19. 変化への代償
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修業をはじめてから、約ひと月程たった。
未だに魔力を放出をすることは出来ていない。
しかし成長したことはある。
田んぼの管理と畑仕事だ。
田植えでの疲れも次の日に持ち越さなくはなった。
畑を耕しても全身が筋肉痛になることも少なくなった。
そして一番変わったのは服装だろう。
スーツは足元が不安定な場所に適さなかった為解雇となり、今の俺は幅広のズボンと長袖という作業着でいることが多くなった。
「よしっ、今日も励むんじゃぞ。流断術」
「ぅぅ…ふぅ……ありがとうございます。」
「毎日のようにかけているからかの?流石に痛みに耐えれるようになってきたの。」
「それだけ修業が上手くいってない証拠ですけどね。」
これでやっと魔力の感覚をぼんやりと掴めているだけなのだ。
この魔術をかけてもらっている限りは、魔闘術とやらの習得も夢のまた夢だろう。
とはいえ、実は一週間程経った時、体を流れる温かい何かに気づいたのだ。
師匠に報告したところ、それが魔力であることは分かった。
残念ながらそれ以降発見はなく、体の外に出すことは出来ていないのだが……
「うーむ、試しに少し内容を変えてみるかの?」
「修業を変える、ということですかね?」
「そうじゃ。今までの自身のイメージ力で魔力放出の感覚を掴む修業では、魔力の存在を知覚することには成功したからの。
暫く続けていれば放出の段階までいけるかとは思っていたんじゃが、お主ぶっちゃけ飽きとるじゃろ。」
「……修業に飽きた訳では無いんですけどね。」
「それは分かっておるわ。朝早く起きて、ひたすら一人でやっとるのを知らんわけないじゃろ。
じゃが、変化が欲しい…違うかの?」
「また、心読みました?」
「読んどらんぞ?単純に経験則じゃな。」
「…はぁ、すごいもんですね。」
「お主信じとらんじゃろ!」
そりゃあ信じられる訳が無い。ピッタリと心の中を言い当てられたのだからな。
経験則か…
師匠にも、同じことだけしてても意味が無いんじゃ…という焦燥感に駆られる感覚を味わった経験があるのだろうか?
なんにせよ、もし違う修業を提案してくれるのであれば今の俺に乗らない理由はない。
「すみません、信じ…てますよ。その、違う修業をやらせてくれるってことですか?」
「まあ、そういうことじゃな。魔闘術は魔力を纏う術。
つまるところ魔力の壁を一枚隔てて動くことになる。
そして魔術は魔術適正により属性が付与された魔力が形となった物とも言える。」
「つまり……?」
「儂がお主を魔術で攻撃し続ける。お主は気合いで魔力を放出する。
これで簡単、お主は魔術適正を持たないため上手く魔力放出すれば、それ即ち魔闘術になるということじゃ。」
「えぇっと……魔術で攻撃されると、どうなります?分かりますよね?
俺、ここ来た時にいきなり師匠にやられた気がするんですけど。」
「ん?普通に痛いと思うんじゃが。そんなことも分からんのか?もしかして馬鹿なのかの?」
最悪死ぬんじゃないかと、そう言いたかったのだがな。
もちろん気持ちはありがたい。
こちらが上手くいかず辟易しているから、心を鬼にしてそういった方法を提案してくれたのも分かる。
しかし…
「違いますよ…!なんでそんなことに!」
「こういうのはな、荒療治が1番なんじゃよ。
最悪死ぬって思えばな、割と人間なんでも出来るもんじゃて。」
「師匠も…」
「ん?」
「師匠も…そうやって、魔術の腕を鍛えたんですか…?」
言った瞬間に、それが失言だと気づいた。
師匠は故郷を滅ぼされて、文字通り死にかけて、そして努力を重ねた。
遂には賢者と呼ばれるまでに魔術を極めた。
いくら割り切っているとはいえ、その過去を話してくれたとはいえ、他人に掘り返されたい訳はない。
師匠を見ると、やはり怒っているのかもしれない。少し俯いているようだ。
「すみません、俺…その、浅はかでした…」
「…悪いとは思っておるんじゃな?」
「それは、もちろんそうです。」
「なら、せめてもの償いに一つ言うことを聞いてくれるかの?」
いくらこちらが痛ぶられるのが分かりきっている理不尽な修業とはいえ、俺はこの人の弟子だ。
師匠の言うことは聞くものだ。
なにより苛立ちを覚えていても、言って良い事と悪い事の区別が出来なくなっていてはしょうがない。
「…もちろんです。それで償いになるなら何でも言って下さい。」
「じゃあーさっき話した修業で決定じゃのう!いやー腕が鳴るわい。
魔術でビシバシ攻撃させてもらおうかの!
お主も頑張れよ〜!さっさと魔力放出が出来んと本当に死ぬぞー!!」
………!?
完全に嵌められてしまったようだ。
しかし男に二言はない。
今更言い逃れも出来ないだろう。口を開いて余計な事を言ってしまわぬように、渋々頷き了承の意とした。
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