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指風鈴連続殺人事件 ~恋するカナリアと血獄の日記帳~  作者: 須崎正太郎
袴田みなも《はかまだみなも》の日記
93/131

2001年8月6日(月)

 安愚楽くんとふたりで、M高校図書室へ。

 受験を控えている3年生が、机に向かって勉強していた。

 その横をくぐり抜けて、私たちは卒業生の文集などが揃っているコーナーへ。


「こんなコーナーがあったんだね……。図書室には何度か来たけれど、気が付かなかったよ」


 と、安愚楽くんは感心したように言った。

 無理もない。ふつうの人が図書室に来て読む本といえば、勉強系か、小説や漫画の類だろう。

 卒業生の文集なんて、なにか理由がない限り、そう例えば自分の親や兄弟が高校の卒業生とかでもない限り、興味をもったりはしないだろう。


 さてM高校の図書室には、過去の卒業生の文集や、さらには新聞部や文芸部が過去に作った新聞や文集まで、ご丁寧に保管、公開状態になっていたわけだけど、私と安愚楽くんは二人がかりでそれらに当たった。


 その結果。

 ずいぶんと分かったことがある。


 まず21年前、北条凛は、第1の事件の被害者である岡部愛子とは1年生のころクラスメイトだったこと。

 北条凛は文学部に所属しており、詩や小説を執筆していたこと(だから卒業文集があんな変なものだったんだろうか……。どんな気持ちを込めて書いたのか知らないけれど、なんというか『変な自分に酔っている』ような作文だと私は感じた)。


 そして凜は、岡部愛子殺害の2年後にM高校を卒業。

 地元の大学に進学したあと、教師となってM高校に戻ってきた。

 だが、23歳のときに地下室で殺害されてしまった。つまり第2の事件だ。


 北条凛がどういう人間だったのか、もはやいまの私たちには知る由もない。

 なぜ、彼女が殺されてしまったのか。最初の岡部愛子殺人事件について、関わりがあるのかどうか。

 岡部愛子と北条凜が親しかったという記録や証言も、特に見つからなかった。こうなると、もうこちらはお手上げなのだが……。


「袴田さん」


 そのとき安愚楽くんが、何枚かの紙を持ってきた。


「これを見てくれ。これは14年前、つまり北条凛が殺されたころに作られた新聞部の新聞なんだが」


「新聞部の新聞? それがどうかしたの?」


「実はね、北条凛にインタビューした記事があるんだよ」


「インタビュー? インタビューって、なんのインタビューなの?」


 私は怪訝顔を作りながら、安愚楽くんが持ってきた新聞に目を通した。




(筆者注・以下、新聞部の新聞のコピーが日記に貼られてある)




『恋人たちの聖地


生徒諸君は知っているだろうか……。

このM高校の地下には、地下室があり……。

そしてその地下室では、なぁんと! かつて恋人たちが愛の果てに心中をしたというロ~マンチックな話を!


かつてM高校に通っていた男女が、恋に落ちた。

しかしふたりはお互いの両親に交際を反対され、絶望し、この地下で自殺してしまったのダ!

生まれ変わったら今度こそ、愛を貫こうと誓い合って! 泣ける話じゃあ~りませんか! 涙チョチョぎれるネ!

この噂は女子生徒の間でずいぶん広まっているようだ。だからコッソリあの地下室に入り込む子もいるようだネ!


でもでも、この話はあまりにデキスギ……。

そこで我々新聞部はかつてM高校に通っていた北条凛先生に直撃インタビューをしてみたのダ。

恋人たちが心中した話、あれは本当ですか!? そう聞いてみたのダ。


北条先生からの回答:

「そんなのはただのうわさです。つまらない話を生徒の間に広めないように」


一刀両断……。

しか~し我ら新聞部は気付いた。

そう答える北条先生の目はとても泳いでいたのダ。これはぜったいになにかアール。

我々新聞部は今後も真実を追い続け、伝説の真相を必ず解明するのであ~~~~る!!』




「変わったノリの新聞記者だね……。さすが80年代って気もするけど……」


 安愚楽くんは苦笑いを浮かべたが、そんなことはどうでもいい。

 恋人たちの聖地? あの地下室が? ……私は思い出した。

 かつて工藤教諭も、あの地下室のことをそう表現していたことに。




 そして工藤教諭は、14年前、このM高校に通っていたことに。




 第1の事件のころ、M高校に通っていた女子生徒・北条凛が。

 第2の事件の被害者となり、そして第2の事件発生のころ、学校に通っていた女子生徒、工藤桃花が。

 第4の事件が起きたいま、教師となってM高校に在籍し、なにか怪しげな動きを見せている。




 ……少しずつ、点が線になっていく気がする……。

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