045. いつから僕はおかしくなってたんだ?
いやいやいやいや!
仕方なくないわ!!
うう、痛い、やばい、何だこの状況?
何だこれ、僕は今まで何を考えてた??
取調べでボコボコにされた僕は、医務室で「混乱状態」の診断を受け、精神治療の液薬を飲まされた。
言われるままに飲み干して、数秒。
何だか頭がすっきりするな? と思ったら――この二十日あまりの出来事が鮮明に思い出され、
「ぉおげぇぇぇぇぇええぇ……ッ」
僕はその場で吐いた。
〈お、おい、少年? 大丈夫か?〉
亡霊のプレタさんが心配そうに僕を覗き込む……顔を見て、彼女の頭が破裂し中身が飛び散る光景を思い出し、
「うぶっ……げえぇぇぇぇえ……げほっ、げほっ………」
〈おいテロ少年! 人の顔見て吐くとはどういう了見だよ!〉
〈プ、プレタさん落ち着くっス!〉
うえ……何だこれ。
いや、むしろ何で僕は今までで平気だったんだ。
目の前で人が爆発して、何を素直に受け入れてた?
冤罪で死刑になるかって所で、何が仕方ないって?
いつから僕はおかしくなってたんだ?
そうだ、そもそも……
「はぁ?
神だか何だか知らねーがな、
これは拉致監禁っつーんだよ!
俺達を元の世界に帰せ!!」
そんなこと、正気の僕が言うか?
本気でデスゲームのモブが爆死される所なんか見たいか?
仮に見たかったとして、自分が爆死したいと思うか?
ガス爆発で死んだ、その時には何処かが壊れていたっぽい。
そりゃそうだ。死んだんだから。自分が。
それが「混乱状態」なんだろう。
深呼吸する。
ゲロの臭いで気持ち悪くなった。
「落ち着きましたかな?」
それを見計らって、お医者の人が部屋の隅から声を掛けてきた。
めっちゃ逃げるな、医者。
「……はい、ありがとう、ございます」
ありがとうで良いのかな? これは。
でもまぁ、ありがとうなのかな。
ずっと混乱状態のままよりは……ううん、手遅れ感がすごい。
「僕は、これからどうなるんでしょう」
でも、もうこれ……詰んでるよなぁ。
せめて衛兵が来た時に逃げてれば。
鬱々としてきた。つらい。死にたい。
死にたくはない……。
お医者の人は鉄格子の入った窓を開けて換気している。
そして言う。
「犯行時に混乱状態にあったのなら、減刑はされるでしょうな」
「えっ」
ちょっとびっくりした。
そんな高級な制度があるの。この世界に。
「凡例通りなら死刑なら罰金刑に、罰金刑なら5割から8割の免除といった所ですな。診断書はワシが用意しましょう」
おおお! 助かった! 生き延びた!
「本当にありがとうございます!!」
「何、これが仕事ですからな」
生き延びたなら、どうにかなるかも知れない。
少なくとも、問答無用で死刑よりはマシだ。
とにかく混乱は危険だ。これが状態異常の恐ろしさか。
状態異常付与スキルとか無関係に患うとか、聞いてないぞ。
【混乱耐性:下級】は持ってるけど、状態異常蓄積値の10%軽減だっけ? 計算式とか解んないけど。
全然心許ない……なるべく早くガチャで重ね取りしておきたい。
〈何だかわかんねーけど、助かったみたいだな!〉
〈良かった良かった。今後ともよろしくね!〉
……冷静に考えると、死んだ人が亡霊になって憑いてくるとか、普通に怖いな!!
まぁもう慣れたけども!!




