ソード消失マジック事件 3
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「一体どういうことなんですか!? 一体何が!?」
「まあまあ瓶覗ちゃん。落ち着くのが大事ヨ? 慌てず騒がず冷静に観察するってことが大事」
なんでこの人は平然としてるんだろう。わたしは大混乱で今すぐにでも叫びたいっていうのに!
「ねぇー、演劇部の人。さっきこの部室から男子出てきたけど、男子って一人しかいなかったよね? あれって部外者じゃない?」
突然声をかけられて硬直してしまう。
振り向けば、そこにいたのはわたしたちと同じ女子生徒。
だけど、注目すべきはその言葉だ。
演劇部じゃない人間が出入りしていたというんなら、ある一つの結論が導かれる!
「その人! 剣を盗み出して返した人にちがいない! どこ行ったの!?」
「え、あ? あっち、だけど……」
「ありがとう! 先輩! 追いましょう!」
「ちょっとちょっと、あんまり引っ張んないでくれなイ? うぁ~~~」
情けない声を上げる恋愛先輩の手を引いて、わたしは駆けだす。
この胸の中のもやもやを解決できる手掛かりを追って!
「どんな顔かさえも聞いてなかった……」
「あわてんぼうさん、ネ」
その辺を十分ぐらい走り回ったのち、わたしはやっと気づいた。間抜けこの上ない。
引っ張りまわされた恋愛先輩も指摘してくれればいいのに。
「まさかその程度で発見できると思ってるとは予想できなかったワ。思ってたよりも考えなしの猪突猛進ガ~ルだったみたいネ」
「……反論の余地もありません。戻りますか?」
「それがいいでショ。とりあえず現場の様子を見て見ないと、ネ」
とぼとぼと意気消沈しながら(恋愛先輩はずっとけらけら笑っていたのだけど)戻ると、すでに演劇部は集まってきていた。あんだけ騒ぎになっていたんだから当然だといったら当然なのだけど。
「部長! どこに行っていたんですか? こんな時にいないなんて!」
「あはははは。瓶覗ちゃんが暴走しちゃったのヨ。それよりも、城棟ちゃんは?」
縹先輩の問いかけを適当に流しながら恋愛先輩は部室内に入っていく。
わたしもその後を追うと、部室の中にいたのは城棟先輩ただ一人だけだった。
いつもは百合の花の様に凛としたその表情は、暗い。顎に手を当て、眉間にしわ寄せ、さらにはぶつぶつと何かを呟いているのだから、今だけは梅の花ぐらいにランクダウンしているかもしれない。『これはこれで』とかぬかす男子もいるのだろうけど。
「城棟ちゃん、どう? なにか見つかった?」
「部長……いえ、なにも」
訂正。やっぱりこの状態でもきれいだ。わずかに憂いを含んだ表情と相まって、浮世離れした魅力がある。……いやいや、そうじゃなくて!
「う~ん。消失したはずの剣は戻ってきた。しかし、犯人は鍵のかかった部室にどうやって侵入したのか、そして、どうやって鍵をかけて出ていったのか? これで探偵が登場したら完璧じゃなイ!」
「部室に入る手段はあります。部長が持っている鍵以外にも職員室には予備があるのですから。黙って持ってくれば……」
「それは不可能だったりするのヨ。なにせ、ここに鍵は全部あるから」
恋愛先輩がポケットから取り出したのは二つの鍵。どちらも札がついていて『演劇部部室』と書いてあった。
「今日の朝一番に借りてきたから、ワタシ以外に入ることができる人間はいなかったことになるワケ。犯人ちゃんが侵入できないように罠仕掛けたつもりだったんだけど、向こうが一枚上手だったワ、あっはっはっは!」
笑い事じゃないんだけどなぁ……。とはいえ、こうなってしまうと、犯人の可能性が濃厚なのは恋愛先輩ということになってくる。
と、気づいた。
「部長は、剣が消失した昨日は……いえ、一昨日でしょうか……部室には来ていないか、遅れてやってきた。つまり犯行の可能性は低い、と?」
「もしくは何らかの方法によって犯行に及んだかヨ。お互いに疑いあうのはこのくらいにして、練習を始めたほうがいいでショ? はい、全員準備して! 今日はしっかり通すヨ!」
恋愛先輩が手を叩く。
部員たちはのろのろと準備を始める。
城棟先輩も、不承不承といった様子で道具の運び出しを始めた。
わたしは、返ってきた剣をじっと見ていた。
本当にこれは、消失したあの『剣』なのだろうか? どうにも違和感がぬぐえない。
見た感じはそっくりなんだけど、小さな棘が引っかかったみたいに。
ぎくしゃくしながらも練習は進み、結局犯人はわからなかった。
それが一週間前のこと。
おおよその人たちはそれでなんとなく納得しているみたいなんだけど、わたしはいまだに引っかかっている。それは城棟先輩も同じだろう。
そして、わたしは今、この<cafe doll>にいる。
変な金髪のヤンキーさんと、息をのむほどに美しい人形のノウコさん。その二人に少しだけ期待している。
この奇妙な事件の解決を。
「大体はわかったわ。そうね、聞きたいことは一つだけ……もないか。いいわ。謎を解いてあげる」
「はい? え、そんなあっさり了承できるんですか? だって……」
「だっても明後日もないわ。この私が解けるといったら解ける。なにしろ、それが私の存在意義なんだから」
冷たく言い放つと、ノウコさんは手元のマグカップを引き寄せて一気に飲み干した。
あくまで優雅に、それなのに、一切の躊躇なく。
すでに長話によってコーヒーは大分冷めてしまっていたけれど、それでもなかなかの消化器官の強さだと思う。いや、人形だから関係ないのかな?
「ハッハッハァ! ノウコちゃんがお人形さんだからその辺の心配はないさ! むしろ心配すべきなのはお嬢ちゃんの心のほうかな! その時には俺が優しーく治療してやるから安心しな!」
「……はい? セクハラですか?」
何言ってんだこの金ヤン。こんなかわいいノウコさんは見てるだけで目の栄養になるっていうのに。そんなだから彼女いないんだとおもう。セクハラしてくるし。
いや、いるのかどうかなんて知らないんだけどさ。
「杯は干されて謎も解された!」
ガン。
なぜか乱暴にノウコさんはカップを置いた。
なんか不機嫌になるような要素ってあったっけ?




