非存在系クラスメイト実在論 4
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「つまり真相に辿りつけなかったから代理で解いてほしいと……低能を晒しに来たのね。なかなか良い心がけよ。成長に大切なことはたった一つ、自分の足りない部分を自覚すること。もっとも、それで成長できるとは限らないのだけど」
開口一番に毒舌が決まる。
今日のコーヒーは四つも角砂糖を投入したというに、なんだかしょっぱい気がするのは気のせいだろうか。僕の心、泣いてない?
いつもどおりに練場さんは適当な椅子を持ってきて、僕はノウコさんの対面に。すでに黒の面積が増えたノウコさんは極めて不満そうに練場さんを睨みつける。
「勝手に豆を換えたわね。ひどい味よ。これじゃあ絵具を溶かした湯でも飲んでいるほうがマシなんじゃないかしら」
「なっはっはっはっはっは! ノウコちゃんにはバレちまうかぁ~! その通り! いつもの豆売り切れで、サ。今日だけはいつもと違うや~つ! でもたまにはいいだろ? 気分転換気分転換!」
「お前の腕のひどさが際立っているわ。今回限りにしておきなさい。次は全身の毛を毟って背中に植えるわよ」
「ぉぉ~こわ。そうなったら四足歩行しないとな! 変わったトカゲみたいでかっこよくねぇ? 怪奇! 背中ふさふさ人間! とか? ぎゃはははははははっ!」
相変わらずこの人の笑いのツボはわからない。たんに極端に浅いだけなのかもしれないけど。
それはそれとして。僕がやることは一つしかあるまい。
「面倒くさいからイヤ」
「お願いしまう。頼れるのはノウコさんだけなんです」
「お前が臭いからイヤ」
「……いわれのない中傷を受けましたが、謎を解いてくれるのなら不問にします」
「練場がむさいからイヤ」
「練場さん、お風呂入ってきてください」
「飛び火したねぇ! 思いっきり! 俺の扱いがひどいねぇ! まあいいけど!」
ふぅ、懐が広いから助かった。短気な人だったら今頃、僕とノウコさんは仲良く〆られていたことだろう。ありがとうございます! 練場さん!
「ひとしきり練場さんいじりも済みましたし、本題に入ってもいいですか?」
「気が乗らないわね」
「ちょいとレアもののコーヒー豆です。お納めください」
「練場、とっとと淹れてきて頂戴。この下水のようなコーヒーは飲みたくないの」
上手くいった。
内心バクバクだったのだけど、通用したみたいだ。
素直にノウコさんが受けてくれるとは思えない。
というわけで、僕は練場さんに相談していたのだ。
その結果、わざとマズいコーヒーを淹れておいて、そこに練場さんの秘蔵豆を献上し、機嫌を取るという作戦。
名付けて! 噛ませコーヒー作戦! ……命名は練場さんだ。僕じゃない。
「ど、どうでしょうか? ここはひとつノウコさんの見事な推理をご披露いただけないかと……!」
へりくだる。
恥や外聞なんて知ったことか!
「そうね、多少は気分がよくなってきたことだし、暇でもあるし、ちょうどいいかもしれないわね。いいわ、提出しなさい、謎を」
「ははぁーあ! ありがたき幸せ」
「人が頭を下げるのを見るのはいいわね。視線を下げずに見下せるんだもの」
その発想はなかったけど。
意外にちょろいノウコさんに僕は話す。
存在しないはずの幽霊の話を。
金切先輩と聞いた話を。
尻尾も掴めない、机の主のことを。
途中で練場さんも加わって、だけど話すのは僕だけ。二人とも話を聞いている。
いつもニヤケ面の練場さんも、鉄面皮のノウコさんも表情は変わらない。
だけど、わかる。二人ともが真剣に聞いているということぐらいは。
二杯ほどコーヒーを消費したところで僕の話は終わった。
すでにノウコさんの前には三杯目。隣にはショートケーキ。
上品な手つきでクリームを掬うと、そのまま小さな口の中へ。
あまったるい砂糖を苦めのコーヒーで流し終え、そのままため息を一つ。
…………こうしていると人間にしか見えない。
「杯は干されて、謎も解された」
「おかわりはもういいのかい? ノウコちゃん」
「持ってきなさい」
「あいあいよー」
今回は決まらないなぁ。
推理はできたみたいだけど。
なら僕がやることは一つ。
「教えてくださいお願いしますこの通りです」
再び頭を下げる。
ふ、そろそろ頭を下げることにも慣れてきた自分がいるのが怖い。なんなら、気持ちよくなってきたぐらいだ。
「お前、悦んでない?」
「…………滅相もない。心の中は屈辱でいっぱいです」
「そう……ならいいのだけど」
そのセリフは絶対に違うと思うんだ。赤い血が通っているのならば。
通ってる可能性は低いけど。
「それじゃあ始めましょうか。馬鹿馬鹿しい性悪幽霊退治を。そうだ、幽霊退治に必要なものは知ってる?」
「お札とか?」
「”名前”よ」




