143. 激闘の末
激闘の末、僕は1対23の戦いに勝利した。
〈余裕だったじゃないですか〉
と、横で見ていただけの二本松さんは言う。
いや、大激闘だったでしょ。
どうやら忍者の人に耐性貫通スキル持ちがいたようで、久しぶりに戦闘で傷を負っちゃいましたし。
〈貫通量は5%程度でしょう。唾付けておけば自然回復しますよ〉
手裏剣に毒が塗ってましたし。
〈毒の方は5%程度の耐性貫通では蓄積されないでしょう〉
あと何かありましたっけ。
〈特にないですね〉
ええ……自分としては本当に激闘だった印象なんですけど……。
数が多いから単発の矢では間に合わないし、逃げられてもまずいから視野は広げっぱなしだし。
あっ、あと拘束するのが大変でした。
〈完全に舐めてますよね?〉
そんな話をしている所へ、一時避難していたコレットさんがとっとこ戻って来る。
「ただいまですワン」
「お帰り。大丈夫だった?」
「こっちには誰も来ませんでしたワン」
伏兵なんかもいなかったらしい。それは何より。
「この人達はどうしますですワン?」
コレットさんは、僕の足元で手足を拘束され、目隠しをされ、猿轡を噛まされた23人(全員いた)を横目にそう尋ねる。
「どうしようかな。本当に」
反政府組織の人だから、奉行所に連れて行けば対応はしてくれると思う。
ただ、そうなると事の経緯を聞かれるし、僕が反政府的な立場にいることもバレてしまうだろう。
〈放置すると何をするかわかりませんし、殺すのが楽でしょうか〉
冒険者ギルドがあれば、そっちに丸投げするんですけどねぇ。
この町にだけないのか、この国にないのか……隣町にあったとして、そこまで引き摺っていく訳にもいきませんけど。
あ、そうだ。
「何だっけ。この近所に確か、冒険者ギルドっぽい組合があるんじゃなかったっけ」
「はいですワン。そこでうーうー唸ってる人に聞きましたですワン」
「とりあえず、そこで引き取ってもらえるか訊いてみよう」
「わかりましたですワン」
〈方針が決まったようなので、俺は寝ますね〉
ということでコレットさんに見張りをお願いして、僕はその何とかいう組合を探しに行った。
用心棒協同組合なる組織の受付侍さんに「怪しい連中に襲われたので返り討ちにして捕縛しました」と伝えると、フットワーク軽くわざわざ検分について来てくれた。
「おお……これは賞金首が何人が混ざってござるな」
受付侍さんは、大量の拘束された侍、芸者、忍者を見てちょっと引いたようだった(僕も改めて見るとちょっと引いた)けど、すぐに人相などを確認し、賞金情報と照合してくれる。
「お金がもらえますですワン?」
コレットさんが受付侍さんに尋ねた。
なお、犬人だとバレないよう、既にフード付きローブで顔は隠している。
「ワン……? ああ、お嬢ちゃん。この人達は奉行所から捕縛依頼を受注していたので、生け捕りで連れて来たらご褒美がもらえるのでござるよ」
「すごいですワン! 聞きましたですワン、お兄さん? これだけいれば大儲けですワン!」
「ああいや、流石に全員には賞金もかかってないでござるよ……」
それでも、こっちに来てから収入が無かったから助かるなぁ。
「人数が多いので、応援を呼びに戻るでござる。
それにしても、侍に忍者に芸者に……7の、17の、全部で23人でござるか。これを1人で捌くとは、かなりの腕前でござるなぁ」
「いえ、ギリギリの激闘でした」
二本松さんはもう熟睡しているのか、特にツッコミなどは入らない。
「ははは、御謙遜召されるな。
もし宜しければ、うちの組合に用心棒登録をして、依頼の方も受けて欲しいでござる」
「はあ……依頼ですか?」
もうこの町では、蝙翼人の人達がいそうなお屋敷に潜入して、何があっても、何もなくても、それで終わりにしようと思ってたんだけど。
「勿論、無理にとは言わんでござる。ただ、多勢の忍者を軽く捕まえた腕を見込んで、お願いしたい件があったのでござるが」
何だか厄介そうな話が始まりそうなので、僕は断ろうと思った。
「実は近頃この町では、夜になると……空飛ぶ人のような魔物が出るのでござる」
断ろうとは思ったんだけど、話を聞いた方が良いような予感もした。




