08. 心の中を読む老人
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小刻みに何かを叩くような音が聞こえ、それと共に美味しそうな匂いに鼻を刺激されて、目が覚める。
体を包む温もりと手足から伝わる布の肌触りから、自分が寝具に寝かされていることに気づいた。
「ここは…?」
見覚えの無い天井だ。
部屋の柱は鏡のように磨かれた白い石で出来ており、壁はまるでいくつもの樹の幹が絡み合ったような装飾が施されている。
「頭のネジが飛んでることに感謝だ…これはかなり綺麗だぞ…」
「頭のネジが、なんじゃって…?」
顔を上げると、扉に寄りかかった白髪の老人がこちらを見ていた。
「あなたは…し、師匠って…は?」
「なんじゃなんじゃ、いきなり師匠と呼んでくれるなんて嬉しいのう。」
「ま、待て。いや、待ってください。なんで師匠のことを師匠と呼んでしまっ、て…えぇっ?」
「ハッハッハ。そりゃ制約の影響じゃよ。
覚えとらんか?師弟の契りをしたじゃろ。」
制約?師弟の契り?この師匠は何を訳の分からないことをってああっ!
頭の中までもか…
なんだこれは、催眠術か?それか頭のおかしくなった影響か?
いやそれにしても、この師匠は何故会ったこともないのに、俺の頭がおかしいことを知っている?
そして何故俺の妄言に付き合っている?
「…ふむ。妄言ではないぞ?実際に起きたことじゃからな。」
「はぁ?心の中をよ、読めるんですか?」
「あぁ、何となくじゃがな。儂、賢者じゃし。」
そう言って師匠はニヤリと笑った。
しかし賢者と言ったか?
……あっ、けんちゃんじゃなくて賢者か。
そりゃ笑われるわ。
エリナも、さぞやおかしなことを言う奴だと思ったことだろう。
ちょっと恥ずかしくなってきた。
っていや、今はそんなことどうでもいい。
賢者という言葉から、頭の中に広がっていたパズルのピースが少しずつ組み上がっていく。
心を読まれた。
これは間違いない事実。
さらに賢者を名乗る目の前の師匠。
そしてこの頭の中でも、言葉でも、何故か師匠と呼んでしまう現象。
こうなってくると、ここに来る前見たあの毛むくじゃらの人や、耳長の女、犬耳のエリナまでも…
まさか本物…?
そうなるとここは、日本なんかじゃない。
今考えている事が事実ならば、だが。
まさか漫画や小説の中だけの話ではなかった?
ここは…
「おぬしの言葉で言うところの、異世界ってやつじゃろうな。まあ儂からしたら、おぬしのいたとこが異世界じゃけども。」
「なっ……」
「まあ、納得できんじゃろ。儂もおぬしの頭がおかしいって話を信じたくなる程じゃ。」
「え、えぇ、そうですね。魔法でも見せられれば納得しそうなもんですけど。」
つい口をついて出た言葉に反応し、師匠が目を光らせた。
「魔法はないが、同じようなもので魔術ならばあるぞ?
しかもおぬしは運がいい。儂は魔術を極めし賢者なのじゃよ。」
「はっ…はは。頭の中を読まれることと言い、信じてしまいそうですよ。」
「なら、信じさせてやろうかのう。再現術」
師匠が言葉を口にした瞬間、目の前に自分と師匠が対峙する幻影のようなものが浮かび上がる。
「こ、これは…?いや、いやいや。
俺と師匠は今日が初めましてですよ、なんでこんな…」
「なーるほど、強いショックで記憶が飛んでるんじゃろうな。
まあこりゃ昨日の夜のことじゃよ。見てれば思い出すじゃろうて。」
既に幻影は動き始めており、そこでは地に倒れ伏して燃え盛る炎に包まれる俺の姿があった。
「なっ…」
「おー、よう燃えとるわい。いやぁすまんかったのう。」
「すまんかったじゃないですよ!こんなの死んでもおかしくないじゃないですか!」
「生きとるからええじゃろうが。まあ色々あるんじゃよ、襲われたのかと思ったんじゃ。」
「まあ、分かりました。っと忘れるところでした、掃除しに来たんですよ。」
「なるほど、それでここまで来たんじゃったな。
まあまあ、ゆっくりやればよかろう。
せっかく成り行きとはいえ、儂の弟子になったんじゃ。
魔術適正でも見ていかんかのう?」
「…調べる方法があるんですか?」
「魔石水晶に手を当てれば1発で分かるんじゃよ。
しまっておいたはずなんじゃが、どこにあったかのう…
よし、探して来る間に飯でも食っておくといい。
部屋を出て、右に行けば居間じゃ。
そこに飯釜なり、色々と準備しておいたからの。
体も疲労してるじゃろうし、遠慮なく食うんじゃぞ。」
「あ、ありがとうございます。師匠。」
「可愛い弟子のためじゃからな。なんちって。」
そう言うと師匠は一人、部屋を出ていってしまった。
しかし、異世界に賢者に魔術か…
未だに信じ難いが、信じざるを得ないような色々な事が起きすぎた。
まあ、なんにせよだ。少なくとも今日は清掃のお仕事をこなさなくてはならない。
腹が減ってはなんとやら、せっかく用意してくれたのだから飯を頂くことにしよう。
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