はっきりと才能がないと言われたのだ。
これはもう諦めるとしよう。
幸いそれでも仕事は出来る。
初仕事にして、博識な師匠とも知り合いになれたのだ。
人脈に恵まれたのだと思うことにしよう。
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