非存在系クラスメイト実在論 5
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「その”名前”があってないようなものなんですが」
「あるじゃない。全員それぞれに違った名前が」
そりゃそうなんだけど。
それって名前と呼べるものなのだろうか?
「呼べるわ。いえ、それ自体がすでに本質を曝け出すことになってる。全員が適当に名称を定めている。つまり、名前なんてどうでもいいの」
うん?
「気を付けなければならないのは、本当の名前を隠すということ。だけど、全員の意思統一を図るほどの手間を要するほどでもない――――わかる?」
「わかりません」
「阿呆ね」
否定はしないけどさ!
蔑んだ目で僕のことを見下しつつ、ノウコさんは話を続ける。
「広口の花瓶、花が一輪というのはおかしいんじゃない? だったら一輪挿しを使いなさいよ。水換えが面倒でしょう? ならなんでそんなことをするの? どうせ生徒が換えるから? いいえ、花瓶の用途で使用していないからよ。もっと言うのならば、別に花瓶でなくてもいいから」
…………はい? どういうことでしょうか?
「大体教室の真ん中に堂々と空席があるのがおかしいわ。じゃあなぜ? 答えは、『そこに座ることによってなんらかの不都合が生まれる』。なにかしら?」
考えてみる。
とっさに出てくるものでもないけど。
「時間切れ。次に行くわ。卯の花とかいう人間は言っていたんでしょう? ”姉が呼んでいた”、と。ならば、正体は年単位で存在できるうえに、放置されていても深刻な事態というわけでもない――――そんな存在。どう? そろそろわかった?」
わからない!
さっきから僕は頭抱えてうんうん唸っているだけだ。
一向に幽霊の正体に迫っている気がしない。
「わかった! 正体はクラスで飼ってるハムスターかなんかだろ! その教室で飼育することになってるから、毎年そのクラスにいるってわけ! 実は花瓶じゃなくてハムスターのお家だ!」
「なるべく高い場所から身を投げてきなさい」
「外れたかァー! くやしい!」
練場さんは無視しよう。
考える。
考える。
考えてみるが、ひらめきはやってこない。
「はい時間切れ。答え合わせ。”歴史ばかり無駄にある学校”に”年単位で存在する”、”部外者には教えたくない”――動かせない、存在。それは雨漏りよ」
あ、雨漏り?
「そう、知ってる?」
「そりゃあ知ってますよ。雨漏り知らないってどんな人間ですか」
「でもわからなかったじゃない」
まだだ! まだノウコさんが正解だという確信はない!
「授業中に天井から滴ってきても困るから、そこは空席にしておく。そして、好き放題に散られても困るから下に受け皿を設けておく。今回は広口の花瓶していたようね。水滴を受けられなかったら本末転倒だから、花は挿さないか、一輪だけ。これで花瓶の謎は終わり。着席することを想定していない席だから、当然椅子もない」
「待ってくださいよ! でも! わざわざ机を置いておく必要ないじゃないですか。それこそ床においても……!」
「教室の真ん中に? 蹴るでしょう?」
う! そういわれてみれば。その可能性は十二分にある。
「雨漏りしてて、それを何年も放置しているなんて事実は学校側としては隠しておきたい。少なくとも部外者には。ゆえに箝口令でも布いているのかしら。だからこそ、校外には妙な形で伝わった。意味不明な、幽霊の話として」
ノウコさんはカップを持ち上げて一口。余裕のオーラが出ている。
一方僕は、何とも納得しがたい。
「じゃ、じゃあ話を聞いた人たちはなんで、意味深な態度をとっていたんですか?」
しかも他の人まで呼んだりして! 意味がわからない!
「推測になるけど――学生なんて反抗心の塊でしょう? だったら学校側の目論みを崩壊させてやろうとしたんじゃない? 変人をひきつけそうな怪談を作り出し、その上で自分たちもよくわからない態度を取る。そうしたら、やっきになって真相究明に走る馬鹿がいるかもしれない。今のお前みたいに」
「僕たちは踊らされていたってことなんですか!?」
「そうね、見事にタコ踊りを披露したわ。馬鹿みたい」
ショック! 非常に! なんてこったい!
金切先輩はこの事実に気づいていたのだろうか? だからこそ、あの場では、目の前に知っている人間がいるというに答え合わせをしなかったのか? 彼女が、卯の花先輩が何らかの不利益を被ることを避けるために?
「そこまではわからないのだけど、お前の先輩とやらの調査待ちでしょうね。在校生ならともかく、卒業生までしっかりと口止めできるとは思えないもの。当たるのならそっちよ」
おお……! ん? 待った! まだ一つある! 謎が残ってる!
「呼び方が……呼び方が違いましたよ! その理由は!?」
そう! これこそが一番深い謎だ! 一番の奇妙な部分!
「”雨漏りのことを言うな”、と言われているけど、
”雨漏りのことをこう言い換えろ”とは命令されていない。
定められていないのだから当然、それぞれで勝手にしている。
そうね、その辺り、無駄に設定に凝る男子よりも、女子のほうが素直ね。
『シャバシャバ』だの『ポーター』だの……
水から連想してみたり、水滴の落ちる『ぽたぽた』を名前っぽくしてみたり。
もしかしたらヒントのつもりだったのかしら」
…………はい。
最後の抵抗空しく、一刀両断にされてしまった。
きしきしきしきしきし、きし、きし、きし、きし。
音に気づいた時には、すでに遅かった。
謎解き毒舌人形は、物言わぬおすまし人形へと。
あっさりと謎を解いて。
「う~ん! なかなか難しかったな! あと三分あったら俺も解けたのになぁ! 惜しい! ぎゃっはははははは!」
「いや、絶対無理でしたよね?」
「わかんねぇ~よ? もしかしたらいきなりIQ二万とかになるかもしれないだろ」
その発言がすでに頭悪そうだ。
とはいえ、練場さんなしにノウコさんが素直に解いてくれたとは思えない。
「ありがとうございました」
お礼を言って、僕は<Cafe doll>を後にした。
「七咲君! やっと裏が取れた! 俺の思ったとおりだったぞ! やはりオカルトを追う者としてはきっちりと検証してみることが大事になってくるからな! ところで七咲君は真相に辿りついたのか? まァ、無理だろうな! 仮説でもいいからあるなら言ってみてくれ! もし正解だったらなんでもお願いを聞いてやろう! 嘘じゃないぞ! 俺に二言はない! ほらほら! どうした? ビビってるのか?」
深夜にかかってきた金切先輩の電話に、僕は返す。
後日、金切先輩は一日中語尾に『ありんす』をつける羽目になった。
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