066. 私はいつだって貴方の味方ですよ
「先程は本当にありがとうございました」
「ははは。こちらこそ、同朋が失礼をしましたね」
大聖堂で騒ぎを起こし、警備の人や司祭服の人達に連行された僕は、今回は流石に妥当な扱いだと思ってたんだけど。
引っ立てられる途中で、礼拝堂で信者の人達に説法をしていた、偉い聖職者らしき男の人に呼び止められた。
で、その人に着いていって、今ここだ。何か立派な机とか家具とかある、明らかに偉い人の部屋だ。
「彼等は真摯で善良な信徒ではあるのですが……君と違って、亡霊を見ることができないのです」
偉い人は眼鏡の奥の両目を柔和に細め、穏やかに染み入るような声でそう言った。
曰く、この人も僕と同じで対霊特効のスキルを持っており、実体化していない亡霊を見ることができるそうだ。
それで、僕と亡霊の人達のやり取りを見ていた。
〈わたくしからもお礼を申し上げますわ!〉
「どういたしまして。才能と良心を兼ね備えた若者を手助けするのは、大人の役目ですよ」
姫様とも普通に会話してるし、見えてるのは本当なんだなぁ。
スキルがあるってことは、この人も貴族の人なのかな。
〈ええ、大聖堂の聖職者には貴族や元貴族の聖職者がたくさんいますのよ!
王都に住んでいた頃は、お父様も大聖堂で働いていらしたのですわ!〉
へー。王都はすごいですね。
でも貴族怖いし、今後は大聖堂に近寄るのやめとこ。
「もしかして今、そちらの亡霊のお嬢さんと心の中で会話していましたか?」
「あ、すみません。生きてる人だと、声に出さないと聞こえませんよね……」
〈329番さん……もう少し生きている方ともお話された方が……〉
「僕が亡霊としか会話できないコミュ障みたいな言い方やめてくれませんかね」
最近だと……あっ、そうそう、モッコイさんちの弟さんとは結構話したよ。
ほとんど一方的に捲し立ててた気もするけど。
……と。偉い人の眼鏡が、きらりと光る。
「大変失礼をいたしました」
貴族で聖職者の人の前でやるノリではなかったな。
もう妙な因縁つけられてガチャを回させられたり、鉱山に放り込まれたりするのはコリゴリだよ。
「ははは、気にしなくても結構ですよ。私は貴族と言っても元ですし、継承権も完全に放棄した身です。
それに、聖職者は常に善良な者の味方ですよ」
僕の不安気な顔を見て、偉い人は優しく言う。
細身に銀の長髪で常に笑顔を湛えている様は、初対面の僕にでも、彼の誠実さを感じさせる。
この人なら、信用できる気がするなぁ。
「ところで、そちらのお嬢さんのお父上が、大聖堂にいらしたとのことですが……ひょっとして、バクシースル司教男爵の御令嬢では?」
〈そうですわ! 父を御存知ですの?〉
「やはりそうでしたか。司教男爵には若い頃、大変お世話になりました。貴女にも何度かお会いしたことがありますよ」
そうして、姫様と偉い人は思い出話的なものでしばらく盛り上がっていた。
自分を含めた人が3人いると、自分は喋らなくても済むから良いよね。
「何かあれば、気軽に頼ってきてください。
私はいつだって貴方の味方ですよ」
偉い人は僕に向かって、糸のように細い目で微笑む。
僕はお礼の意味を込めて、静かに頭を下げた。
いきなり話を振られて、咄嗟に声が出なかったのだ……もう少し普段から声出した方がいいな。
とそこへ、部屋のドアをノックする音と、続けて少年の呼ばわる声が響いた。
「失礼いたします、ウラギール大司教。そろそろお時間が」
「すみません、時間を忘れて話し込んでしまいました。少しお待ちください」
大司教だったのか、この人。
大司教がどれくらい偉いのかわかんないけど、司教より偉いのは間違いない。バクシースル司教男爵の後輩で、位階はそれより上ってことか。
〈お話ししていても解りましたが、ウラギール大司教は信仰にも厚く、善良なお心を持った、とても立派な方ですわ!〉
「そうですね、姫様。僕も、この世界で会った中ではトップクラスの信用できる人だと思います」
そんな話をしていると、ウラギール大司教をお迎えに来た少年が、呼ばれて部屋の中に入ってきた。
「紹介しておきましょう。こちらは私の弟子のセナです。
セナ、こちらは迷える魂を救うために旅をしている敬虔な若者ですよ」
「初めまして、セナと申します」
「初めまして」
〈初めましてですわ!〉
姫様も挨拶してるけど、これたぶん聞こえてないですね。
〈残念ですわ……〉
聞こえる人の方が珍しいし、まぁ仕方ないですよ。
「貴方も彼からは学ぶことが多いでしょう。年も近いので、仲良くすると良いです」
「はい、師匠。承知いたしました」
何だか僕の方にプレッシャーのかかる訓示を受けたセナ君は素直に頷くと、「そんなことより!」とウラギール大司教を急かして、礼拝堂の方へ先導する。
僕と姫様も大司教様に呼ばれ、一緒についていくことになった。




