11. 恐怖と緊張の交渉
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下りということもあり、比較的身体的には楽ではあった。
しかし流石の階段の長さもあり、町に着いた頃にはもう陽は沈みかけていた。
「なんだかんだ時間がかかったなぁ。」
個人的にはこれで当面の資金面での問題を解決しつつ、師匠からこの世界のことについて学びたい。
郷に入っては郷に従えだ。
これから働いていくにしても、生きていくうえでこの世界の常識を知ることは必要だ。
しかし、なんだろう。
階段を降りた辺りから、妙に視線が気になる。
そのうえ視線は、集会所に近づくにつれて多くなっている気がするのだ。
道行く人も、店の商人も、誰もがこちらを見ている。
だが視線を向け返すと、あからさまに視線を逸らすのだ。
ついには集会所にたどり着いた。
するとエリナが駆け寄ってきて、その勢いのまま抱き着いてきた。
「偉い凄い人やで!ほんまありがとうなぁ!」
「おっと!どうしたんですか突然。」
そっと両肩に手を当て、身体を引き離す。
「あっ!ウチったら興奮してもうた。
でもこんなんウチが生まれて、初めてのことなんや。
ウチの爺ちゃんも、これで夜も漁に出れる言うて大喜びやってん。」
「なるほど、それはよかったです。」
「よかったじゃあらへんよもう。町長もお礼をしたいって話やで?」
「そんな偉い方からお礼をされるようなことは何も…俺は掃除しに行っただけですから。」
「それがそんなことも無いのだよ。」
不意に後ろから声が聞こえてきたので振り向くと、小太りで背は低いが立派な口髭を生やした男が立っていた。
「町長さんや!お疲れ様ですー!」
「あぁ、エリナちゃんか。お疲れ。」
「どうも、大和辰己と申します。」
「あはぁ、君がか。私はこのシーマーリンの町長をやっているゴルベルだ。
よろしく頼むよ。」
「よろしくお願いします。」
町長自ら出てくるとは、やはり相当なことなんだろう。
まあそりゃあ行く前に聞いたエリナさんの話だけでも、約二十年ほどあの聖堂横の灯台に火が灯っていなかった事になる。
それがあるとないとでは、漁業が盛んだろう海の町では全体的な金の回りも変わってくるだろうしな。
それにしても呼びつけるのではなく、足を運んでくるあたりはかなり義理人情に厚い方なのかもしれない。
媚びを売る訳ではないが、今後この町を拠点として生活することを考えるとかなりプラスに働く出会いだな。
「改めて、タツミくん?でいいんだよな?」
「ええ。」
「エリナちゃんから話は聞いているかもしれないが、お礼を言わせてくれ。
ありがとう。下世話な話だが、この町の一番の収入源は間違いなく漁業によるものだ。
それが、真っ暗な夜や朝方にも行えるようになったのは本当に大きい。
君さえ良ければだが、報酬とは別に何かお礼をしたいんだが。」
「いえいえ、報酬のお金をきっちり頂ければ他には何もいらないですよ。」
「ふむう、まあ本人がそう言うなら仕方ない…のか。
まあ貸し一つとでも思っていてくれたまえよ。
何か困ったことがあったなら力になることを約束しよう。」
「ははは、結果的にもらってしまいましたね。」
「ふはっ、気にせんでいいよ。しかし一つ聞きたい事があったのだ。いいかね?」
「ええ、かまいませんよ。」
なんだろう。町長さんとは完全に初めましてだ。
師匠とのように、俺が一方的に忘れていたなんてことは流石にレアケースだろう。
そんな相手にする質問なんて、あるのか?
「あの鳥居をどうやって越えたのだね?
この町が誇る騎士団の精鋭達でも越えることは出来なかったのだ。
かくいう私も就任して以来、一度もあの聖堂に立ち入れたことが無いのだ。是非とも越える方法を教えて欲しい。
コ タ エ テ ク レ ナ イ カ ?」
先程までにこやかに接していたにも関わらず、見ているだけで背筋が凍るような目を向けられた気がした。
俺の頭がはっきりと危険信号を出している。
それは車と車がぶつかりそうになる瞬間、危ないと思うように。
上から物が降ってきた時に、避けなければと思うように。
刃物を持った人物がいたら、逃げなければと思うように。
想像だけでもその状況になれば、誰もが避けたくなるような危険。
それを察知する人間として当然の本能を無理矢理引っ張りだされたような恐怖。
「ド ウ シ タ ン ダ ?」
言葉を重ねられ心拍数が上がるのを感じる。
正直言って、知らない。
なぜあの鳥居が越えられたかなんて、知らないのだ。
通ろうとしたらガラスが割れるような音がしたことは分かる。
だが、頭がはっきりと理解しているのだ。
何かしら情報を出すことすらやめたほうがいいと。
絶対にその結果良くないことが起こると。
…落ち着け。よく考えろ、大丈夫だ。
相手も所詮は人間だ。ここが異世界だとしても、いきなり殺されるなんてことは…ないだろう。
いやいや。何が殺されるなんてことは、だ。
こんな会話で生き死にを考えさせられることが、そもそもおかしいことに気づけ。
っふぅ…よし、一か八か、賭けではあるが…
社会人として培ってきた交渉術を試させてもらおう。
「町長さん。早速ですが、貸し一つ使わせてもらってもいいですかね?」
「…ふむ?」
相手としても予想外の言葉だったのか。
直前まで感じていた威圧感は消えていた。
「俺としても、話したい気持ちはあるんですが…
少々自分のことを晒すことになりかねないなと。
そうなると、出来ることなら隠したい。
ですから…文字通りこの町の収入源を救う光を、活気のある町づくりの熱い闘志を燃やす火を灯した貸しとして、ここは一つ。」
「……………ふむ。いいだろう。
君の言い分はわかる。誰しも手の内は隠したい。
今日のところはそれで納得してあげよう。
それ、受け取るといい。報酬の金貸だよ。」
長い沈黙の後、握り拳より二回りほど大きな巾着袋を投げ渡してきた。
ジャラッという音の通り、かなりの重さだ。
こちらが受け取ったのをみると、エリナを連れて集会所の奥の方へと向かっていった。
一気に肩の荷がおりた感覚だ。
正直言ってかなり緊張した。しかしまあ、何とかなったな。
お金も貰えたし、及第点だろう。
結果的に色々と気を使わず話せる師匠の顔が見たくなった。
漁業の収入が上がるとなれば、助けてくれた命の恩人には間接的に恩返しが出来たと考えてもいいだろう。
とりあえずは聖堂へと戻ることにした。
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