07. 痛みと契り
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「お初にお目にかかります。集会所の方で清掃のお仕事を承り、ここまで参りました。」
とりあえず挨拶から目的を話すことまでは済ませた。
しかし白髪の老人の態度は軟化することはなく、こちらへの警戒を止めることは無い。
「すみません、なにか粗相をしてしまいましたか?もしこの聖堂に立ち入る礼儀作法があったのなら、すみません。
この町に来たのもはじめてでして…」
こういう時はとりあえず謝罪に限る。
理由もわからず謝るのはよくないが、自身の非が原因で相手を怒らせてしまったのは間違いないのだ。
「ぬぅ…?おぬし、嘘はついていないようじゃな。しかしのう…」
どうやら話が通じる程には、こちらへの警戒を解いてくれたようだ。
こうなったら無知を恥じず聞くしかないだろう。
「すみません。
もしよろしければ、なぜそこまで警戒させてしまったのかを教えてはもらえないでしょうか。
この町に訪れたのもはじめて、しかも偶然流れ着いただけなのです。
無知ゆえに気に触ることをしてしまったのなら、すみません。」
「ふむ。よろしい、話はわかった。なら1つ質問をしてもよいかのう?」
「ええ、何なりと。」
「どうやってあの結界を破った?」
「…はい?」
「…答えられぬのか?ならば、こちらにも考えがあるぞ。」
こちらが聞き直した途端、老人は杖を上段に構えた。
いや、正確には構えていたが正しいかもしれない。
いつその姿勢をとったのか、杖をどこから取り出したのかすら、分からなかったのだから。
「ま、待って下さい。結界?なんですかそれは。」
「まだ恍けるか、そうか…仕方がないのう。」
こちらの返事など気にもしていない様な雰囲気で、老人は杖を振るった。
その杖が地面に着くかどうかという所で、老人の口が動いた気がした。
「潰せ…重力操作術」
その言葉が聞こえた瞬間に、俺の体は地面に吸い込まれる様に叩きつけられた。
同時に凄まじい重さの何かに潰されていく感覚がする。
「あっ…がぁっ……はっ…!」
「どうした?あの結界を破れたのじゃ、早く相殺した方が身のためじゃぞ?」
「なんっ…の……こ…がああっ!」
「まーだ知らんぷりかい、強情な奴じゃのう。
もう知らんぞ?火術」
「うがああああ!!!やめ、あづいっ…!」
「さあ、言わんか!どうあの結界を破った?素直に言わんと死ぬぞ?」
もはやこの老人が何を言っているか、理解が出来なかった。
何故こんなにも辛い思いをしなければいけないのか。
何故こんな目にあってまで働かねばならないのか。
何故ここまでして生きなければならないのか。
何故?何故?何故?
何故俺はあの事故で生き残ってしまったのか。
あぁ…あの時死ねれば…幸せだったなぁ…。
「っ…!!まさか、おぬし本当に!くっ、反魔術領域」
「……」
「魔術の効力は無事切れたかのう?
っと、流石に喋れんか?すまぬ、今治そう治癒術」
バチン!!
「なっ!なぜ相殺をするのじゃ、そのままじゃ本当に……いや待て。そうか、これはっ!!
くっそ!ワシとした事が完全に思い違いをしておった。
結界はこれで…呪いの力で無意識に跳ね除けたのか!
おぬし、呪術に侵されておるのだな!
治癒系統の術のみを阻害する術式が…体全身に…」
「………………」
何か老人が慌てている。それは分かる。
だが声ははっきりと聞こえない。
何か言う気力も…もう…起きない。
──────────
どうすればいい、こんな複雑な呪術見たことも無い。
解呪しようにも心の臓と術式が完全に接続されておる…
つまり呪術を消せば、命も消える。
だがこんな事で、こんなワシの下らん勘違いがきっかけで、死なせて等やるものか。
考えろっ!ワシは誰だ?賢者じゃろうがっ!
不可能なんぞない!助ける!絶対にじゃっ!!
「………そうじゃっ!師弟間の相殺禁止の制約があったか!
聞こえておるな、青年。
助かりたいか…生きたいか…!
ならば答えよ、おぬしが言うのはその名前だけじゃ!」
今は未熟な種の子よ──
我が師となり陽となりて──
枝葉をつけて伸びてゆき──
見上げる程の華となれ──
我が名はマーリン──
答えよ──
汝の名をもって師弟の契りとする──
──────────
さっきまでまともに聞きとれなかったはずの老人の声が、やけに鮮明に聞こえた。
まるで脳内に直接語りかけられているようだった。
恐ろしいと感じていた心がまるで嘘のように、その一言一句に聞き入る程の温もりを感じる。
そして、その全てを聞き終えた時、自然と俺の口は動いていた。
「我が名は…大和辰己。」
「ふっ…よう言うたわい、いい根性じゃ。
蘇生治癒術」
一瞬で目の前が真っ白に染まり、ポカポカという陽の光の中にいる感覚に包まれる。
それと同時に、体中の血管が脈動していく。
ドクンドクンという音が頭の先から、足の先まで響き渡っているのに気づく。
しかし、焦燥感や不安は一切感じない。
心を、頭を、優しい光が包んでいることを知っているから。
光に体を、全てを委ねて預けていく。
まるで日向ぼっこをするような気持ちよさを感じながら、俺は意識を手放した。
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