オカルト研究部式錬金術 2
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「なぁーるほどねぇ! 七咲少年はそんなに物分かりが悪性腫瘍とは思わなかった! 店に来るときには大抵、解くための謎を持ってきてくれるからなぁ」
「ふふふ、だろうな! 彼に関しては俺も多少は成長してもらいたいと思っている! そのために、嫌われようとも試練を与え続ける! それが七咲君のためになるからな! 麦は踏まれて強くなる! 鉄もそう! 人間もそう! そして、七咲君もそう!」
アイスクリーム屋の前で二人は同時に足を止める。
女性店員の声が響くなか、お互いに確信する。同じことを考えていると。
「チョコレートマシュマロミックスフラペチーノスペシャル!」
「チョコレートマシュマロミックスフラペチーノスペシャル!」
再び固い握手を交わしながら、二人の馬鹿はアイスクリーム屋に突撃した。
「うまいうまい。やっぱチョコとマシュマロの組み合わせは殺人的だわ! こんど店でだすかぁ!」
「その時には真っ先に試食客として訪れよう! たっぷり三人前は食ってやるから覚悟しておくことだ!」
「歓迎歓迎! あー……でもなかなかのお値段ってやつ? 千円以上するなんてな! 高校生のお小遣いじゃあ苦しいんじゃね」
「ふふふ! 心配無用だ! 今日の予算はすでに決定している! 予算三千円! 残りはある! つまりまだ遊べるということだ!」
天井知らずのテンションで駄弁りながら二人は歩く。
はたから見たらよほど長い付き合いになのかと思うところだが、今日が初対面である。
そして、二人には共通の目的地があった。
ほどなくしてそこに到着する。
本屋であった。
ショッピングモールの一角を占める、なかなかの広さを誇る店舗。
流石にネット通販には負けるが、それでもかなりの品ぞろえを誇る。
「料理本、っと。最近ノウコちゃんがグルメになってきたからなぁ~。そのうちにコーヒー以外もご所望になるかもしれねえ。予習しとかないとな」
「なるほどなるほど。尻に敷かれているわけだな」
「ノウコちゃんのケツに敷かれても重くねえけどなっ」
「ふはははは…………ん? なんだと?」
「あ? どしたん?」
金切は本棚の一箇所を凝視したままで動かない。
まるで百年来の宿敵にでも出会ってしまったかのように。
専門書の類が納められた本棚にならんでいるのは、おおよそ高校生が買い求めるような代物ではない。
不思議に思った練場が視線を追うと、その先には<錬金術の真髄>という本があった。
「お目当てかい?」
「そうだ。巡り合えるかもしれないと思っていたが、まさか本当にあるとは」
流れるような動作で練場は目的の本を引き抜き、その値段を確認した。
二千円、という数字が小さいながらもしっかりと記載されている。
「おいおい。さっきのアイスクリーム返却できねーかな? そしたら買えるんじゃね? もしくは三千円以上持ってきてるか」
「ふふふっ……その必要はない。ちょうどいい。その本をパラパラめくって錬金術師になってくる」
練場から奪い取るようにして受け取り、中身をパラパラとめくる。
それは本当に”めくる”と言うべきであって、たとえ速読の達人であったとしても、一ページすら内容は読み取れなかっただろう。
「じゃあ錬金してくる」
宣言すると、そのまま金切は会計の列に並んだ。
「おっと、本当に買ってくるたぁ……本物だったみたいだわ、錬金術」
「そうだろうそうだろう! もっと褒めていいぞ! 褒められると気分がいい! 踊りだしそうだ!」
「やっぱ三千円以上持ってたのか? それとも図書カードでも持ってたとか?」
「いいやぁ。それに、確認したはずだろう? 俺の財布に入っていたのは千円札が三枚! それ以外にはレシート一つ入っていなかったと!」
そう、アイスクリーム屋の時に練場は金切の財布の中身を目撃していた。
というよりもマネークリップだったのでお札以外に収納できないというのが正解だったのだが。
他に財布は持っていないのだろう。金切は小銭をポケットに放り込み、歩くたびにちゃりちゃりという音が響く。
他に財布の類いを持っている可能性はないだろう。そうだとしたら見ただけでわかる。
ならば、本当に?
おそらく、この場に他の人物がいたのならば追及したことだろう。しかし、いたのは変わり者が二人。
特に掘り下げることもなく、再会を誓いあい、そのまま別れた。
そして、時間は冒頭へとやってくる。
「ってワケ! まさか日本で錬金術師に会えるなんて思わなかったぜ」
「杯は干されて謎は解された」
話し終えるのと同時にノウコはコーヒーを飲み干し、宣言した。
一片の躊躇もなく、だからといって残虐性を発揮することもなく、事務的な手続きを終えるかのように。
真相に至ったという宣言でもあるが、練場は笑ったままの表情を崩さない。
視線は、猟師が罠にかかった獲物を見るかのようだ。
「言っとくけ、ど! 俺はカネを貸したりはしてねえよ? そんなことするぐらいならとっとと逃げちまうから! 全力疾走による! 全力逃走っ!」
「知ってるわ。お前のつまらないひっかけなんてくだらない……取るに足りない搾りかすのようなもの」
ため息を一つ。
ノウコの視線には退屈が満ちる。これから推理を披露してやったら、短い暇つぶしが終わってしまうという、残念さをほんの少しだけは含んでいた。
「それじゃあ始めるわ」
「始めなよ、始めないと終わらない」
「最初から終わっていたの。なぜなら、嘘は言っていなくても、全てを言っていない」




