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指風鈴連続殺人事件 ~恋するカナリアと血獄の日記帳~  作者: 須崎正太郎
御堂若菜《みどうわかな》の日記
29/131

2001年7月12日(木)

 佑ちゃんとハセガワくんは、今日はお弁当で、わたしたちと一緒にランチターイム。

 みんなでおしゃべりしながら、ごはんを食べた。本当に楽しかった。こんなのが毎日続けばいいのに。

 と、ここで終わっておけばただの日記なんだけど。


 今日はちょっとだけブルー。っていうかコワイ?

 学校帰りに男の人と会ったんだけど、


「こんにちは」


 家の前でいきなり、声をかけられた。

 40歳くらい? の中年の男のひと。髪の毛が肩くらいまで伸びていて、ガリガリに痩せていて、目の下なんかすごいクマができてた。服もヨレヨレのポロシャツで、なんかバッチい感じだった。

 最初は、わたしになにか用があるのかなって思って、はいこんにちは、って返事したんだけど、そのオジサンは、なんだかニヤ~って笑って、わたしのほうをジロジロ見て、


「君ならいいかもしれない。君にしてもらえたら楽になれるかも」


「……はい?」


「あの、これから変なお願いをするんだけどね。気持ち悪がらないで聞いてほしいな。……ボクの頭を撫でてくれない? そうしないと、夜、眠れないんだ、ボク」


 わたし、絶句。

 意味が分からなくて、不気味だった。

 だからずっと黙っていたんだけど、そしたらオジサンは今度いきなり、泣くような顔になって叫んだ。


「お願いだよ。よしよし、いい子いい子って撫でてほしいんだ。あなたは悪くないからね、って言ってほしいんだ! 頼むよ、君のような子じゃないとダメなんだ! 撫でてくれ! ボクの頭を! 撫でてくれ……! 夜ぐっすりと眠りたいんだ!」


 そこから先は、ずっともうその言葉だけ。


「撫でてくれ!」


「よしよしって!」


「撫でてくれ!」


「いい子いい子って!」


「撫でてくれ!」


「あなたは悪くないからねって!」


「……撫でてくれ!」


「よしよしって!」


「……撫でてくれ!」


「いい子いい子って!」


「……撫でてくれ!」


「あなたは悪くないからねって!!」


 これをひたすら繰り返すから、もうわたしのほうこそ泣きたくなって、家に飛び込んですぐに鍵をかけた。

 オジサンは、追いかけてくることもなく、どこかへ行っちゃったみたいだけど。

 いまになって後悔してるのは、そのオジサンが、わたしの家の場所を知っちゃったこと。家の中じゃなくて別のところに逃げたらよかった。うちはマンションとかじゃなくて一戸建てだから、あのオジサン、わたしの家がここだってこと分かっちゃったよね……。


 とにかく怖い。不気味。

 お父さんとお母さんにはもちろん相談した。

 警察に言うべきだってお母さんは言ったんだけど、お父さんは「まだなにかされたわけじゃないし、これだけじゃ警察は動かないよ」って言うだけで、とりあえず様子見って感じになった。


 確かに、ただ声をかけられただけじゃ逮捕はできないと思うけれど……。でも、怖いなあ。

 なんだったんだろう、あのオジサン。

 歩いている人になら、誰にでもああいう声をかけるのかな。


 それとも、わたしが目当て、だったのかな?

 ……まさかね~。

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