09話 それもう魔法使いじゃない
窓から差し込む光が眩しい
いい目覚めだ...
「おはようございます、お兄さま」
ティアは制服を着て準備万端なようだ
なんのかって?
それは知らないけど
「おはよう」
「おはようございます、フェルさん」
「ああ、おはよう、ステラ」
?
「ステラっ!?」
「は、はいっ!」
ティアはまるでメイドのようにきちっと待っている
それはまぁいつも通りなんだ
そのきちっとした姿勢をステラもしていた
「どゆこと」
「お兄さまは深夜のことを覚えてますか?」
「えっそりゃまぁ」
「その後少し指導したんです」
「はぁ、それで?」
「それだけです」
「...」
ニコッと微笑むティア
こういうのは深く聞かない方がいいんだろう
ステラの顔は少し引きつっている気がするけれど
「深夜...いつベッドに入ったんだろうか...」
「ではステラはダンジョンの方に」
「わかりました、ティアさん」
なにかやり取りしたあと、ステラは部屋から出ていってしまった
とりあえずは
「いつもの教室に向かおうかな」
「そうですね」
向かう途中校内の壁新聞が更新されていてその前に人が集まっていた
見出しには『強奪魔法使い確保?返ってきた魔法』とあった
これを作った人は寝てないんだろうな...
これで賭け勝負をしていく日が続くのだろうか、最近は同じ人で組み合わせが変わるくらいなんだよな
いつもの教室
朝から3人もいて...
「おはよう」
「フェルさん!おはようございます!」
「フェル!特異魔法が帰ってきたんだっ!」
「おはよう!」
ああ、この3人はステラに奪われていたのか
「随分と早いな」
いつもなら
朝だからとか授業で誰もおらず本を読んでいるのだが
今日は賭け勝負が出来そうかもしれない
「魔法が返ってきた時なんですけど何となく威力が強くなってるみたいで」
「あっ!それは内緒だろっ!」
「しまった」
「...まぁとりあえず、賭け勝負、するか?」
◇
「たしかに少し威力が上がったか?」
序盤は遠距離からの弾幕の打ち合い
じりじりと近づき肉弾戦に持ち込む
「うへぇ勝てねぇ...」
3人まとめてだが距離を詰めれば相手にならない
「もうちょい反応よく避けれたら良くなると思うけどな」
「それもう魔法使いじゃないっすよ」
別に魔法使いじゃなくてもいいじゃないか...とはまぁ自分の考えだから言わないけど
ガラッ
「フェールゥ!!」
「お、茶髪」
「ロックだって」
「俺の特異魔法が返ってきたんだぜ!」
「それは良かったな」
「おうっ!だから、やろうぜ!」
拳を構えファイティングポーズをとる
ロック
「...いいね、3人はまだ動けるか?」
「まぁ...」「少しなら」
「よし、4人でまとめてこい、俺の特訓に付き合え」
「ふっ!いいねっ!」
ロックはノリノリだ
「4人なら勝てるか?」
「この人に近距離任せればいいんじゃね?」
「4人とも、準備はいいか?15ポイント、ダメージ量」
「おうよ!」「ああ」「いいぜ」
◇
「...遺跡かな」
近くの岩陰に身を隠す
今回はロックもいる、少しばかり本気を出してもいいだろう
「アイスミスト」
もわもあ...
魔力をふんだんに使い霧を発生させる
この霧は地形の把握に敵の場所の特定
少し溜めれば攻撃にも転換できる
まさに本気、だ
3人...か、ロックがいないな
霧が不自然にうねっている
4つ程のうねりが自分の方に目掛けて移動している
2つは切り裂かれる感覚からストーンボールだろうか
もう2つは...?
「ここかぁっ!」
「なっ!?」
目の前に突如として現れたロック
反応はギリギリ間に合い
拳の応酬が始まる
蹴りを入れたり
ジャンプをして躱わしたり
まぁ魔法使いのイメージからはかけ離れているな
霧に反応がなかった、どこから来た...?
「おらぁっ!」
頭突きをしてくるロック
腹にもろにくらい後ずさる
「うぐっ...」
ロックはほかの奴らとは違うものを持っている、どちらかと言うと自分と同じタイプの肉弾戦型
霧から氷の礫を作り出し当ててはいるがダメージ量は少ない
周りから魔法がとんでくるのに対処をしながらの肉弾戦はきつい、しまったせめて2人にしておくんだった
ガシッ...
拳がぶつかり合い、受け止め合い
つば競り合いの状態になる
「ハァハァ...さすがフェルだぜ...」
「そっちが有利な条件を与えすぎたって後悔し始めてるけどな」
「はっ、よく言うぜ、それでもあと少しとどかねぇ」
ぐっ...ぐっ...
離れようとすると近づく、逃げようとすれば追う
互いにもう少しで設定したダメージ量を超えて勝負がつく状態だ
次の一撃で...
隙を逃さない、作らないように必死で
気が付かなかった
後ろから1人近づかれていた
「...!」
霧で気がつけた、最後まで無言で棒を振ってくる徹底っぷり
「おらぁっ!」
ロックを盾にしてよける
「ぐおっ!?」
ロックに棒が当たり...
その棒は赤くなり、弾けた
「!?」
言葉を発することも出来ずに
意識が薄れていく
負けた...!
◇
「まけたぁ」
爆発に巻き込まれてダメージ量のオーバー
2人は離れていたためダメージなし
「ナイツやるなぁ」
特攻してきた彼はナイツと言うのか...
「ナイスガッツだぜ!」
ロックが背中をバンバンとたたきながらわらう
「ああ、良かったな」
あの最後まで無言を徹底することとか
「いやー上手くいって良かったっすよ、爆発じゃなかったら倒せませんでしたもん」
「お前いつの間に爆発させれるようになったんだ?」
爆発は火属性の修練の先にある、使える人も多くないだろう
「いや、威力が強化された延長なんだよ、これ」
「すげぇー」
「いいなぁ」
ナイツが期待の目を向けてくる
「...そうだな、生き残ってたのは2人だけど決めたのはナイツだもんな」
最初、勝ったら氷魔法の伝授と言っていた、やはりそこなんだろう
「ただ、すぐに伝授すると自分の氷で凍死する」
「えっ」
「だから、使うための準備から教えるよ」
「...うっしゃぁ!」
「まぁ色々と教えてやるよ」
これで対戦相手には困らないな
フェルはバトルジャンキーです
ナイツくんが捕まりました
ティアの方はステラが捕まりました
ステラ...可哀想に