184. やったか!?
上空の教皇へ散発的に魔法を撃ちながら、作戦通り少しずつ都壁に近付いていく。
普通なら教皇の【読心】スキルで作成も筒抜けになるけれど、感知抵抗スキルによって95%の確率で抵抗できる僕と、70%の確率でスキルに抵抗できる(けど運が良いのでほぼ確実に抵抗成功しているだろう)山本さんだけが作戦を共有した。普通に心を読まれるラヴィズさんは一切の情報を持たず、何となくそれに合わせて動いている。
実際、ここまでは作戦通り、何の問題もない。
壁に近付くのが何のためとは聞いていないけれど、何かあるんだろう。
〈ラヴィズは壁を走って跳べますからね。それで攻撃するつもりなのではないでしょうか〉
えっ何ですそれ。怖い。
ラヴィズさんは何か強そうな槍も持っているし、それなら確かに上手く行けば致命傷、そうでなくとも地上に引き摺り落とすことはできるかも。あとは囲んで殴るだけだ。
ただ問題が1つあって、壁を走って跳べるラヴィズさんなら、ある程度壁に近付けば、当然それを自力で思い付くはずなんだよね。
「教皇が行く先を変えたわ!」
〈……ッ、申し訳ございません、心を読まれました!〉
そうすれば教皇はラヴィズさんの心を読むし、罠に嵌るようなこともない。
「くッ、コナちゃんとコレットちゃんの方に向かってる!!」
うん。
山本さんはスキルやステータスが強いと言っても、ほんの1年前までただの高校生で、冒険者として経験を積んだと言っても、危機感知スキルがあるから本当に危険な相手とは戦わずに来たはずだ。
作戦ミスがあるのは当然。だけど、そのミスによる問題を彼女の危機感知スキルは重く見なかったのだから、そんなミスは簡単に取り返せるんだろう。
「ちょっとで良いから牽制お願い!」
「! わかったわ!!」
教皇が進行方向を変えるのは直前でわかったし、向かわれて困る方向は1つだけだったから、意識と姿勢はそちらに向けていた。山本さんの魔法攻撃を避けて少しだけスピードの鈍った教皇に、念動力の多段ジャンプで跳びかかる。腕の分だけ身体が軽い。バランスは取り難いけど。
「ゴン!? どうやってここまで来たゴンッ!」
魔法を使う余裕はないので、無言で飛び蹴りを入れた。
僕はそのまま地面に背中から落ちたけど、これは耐性貫通スキルや対人特効スキルを持つ教皇の攻撃ではないので、落下ダメージは無い。すぐに起き上がって杖を構える。
対空特効+75%、防御貫通100%を乗せた渾身の蹴りを空中で受けた教皇は、多少態勢を崩したものの、すぐに制御を取り戻す。ただの蹴りだからね。
それでも、攻撃の意味はあったようだ。
「あ、ラッキー。何か盗めた」
完全に無警戒だったんだろうね。多少の注意力があれば容易く抵抗されてしまう、成功率50%の窃盗スキルがほぼ素通りし、結果として僕の左手には教皇の装備の1つが収まっている。
持っていた杖を腰に差し、同じ手で持っていた物を確認すると、何かの宝飾品だった。
「なッ、コソ泥が、我々の宝を盗んだのかゴン!? ゆ、許さんゴンッ!!」
教皇は再び飛び去ろうとしていた姿勢から半転、僕の手元に顔を向けて怒りの咆哮を上げる。
〈【耳飾:枢機卿のピアス】、装備スキルは【状態異常無効】です〉
「状態異常が効くようになった! 何でもいいから当てて!」
ラムダ様情報を噛み砕いて仲間に伝えると、即座にラヴィズさんが出の早い炎弾を飛ばす。
教皇がそれを回避した所に、山本さんの雷撃が突き刺さる。
「ぐわあゴンッ!!」
「やったか!?」
僕は無意識に、そう口走っていた。




