18. 対価を支払うということ
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お昼を済ませた後、同じ修業を午後からも続けた。
しかし一日で身につくほど甘くはないようで、魔力のまの字も感じられないうちに夜になってしまった。
「…ふぅ。すみません、折角教えて頂いているのに。」
「なんじゃ、落ち込んでおるのか。」
「えぇ、まあそんなところです。」
「ふむ…儂にはお主が今までどれだけの人生を送ってきたかは分からん。
それこそ、異世界のことはてんで詳しくないからのう。
じゃがな、一つ言っておこう。」
「はい、聞かせて下さい。」
「あまり舐めるなよ。」
それはこの世界で、町長や襲ってきた相手に向けられたものよりも数倍の濃度で襲い来る殺意だった。
呼吸することを忘れるほどの恐怖に包まれるような感覚。
身動きどころか返事一つ出来ないでいた。
「おっと、すまんな。ちとやりすぎてしもうたわい。
じゃがな、儂は言ったはずじゃ。失敗は気にせんでいいとな。
お主は儂のその言葉を信じられておらんのか?」
「いや、そんなことは…」
「ないと?確かにお主は縛られずに、様々な方法を試していた。
その時のお主は間違いなく儂を信じておった筈じゃ。
しかし、一日かけて何の成果も上げられなかったことで見放されると思ったのではないか?
それすらも出来ない奴だと、そう思われるのではないかと不安にはならなかったか?」
思わない筈がない。無意識に出ていた溜息は、自分への絶望感。
魔術適正という一種の才能すらなく、そのうえ魔力を理解することすら出来ない。
自分にとっては異世界という特殊な環境、そして身につけなれば命に関わる技術。
それすらも出来ない自分に、この世界で何が出来る。
もしかしたら、俺には何かを成すための力が何一つとして無い。
だからこそ、この世界に捨てられるように流されたのではないか。
そんな俺の事は、いくら人の良い師匠でも見捨てるのではないか。
そんな事を思わない筈がない。
「もう一度言う。あまり舐めるなよ。
儂はな、お主の師匠じゃ。それがたかだがちょっと出来が悪い程度で見捨てると思うたか。
そもそも成功することを分かりきっておるなら、失敗を気にしないでいいなんて言わぬわ。
どれだけ儂の性格悪いと思っとるんじゃ全く!」
「はっ……はは…すみません。俺めちゃくちゃ馬鹿でした。
なんか、思い上がってたみたいです。
師匠…俺、師匠の弟子でよかったです。」
「ふっ今更何を言っとるんじゃ。
明日から暫くの間は今日と同じ修業を行う。
手早く感覚を掴まんと悪戯に時間を浪費することになるぞ?」
「ええ、分かりました。
まあ俺は師匠の弟子ですからね。すぐに身につけてみせますよ。」
「調子の良い奴じゃ。まあそのくらいの気合いでよいわ。」
そう言って師匠は聖堂へと戻ろうとする。
何かを忘れているような…っとそうだ。確かポケットに仕舞っていた筈…
ポケットをまさぐり、袋を取り出す。
「あっ!師匠!これ、受け取って下さい。」
「なんじゃあ?っと袋か…?ってなんじゃこの金!」
「いくら師匠と弟子の関係とはいえ、流石に無賃で宿を貸していただくことなんて出来ません。
そのうえ食事までいただき、修業までつけて頂いています。
貰いっぱなしじゃあ、気が済みません。
これだけ良くしてくれているんです。それ相応の対価を支払わせて欲しいんです。
これはせめてもの気持ちです。どうか受け取ってください。」
「お主…大分難儀な性格しとるのう。
しかしなぁ…この金を受け取るのは儂の流儀に反するのう。」
「では、預かってもらうのでも構いません。」
「うーむ…」
「…!では、何か仕事をくれませんか?頼まれた事を達成出来たら、俺が預けた金から相応の金額をを返して下さい。」
これなら師匠が完全に受けとる訳では無い。
そのうえ対価として預けたお金を返してもらうなら、何もしないで貰いっぱなしではなくなる。
かなりこちらの意見を押した形ではあるが、双方の要望を叶える案としては、かなり理想の形で提案できた気がする。
「ふむ…そうじゃな。いいじゃろう。
多少なりとも魔術で成長を促進しているとはいえ、畑の管理にはどうしても体を使わねばならない場所は出てくる。」
「では!」
「うむ、毎日ではないがな。畑を耕す時や、育てている野菜の種まき等やることは沢山ある。
その時は頼むぞ?」
「分かりました!ありがとうございます!」
何とか納得してくれたようで良かった。
頭の片隅にずっと残っていた靄が晴れたような気がする。
これで明日からの修業に、もっと身が入るといいのだが。
こればっかりは明日の自分に聞かなくては分からないだろう。
何はともあれ、こうして正式に師匠と俺の共同生活が始まった。
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