03. 決意と恐怖
毎週火曜と土曜0時に一話ずつ更新です
よろしくお願いします
「これは…」
間違いない。
先程の二人の語る治癒術、この世界にいるとは思えない生き物。
そして人型でありながら、人間とはまた違う容姿をする者達…
「これは…間違いない……!」
もはや否定のしようがあるまい。
まさかとは思っていた。そんなことがあるわけがないと思っていた。
だがそれ以外の理由が思いつかない。
認めるしかないだろう。
俺の頭がおかしくなってしまったんだ。
こうなってくるとかなり厄介だ。
人や動物がこんなにも違う形に見えてしまうということは、きっと文字や絵ですら前までと同じようには見えないんだろう。
背景としか考えていなかった標識や看板に目を向ける。
「やっぱりだ…!くっそぉ、なんて書いてあんだよ…!」
恐らくコンビニやスーパー等の看板だったそれらは、剣や盾、麻袋へと姿を変えている。
文字のような羅列も見えるが、全くもって読めない。
これでは会社に行くどころか、家に帰ることすら不可能と言っていいだろう。
こうなると奇跡的に知り合いのいる場所に辿り着き、相手から話しかけられ、そのうえ名前を名乗ってくれないことには今まで通りの生活を送ることすら出来ない。
「おいおい、これどうやって帰ればいいんだよ…」
そう呟きながら広くなったポケットをまさぐる。
先程の家で充電器を借りなかったのには理由がある。
携帯がポケットから無くなっていたからだ。
さらに財布もない。
間違いなく流されたのだろう。
これでは身分を証明する免許証もない。
キャッシュカードも無いのだから完全な文無しだ。
こうなっては、とりあえずその場暮らしだ。
もはや元鞘に戻ることは諦める他ない。
いきなり無断欠勤、電話は繋がらない。家を尋ねればもぬけの殻。
こんな奴、社長がよっぽどな物好きでもクビになるだろう。
「新しく仕事探さないと、な…」
周りをキョロキョロと見回すと、どこからどう見ても人間の見た目を持つ青年を見つけた。
「あの…お忙しい所すみません。」
「大丈夫ですよ、どうしました?」
「この町に、従業員を募集している職場はありますか?良ければ教えてもらえませんか?」
「うーん。集会所に行けば分かるかもしれません。あっ、そうだ。今から行くので案内しますよ。」
「そうしていただけると幸いです。恥ずかしながら、はじめて訪れる土地で勝手が分からず困っていた所でして…」
「あはは、あるあるですね。僕もここに来た時はどこに行っても港に戻ってきてしまうくらい迷いましたよ。」
集会所…?町の役所のような場所だろうか。
しかしまあ、なんとも運が良かった。声をかけた1人目が目的地を知っているとは。
聞く限り、とんでもない方向音痴であること以外は完璧だ。
まあ頭がおかしくなり、道どころか標識すら分からない俺が言えることでは無いんだけどな。
とりあえず話を合わせつつ、着いていくことにした。
──────────
この家を出ていったのを見届けて、窓から様子を伺うこと数分。
家の前からいなくなったことで、やっと緊張から開放された。
俺が助けたあの男、恐らくとてつもない実力の持ち主だ。
あの緻密に編み込まれた衣服、あんなものを身につけている時点でまず相当な金持ちであることは間違いないだろう。
そして確信をもったのは、レーズがかけた治癒術への相殺だ。
『一流の魔術師は他者の魔力を体に入れてはならない』
この町に住む者なら誰でも知っている『賢者』が残したとされる言葉の一つだ。
何でも魔術を行使する時、体内を巡る魔力の操作にズレが生じ暴走することがあるらしい。
そしてそれは、自分以外の魔術をその身に受けることで可能性が高まっていくとのことだ。
治癒術は自分自身には使うことは出来ない。
にも関わらず他者からの治癒術を阻み、古典的な治療を好むということは間違いなくそういうことだろう。
そしてそれに納得したと同時に恐怖した。
詠唱もなしに魔術を相殺する達人がこの町にやってきたことに。
そしてその達人が杖を使わないと満足に歩けないほどの怪我をさせた存在が、この世界にいるということに。
面白かった、続きが読みたいという方はブックマークをお願い致します。
感想、レビュー、評価等も些細なことでもいいので、してくれると喜びます。
お待ちしております。




