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01. 沈む意識

毎週火曜と土曜0時に一話ずつ更新です

よろしくお願いします

「ん…眩しいな…」


ゆっくりと目を開く。

そこにはいつも通りの天井はなく、代わりにあったのは顔を覆う程に眩しい太陽だった。

昨日の記憶がない。しかもあまりに眩しく目をあけられない。

目を閉じたまま体をぺたぺたと触ると、どうやらスーツ姿であるということはわかった。



おもむろに携帯の電源を入れ、顔を覆うように目の前に持ってくる。恐る恐る目を開き時刻を見る。

表示されたのは午前3時、目覚ましのアラームを設定した時刻よりも30分程早く起きたようだ。

それを確認した時、なんとなく違和感を感じ携帯越しに周りを見る。

どうやら車の中で寝ていたらしい。



しかしどうも外の様子がおかしいな。

サンバイザーを下げ、外を見る。

1つしか無いはずの太陽は、そこにあるはずのない膨大な量の水に反射し揺らめいている。


なんとなく外の空気を吸いたくなり、窓を開けようとする。

カチャカチャとスイッチが動くだけで反応はない。


あぁ、ふと思い立ち車の鍵を回す。

聞こえてくるのはエンジン音ではなく、チャプチャプという水音だけだった。


時間の経過とともに目が覚めてくる。

間違いない。ここは海の上だろう。


自覚すると共に記憶が蘇ってくる。

いつも起きるよりも1時間早く起きた俺は、せっかくだからと早めに家を出発し仕事へと向かった。

しばらく走っていると正面から猛スピードで逆走してくるトラックに気づき、慌てた俺はハンドルを左に切って…


結果、今こうなっているということだろう。

しかしまずいな、昨日は飲みに行ってそのまま寝てしまったせいで携帯の充電がない。

車で充電すればいいという、その考えが良くなかったんだろう。

先程時間を表示したのを最後に、力を使い果たした携帯にはもう、手鏡としての役割しか残されてはいなかった。


つまり今現在助けを呼ぶ手段はない。

家との距離が遠い為、普段から早めに会社に着くようにしていたので、会社の同僚が俺の不在に気付くのは早くても3時間後だ。

朝礼後ともなればもっと後だろう。

外部からの救助は期待できない。


ならばと思い泳いでいこうと思った。

しかし着水してから目を覚ますまでの間で流されたのだろう。

車の窓越しとはいえ、岸辺が遥か彼方にあるのを確認して泳ぐのは諦めた。



そんなふうに考えている間にも、徐々に扉の隙間から海水は侵入を試みている。

既に靴は水に漬かり、靴下がしっとりする程には濡れていることからその努力の成果が伺える。



抵抗するため体を動かそうとはしている。

しかしハンドルを切って橋の手摺にぶつかった時か、着水の衝撃の影響かは分からないが車の下部が潰れている。

アクセルとブレーキのペダルを踏むため、そこにあった右足が巻き込まれた結果、挟まれているので身動きが取れない。

まあ、今更足を戻そうにも遅いだろう。



つまり、今自由に動かせるのは水に浸かった左足か、手持ち無沙汰でハンドルを握っているこの両腕だけ。

とりあえず挟まれた影響でジーンとしている右足の痛みを自覚する前に、持病の腰痛の痛み止めを少し多めに飲んでおこう。


買っておいたペットボトルは空だが、幸い水はこんなにも沢山あるのだ。

少しばかり塩辛いからと気にしていられる状況ではない。

足元に溜まった砂埃でうっすらと汚れた海水をペットボトルで掬い、薬とともに口に含む。


「流石にジャリジャリするな…」


磯の香りが鼻をぬける。意識して飲むとなかなかにまずいものだ。


…さて、やることがなくなってしまった。

俺の望んだほうの手が勝ち続ける一人じゃんけんをして、ルームミラー越しにあっち向いてホイをする。

はじめは高めのテンションでやっていたそれが、たどたどしくなってきた頃だ。


眠くなってきたのか、それともここが海の上だからなのか、頭が船を漕ぎ出しているのに気づく。


あぁ…今はこの眠気に抗う意味もないだろう。

用法用量を守らずに薬を使ったことにより、訪れた睡魔に全てを委ねる。

乗っている車と同じように、文字通り海の奥深くに沈んでいくように…

ゆっくり、ゆっくりと…

深くまで…

俺は命と共にその意識を手放した。

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