幕間 外出カフェドール 1
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ぶらぶら街を歩きたくなることもある。
演劇部の照明係という裏方仕事をやっているわたしも、きらきらしたものは好きだ。輝いているものは好きだ。……だから照明係をやっているわけじゃない。それじゃあ輝かせているだけじゃないの。
休日のわたし――瓶覗文緒はカフェに行く。
午後のうららかな日差しを受けながら、オープンカフェ(なんてオシャレ!)で紅茶を嗜むと決めている。この時間だけは、自分が世界一可愛い女子になった気分になれるから。
そう、通常ならそうだ。
今日はそうはいかない。
なぜならば、席に座っている人物の一人に見おぼえがったから。
見間違えようがない。
派手な金髪に、色彩感覚が狂っているとしか思えない色合いのシャツ。そしてサングラス。<Cafe doll>にいた金髪ヤンキー、略して金ヤンだった。
それが、黒髪の美人と談笑していたのだから、わたしの驚きもむべなるかな。
『うげっ!』というはしたない声が出たとしても、誰にも責める資格なし。もちろん、わたし自身にも。
「お!? 奇遇じゃ~ん! ええと…………ゾロ目ちゃん!」
「瓶覗ですっ! 人の名前覚えられんのかっ!」
は!? ついつい突っ込みをいれてしまった!? 高度な会話誘導術に違いない!
ニヤリと笑った金ヤンは手招きしてくる。
誰がそんな誘いに乗るものか! これでも身持ちは固いんだぞっ!
「好きなもんおごってやるから座りなよ~」
「ごちそうになります! あなた思ってたよりもいい人ですね!」
「正直者! 口で失敗するタイプだぁね! ぎゃっはっはっはっは!」
何を根拠に失礼なことをおっしゃる、この金ヤンは。
迷うことなく黒髪の美人さんの隣に座る。こういう時にまごまごするのはみっともないから即断即決! 部長からも褒められるわたしの美点だ。
「……知り合い? なかなかインパクトのある子ね」
「ノウコちゃんに『謎』を持ってきてくれたからねぇ! お礼はしたほうがいいだろ?」
「律義なんだか何も考えてないんだか」
二人の会話を聞き流しながら、わたしは注文を終える。
おごってくれるということなので、普段は絶対に頼まない一番高いスイーツを。
他人のカネで食べるスイーツは絶品だね!
「自己紹介がまだね。私は近国めいら。一応は私立探偵みたいなことをやってるわ」
「私立探偵!? 迷宮入りしそうな難事件とかの解決もやってるってことですか?」
近国さんは答えない。その代わりに、にっこりと微笑んでくれた。
男じゃなくてもクラっときそうなぐらいに、それはそれは妖艶な目つきで。
おお! これは! きっとモテまくってるに違いない!
まさか! 金ヤンも近国さんを狙って!? だからこんなオシャレカフェで二人っきり!? 謎は全て解けてしまった!
びしり! と指を突き付ける!
「浮気してたってことをノウコさんに言いつけられたくないのなら! 今すぐに悔い改めなさい! 黒染めしろ! いい年して金髪なんて!」
「絶対に誤解があるねぇ! でも俺はそれを解く気はないよ! なぜなら! めいらが説明してくれるから!」
「……あなたたち、ずいぶんと打ち解けてるのね」
は! しまった! 今日のわたしはオシャレガールのはずだったのに! ついつい本性が! いやいや、本性なんかじゃないって! これは金ヤンのせい!
「……コホン、ええと……私は別に練場とそういう関係じゃないの。職業柄、ノウコちゃんに救援を求めることがあるから、その顔つなぎみたいなものよ」
「なるほど。あくまで目的はノウコさんであって、この男には髪の毛一本ほどの興味もないということですね。それは安心しました」
なぜか近国さんの顔が微妙に引きつる。そんな変なコト言ったかな?
「ねぇ、この子大丈夫? ヤバいニオイがするんだけど?」
「大丈夫大丈夫! ノウコちゃんのほうがよっぽどヤバいぜ! あっはっはっはグっ!」
金ヤンが変な声を上げるが、そんなのいつものことなので無視だ無視。
そんなことよりも、近国さんと親交を深めるのが最重要事項! 優先順位は一番!
「あ、あのぅ……わたし、瓶覗って言います……近国さん、その……綺麗ですね!」
「あ、うん……ありがと」
んんっ? なんか反応がいまいちだ。
しかし、そんなことでめげないわたし。次なるアプローチは――、
「今度ノウコちゃんと一緒に外出する気はない? ちょっと厄介なことに巻き込まれそうになってて……力を借りたいのよ」
近国さんに奪われた。
真剣な顔をしてる近国さんも素敵だ。具体的に言うと、真っ赤なルージュをひいた唇がセクシー。
だというのに!
「いやいやぁ、それはノウコちゃんが絶対に嫌がるからナッシングだ。無理やり連れてっても、今度はへそ曲げて一言もしゃべらねえぜ? そうなったらただ可愛いだけのお人形さんだ。マスコットぐらいにはなるかもしれないけどっ!」
「そうよねぇ……やっぱ、楽して仕事するってわけにはいかないか。コーヒー代出せばいいだけだし、安上がりでいいんだけど」
「そんなこと言ってると金箔入りをご所望されちまう!」
「金箔程度で済むなら安いもんよ? 人間一人拘束するだけでどんだけお金かかることやら。言っとくけど、ノウコちゃんよりもアンタのほうが人件費かかるんだからね?」
金ヤンはその顔を曇らせる! なんてやつだ! 今すぐにわたしが名探偵の変装をして近国さんと旅行に行く提案をしてみようか? そしたら、むさくるしい男がいなくなって、非常に美しい絵面になる。名案では?
「まーいいわー……どうしても行き詰ったら、店に行くから。そん時はよろしく」
「あいあいよー」
近国さんは財布から三枚ほどお札を取りだしてテーブルに置く。
そして、おそらくはブランド品らしきバッグを持ち、ヒールの音を響かせながら去っていた。
うーん、大人の女性。
そして、残ったのは金ヤンとわたし。
話すことはない。
しょうがない。帰ろう。
「あっはっはっは! 百目鬼ちゃんも帰るの? しゃーないね!」
「瓶覗です。人の名前は間違わないでください」
「仕方ないわ。この男は人の神経を逆なですることにかけては他の追随を許さないのだから」
「まったくまったく! ノウコさんもそう思いますか! わたしもそう思います! ……ん? どこから声が? もしかして幻聴?」




