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指風鈴連続殺人事件 ~恋するカナリアと血獄の日記帳~  作者: 須崎正太郎
天ヶ瀬佑樹《あまがせゆうき》の日記
23/131

2001年8月18日(土)

 長谷川が殺されてから、俺はずっと家にいた。

 新聞やテレビは見ていたけれど、犯人がまだ見つかっていないこと以外、これといった収穫はなく、それどころかM高校の事件についてはほとんど報道されなくなっていった。報じられるのは、総理大臣が靖国神社を参拝した話題ばかりだ。母親に聞いたけど、そもそも今回の事件はあまりニュースになっていないっぽい。九州の田舎で起きた事件なんて、みんな興味がないってか……。


 あれから警察が、何度か俺に事情聴取に来た。

 俺としては知っていることをことごとく教えたつもり。

 だけど犯人はまだ見つからないのか。無能な警察め。なにをやっているんだ……。


 俺はもう、なにもかもやる気を失っていた。仲間と連絡もとっていなかった。俺から誰かに電話をかけることもなかったし、日中、家の電話が鳴ってもずっと無視していた。我ながら情けないが、正直俺は、恐怖のあまり行動する気力を失っていた。


 勇気といってもいい。若菜を殺されたときの怒りと悲しみは、いまでもまだ持ち続けているけれど、それ以上に、次から次へと続く不思議な事態に、俺自身の精神は完全に参ってしまっていたのだ。だから俺は、もうこの2週間、日記もつけず、ただ自宅に引きこもり、ときどきテレビを見るほかは、ぼんやりと天井を眺めていたり、ゲームをしたりしかしていなかった。


 しかし天井も気色悪い。

 夜、目を覚ますと、天井に死体が貼りついているって夢を見た。

 その死体は若菜だったり長谷川だったりした。若菜たちは俺を恨んでいるようだった。


 ――佑ちゃん、どうして犯人を見つけてくれないの?


 ――天ヶ瀬、オレたちが殺されたことは、もうどうでもいいのかよ?


 そう、責められているようだった。

 だけど、仕方がないだろ。俺になにができるっていうんだ。犯人も事件の真相も、想像さえつかないんだから……。




 もう、このままずっと家にいよう。それが安心だ。

 母親もそう言っている。「外に出たらきっと危ない。若菜ちゃんみたいになっちゃうんじゃないか。あの学校はちょっとおかしい。いまのうちに、転校も考えておいたほうがいいと思う」って。


 うちの家計が苦しいのは知っている。

 母子家庭だし、父親は養育費をろくに払わずにいなくなってしまったからだ。

 いまでは、どこかの女と再婚して、その女との間に娘まで作ったらしい。つまり俺からすると、母親違いの妹が、世界のどこかにいるわけだが……。正直、そこらへんはどうでもいい。


 とにかく。

 生活が苦しい天ヶ瀬家だ。

 あまり引っ越しとか転校とかはしたくないんだけど。

 それでも、こんな事件が連続して起きているんだ。

 本心だけ言えば、逃げたい。この町から、この学校から。


 若菜、ごめん。

 長谷川、すまん。

 だけど俺、もう、怖くて仕方がないよ。


 眠い。

 寝て起きたら、すべてなにもかも夢だったってことにならないかな。

 若菜はちゃんと生きていて、長谷川もバッチリ無事で、みなももキキラもいて、安愚楽も……まあいていいや。

 みんなで学校に通ってさ、勉強したり遊んだり、またビーチバレーしたり……。あのころに戻れないのかな……。


 悔しい……。

 悲しい……。

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