17. 修業開始!魔力の感覚を掴め
毎週火曜と土曜0時に一話ずつ更新です
よろしくお願いします
聖堂に入ると、起きた時には無かった台所や食料保管庫の部屋が増えていた。
もしかしたらこれも魔術の一種なのだろうか。
中に入ると既に師匠は朝食の準備を始めていた。
「今日は二人おることじゃ、手早く済ませてしまおうかの!」
「汁物とおかずの1品でもやりますよ。」
「そうかの?じゃあ儂は米でも炊いて、ついでに肉でも焼いておくかの。」
サッと台所の調味料等を確認しつつ、保管庫を見る。
野菜が多く見受けられ、調味料には醤油や香味油等は揃っていた。
これだけあるなら何でも作れるように思えてしまう。
一人暮らしで手早く作るのには慣れたものだ。
とりあえずニラともやしをサッと炒め、最後にゴマをまぶした物を作った。
汁物は火の通りやすい玉ねぎの味噌汁にした。
師匠の様子を見てみると、魔術を使い巧みに米を炊きあげ、肉は串焼きにしていた。
二人で手早く食事を済ませて聖堂の外に出る。
「よし、では早速修業を始めるとする。」
「はい。よろしくお願いします。」
「まあまずは基本じゃ。自分の体を巡る魔力を理解することじゃな。」
「体を巡る、ですか。しかしどうやって理解すればいいんでしょうか。」
「うむ。とりあえずその体にある呪術、邪魔じゃな。
解呪は無理じゃが一時的にその効果を止めて、余計な場所に魔力がいかないようにしてやろう。」
「無意識に魔力を使ってるってことなんですかね?とりあえず、お願いします。」
「使わされてるが正しいがの。うむ、任されたのじゃ。
ちと痛いし、失敗したら死ぬが我慢するんじゃぞ。」
「えっ…ちょっ」
「流断術」
途端に全身を一気に締め付けられて、潰されるような痛みが襲う。
あまりの痛みに力が抜け、立っていることもままならなくなり倒れていくのを感じる。
まるで貧血を起こした時のようだ。
力が入らない為に手を着き衝撃を和らげることも出来ず、顔を激しく地面に打ち付けた。
多分物凄く痛いんだろうが、全身の痛みが強すぎて何も感じない。
しかし突如ふっとその感覚が無くなり、師匠の声が聞こえてくる。
「………い。……おーい…………もう痛みは取れとるはずじゃぞー。
立とうと思えば立てるぞ〜。」
「は……は、い…。」
両腕に力を入れ、グッと上半身を上げる。
そのまま四つん這いのような姿勢で足に力を入れて、立ち上がった。
「はぁ…はぁ……。すみません…。」
「結構効いたようじゃな。こりゃ随分厄介な呪術じゃわい。
あと何より、お主凄まじい量の魔力をその体に内包しておるな。
一瞬でぶっ倒れたのが何よりもの証拠じゃわい。」
「そ、そうなんですか。まあ少ないよりかは良かったです。」
肉体的疲労も苦痛もないが、先程まで何も考えられない様な痛みに襲われていたことで精神的疲労が溜まっていた。
しかしこれも修業の一環、深呼吸をしながら呼吸を整える。
「よし、ちょっと落ち着いてきたかのう?」
「はい、すみません。取り乱しました。」
「さて、それでとりあえず半日程は持つ筈じゃ。
まずは魔力を放出する感覚を掴んでいこうかの。」
「分かりました。」
この痛みで半日か…。
若干心が折れそうになるが、心を鬼にして魔術をかけてくれていることを師匠の表情から読み取れた。
ならば、その行動に答えるのが弟子の努めだろう。
「はじめは何も教えはせん。お主の思う魔力放出をやってみい。
失敗は気にせんでいい。誰しもはじめてのことを失敗せずやるなんて無理じゃからな。
それに、やりたいようにやって失敗してからじゃあないとな?
こうした方がいいんじゃないか。
そんな考えが浮かんでしまって、言われた通りに動くことすら出来なくなってしまうからの。」
「分かりました、やってみます。」
師匠の言葉は驚く程に納得出来た。
確かに社会人になりたての頃は、何かをやる上での基本を理解出来ていないうちに、こうした方が効率がいいなんてことを考え失敗した経験があった。
その時はなんで言われた通りにやらないのか、なんて怒られたものだ。
今ならわかる。料理のレシピを守るのが大事なように、仕事でも何でも決まった段階を踏んでいくことが大事なのだ。
それは魔術や魔力を扱うことでも同じこと。
そのうえで、失敗を気にしないでいいと言ってくれたのだ。
存分にその言葉に甘えるとしよう。
とはいえ、何も情報がないのでは出来ないのは当然。
全身に力を入れてみたり、脱力してみたり、色々と工夫をして体から魔力を出そうとはした。
残念ながら出たのは汗だけだったのだが。
数時間経っても魔力の片鱗を感じることすら出来なかった。
「そろそろ正午になりそうじゃな。まあそんなもんじゃよ。
途中ちょっと惜しい瞬間はあったんじゃが、分からんじゃろ?」
「えぇ、全くわからないです。良ければ、その惜しかった瞬間について教えて欲しいです。」
「うむ。素直に聞けるのは偉いのう。
お主、全身を脱力して振り子時計のように腕をぶらぶらさせていた時があったじゃろ?
あれじゃ。あれ、かなり良かったの。」
「あれですか…脱力、ですか?いや、それじゃ日常生活はよくてもとっさには使えない…?」
「お主いいのう。儂の好きなタイプじゃわい。
よし、もう少しヒントをやろうかの。その時、何を考えていた?」
何を考えていた…か。
力を抜いて腕をぶらぶらさせていた時に考えていたことなんて、あるのだろうか。
…………!
いや、何かを考えていた訳じゃない。
何も考えていなかったんだ。ただ体に身を任せて力を抜いていた。
「何も考えていない、自然体だったと思います。」
「うむ。おまけで正解にしてやろう。
そうじゃ。自然体であること、リラックスした状態であることが魔力を使うことには大事なんじゃ。
もちろん、とっさにそうなることは難しいじゃろう。
ただそれは思考の上での話じゃ。
熱いものに触れた時、咄嗟に手を離すように。
眩しい時に目を瞑るように。
無意識に身を委ねるんじゃ。それが体内の魔力を理解し、放出することへの一番の近道じゃ。」
「分かりました。ありがとうございます。
しかし、師匠。無意識に身を委ねるってのはなかなかに難しいですね。
意識して無意識を作ることが出来なかったから、あれだけ時間を使っても出来なかった訳ですし。」
「はっはっは。まあお主の場合は魔術適正がなく、魔力を使う感覚に慣れておらんからな。
普通の奴は、自身の魔術適正にあった魔術の詠唱を学んで魔術を使う。
詠唱は魔力放出する方法という観点から見れば、魔力さえあれば誰にでも使える物じゃからな。」
「俺の場合は努力あるのみですね…」
「そうじゃな。慣れれば簡単じゃよ。
さて、昼にしよう。出来たら呼ぶからの。
お主は休んでいてもいいし、まだ魔力放出を試みていても良いぞ。」
「ではお言葉に甘えて、もう少しだけ続けてみます。」
その言葉を聞き、顔を綻ばせると師匠は聖堂へと向かっていった。
もしかしたら休ませる為に提案してくれたのかもしれない。
だがせっかくなのだ。脱力の時の感覚が残っているうちに研鑽を積んでおきたい。
結局俺は師匠から声をかけられるまで、その修業を続けていたようだ。
こちらに来た時の師匠の呆れたようで、それでも嬉しそうな顔が妙におかしくて笑ってしまった。
面白かった、続きが読みたいという方はブックマークをお願い致します。
感想、レビュー、評価等も些細なことでもいいので、してくれると喜びます。
お待ちしております。




