068. 王立高等学院に入学してください
大司教様の部屋に戻ってきたのは僕と亡霊の姫様、大司教様、弟子のセナ君だ。
「それで、シジューサンワ嬢が亡霊になった理由、この世への未練はわかっているのですか?」
「それらしい物はいくつか試してみたんですけど」
〈すっきりはしましたわ!〉
「昇天までは行きませんでした」
「ふむ。自分の未練を自覚できていないのか、未練が複数あるのか。
そうですね、それでは、少し私の方からも聞き取りをしてみましょう」
大司教様が姫様にインタビューを始め、手持無沙汰になったので何となく視線を動かす。
と、セナ君がキラキラとした憧れの眼差しで大司教様の方を見ていた。
セナ君は対霊特効スキルを持たないから、亡霊の姿は見えないんだよね。
僕1人が姫様と話してたら頭のおかしい人だと思われて終わりだろうけど、大司教クラスの人の信用は生半ではない。白昼堂々亡霊と話していても、尊敬の眼で見て貰えるんだな。
僕もいつか権力者になりたい。
と、視線に気付いたのか、セナ君がこちらを向いた。
「師匠に伺ったけど、この大聖堂に飛び込んできた時、君はもう1体の亡霊を連れていたんだって?」
「うん、そう。大聖堂を見るのが未練だったみたいだよ」
入ってすぐ昇天って、そんなんで良いのかなって感じだったけど。
未練の内容自体がめっちゃ軽いしな。サイト・シーイングて。入国審査か。
「ふーん、なるほどね。未練の解消を条件に亡霊を従えているのかい? そういう契約なのかな」
「別にそういう訳じゃないよ」
何か知らないけど、勝手についてくるだけだよ。
〈わぁぁ! ありがとうございます、大司教さま!〉
「ふふふ、どういたしまして」
っと、姫様達の方に何か進展があったみたいだ。
「どうでしたか、大司教様。何かわかりましたか?」
〈329番さん! わたくし、学校に行けることになりましたの!〉
「え、学校?」
「学校……ですか?」
僕は姫様の言葉に首を傾げ、姫様が見えないセナ君は僕の言葉に首を傾げた。
「それが彼女の未練ではないか、ということになりましてね。
勿論、手続きはこちらで行いますし、費用等も私個人が負担しましょう」
「え、すみません。亡霊って学校通えるんですか?」
〈無理ですわ!〉
「無理でしょう」
姫様とセナ君が同時に否定してくるけど、僕が言い始めたことじゃないですよね。
「勿論、規則上、亡霊では学籍を得ることはできません。
だから実際に生徒になるのは、彼女の宿主の君ですよ。君が王立高等学院に入学してください。
セナ、君の同級生になりますね」
「そうでしたか。承知いたしました」
何の疑問も挟まずに承知するセナ君。
えっ。何か話がどんどん進んでる。怖いんだけど。
それが姫様の未練だっていうなら……仕方ないけども。
〈329番さん! 嬉しいですわ、ありがとうございます!!〉
「でも、費用負担とか流石に申し訳ないですよ」
「先ほども言った通り、才能と良心を兼ね備えた若者を手助けするのは大人の役目です。
奨学金で通うという手段もありますが、基本的には返済が必要ですし、国との契約に縛られることも少ないですからね。私の名義で支払うことで、私が君の後ろ盾であると知らしめることもできます」
確かに行政への借金にはいい思い出がないけど、何だったら勤労学生として冒険者ギルドで働きながら、と、というのは、うーん。無理だな。
僕は自分の実力を過信することはないぞ。
〈でも、329番さんはロックビーストを1対1で倒した実力者ですのよ?〉
潤沢な回復アイテムを使い切って、ギリギリでね! 二度とやりたくないです!
ムサボリオオウサギ戦もわりと毎回ギリギリでしたしね!
草原の移動中で危機感知スキルに「今すぐ地面に伏せて隠れないと10:0で死にます!」とか言われたのは、噂のヒフキダイダラウサギとかいう奴でしょ! 何か鼻息みたいな音と熱い風が来ましたしね!
冒険なんか二度とやりたくない……!!
そういうわけで、僕は謹んで支援を受け入れることにした。
「そこまで仰るなら、謹んでお受けいたします」
「ふふふ、結構。それでは、受験申込の手続きはこちらで済ませておきましょう。
直近の滞在先が決まれば、またこちらへお越しください」
でも改めて考えると、今回は随分と幸先が良いよね。
王都に来て1時間もしない間に、ひとまずの予定と、信頼できる後援者を得てしまった。
セナ君に送られての帰り際、ウラギール大司教はまた優しく微笑んで手を振ってくれた。
「私はいつだって貴方達の味方ですよ」




