非存在系クラスメイト実在論 3
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「んじゃぁ、また! 今から友達とカラオケ行くから! 見つかるなよ~」
それじゃあ、また、と。返すことはできなかった。
榎戸先輩が教えてくれた分は、事前に知っていたことと大差なかった。
「なにか隠しているな。このクラス全員ではないかもしれないし、全員かもしれない。どっちにしろ、限られた時間の中で調査するのは不可能に近いな」
眉間にしわを寄せて金切先輩が唸る。
僕としては手を引きたい。調べれば調べるほど……いや、調べても調べても正体がみえてこない。
今のところわかっていることは、
一つ、幽霊の存在はこの教室に依存している。
二つ、幽霊に名前がないに等しいということ。みんなそれぞれの名前を付けている。
三つ、正体については教えてくれないということ。
紫藤先輩も、榎戸先輩も多分正体はしっているのだろう。
だけど、肝心のソレについては教えてくれない。まるで僕たちを試しているかのように、からかっているかのように。
杳として知れない幽霊の正体を暴けるのかと、見物しているかのように。
考えることを放棄したくなってくるのだが、いまだに金切先輩は満足していないようだ。
榎戸先輩からゲットした連絡先の一つに、さっきからメッセージを送りまくっている。
次なる参考人の個人情報は知らない。ただ、「たまには違ったヤツからハナシ聞いてみたいだろ?」という言葉は気になっている。
「よっし! アポイントゲット! しかも今すぐに! 行くぞ七咲君!」
「は? え? イタタタタタタタッ! 引っ張らないでくださいよ!」
金切先輩が僕の腕を掴んで、しかもそのまま走り出したものだから当然のように肩が外れそうになる。
陳情は無視され、僕はそのまま一緒になって走る。
目的地はまだしらない。
生徒会室、と書かれたプレートの前で僕はげんなりする。
あまりいい思い出がないからだ。金切先輩の巻き添えでよくお説教を食らう羽目になっている。というよりもオカルト研究部の巻き添えか。
「よし、行くぞ!」
いやいやいやいや! うそでしょ!? 何言ってんのこの人!?
生徒会とか一番出会ったらまずいでしょ!? かなり問題になる!
そのような判断をする金切先輩でしょうか? いいえ、それはありえない。
「我こそは存在しないクラスメイトを調査しに来た者! とっとと突撃インタビューを受けてもらおうかっ! 否応なしに! じっくりたっぷり!」
「ごめんなさいごめんなさい! 今すぐに出ていきますから学校に言いつけるのは勘弁してくださいお願いします!」
僕たちの声は空しく響いた。
なぜだろうか。それは生徒会室には人間は一人しかいなかったのだから。
眼鏡をかけた、ストレートの黒髪。
制服はきっちりと着こなし、黙々と種類仕事をしている女子が一人。
「あまり騒がないでください。ここは職員室に近いので、あまりうるさいと先生方がやってきますよ。あなたたちはそうなったらまずいのでしょう?」
氷になる直前の水が喋ったら多分こんな感じなんだろう。
冷たいのに、どこか柔らかさというか清廉さを含んだ声だ。
「初めまして! 単刀直入にいこう! キミの呼び方と、あの教室の幽霊の名前を聞かせてくれ! あと知ってること全部!」
一喝されても文句言えない欲の深さ!
だというのに、クール系女子は静かに答える。
「卯の花です。そう呼んでいただけますか? 幽霊、というか、アレのことは『ポーター』、そう呼んでいます。姉がそう呼んでいたので、わたしも。そして、他に教えられることはありません」
卯の花先輩は金切先輩をまっすぐに見る。
落ち着いた、まっすぐな視線。だけど、譲歩の余地はない、固い視線。
なるほど。これは『違うタイプ』だ。
「ほっほうほう! しかしながらなぁ! 今の一言で俺は掴んでしまったなぁ! おそらく、同じ学校ならば話してもいいということを! 他校の生徒には詳細は語れないが、卒業生が在校生に語ったり、先輩が後輩に語ったりするのはセーフ! まだ正体は掴めていないが!」
「そうですか。……まぁ、正しいですね」
「だろう? やっぱり俺という人物の手腕は大したものだな!」
「で? 結局何なんですか?」
「…………まだわからん!」
「そうですか。健闘を祈ります」
うわー。やるなこの人。初対面で金切先輩の勢いを削げた人を久々に見たよ。
が、それとこれとは別問題。
三人目だというのに全く進展していないじゃないか。このままだと骨折り損になる。
「ちょ、ちょっと待ってください! 僕たちも百パーセント野次馬根性っていうわけじゃないですよ! そりゃあ、大半はそうかもしれないんですが……ですが! 真のオカルトを見つけるために、偽物かどうかの判定をしているわけなんですっ! 誰かをからかうとかそういう意図はまったくないんですよ!」
「……なるほど。それが事実だったとしましょう。それでわたしが協力しないといけない理由になりますか? あなたたちと話したいと思ったのはただ一つ、忠告するためです。この先、誰に聞いても同じような情報しか手に入りませんよ。よほどの変わり者でもない限り」
…………どうやら取り付く島もないらしい。
交渉の余地はなさそうだ。
僕は金切先輩を見る。
「んー…………んー? んー? ンー!? …………一つ聞きたい」
「なんでしょうか。答えられるのなら答えますが」
「あの机、動かせないんだろ? だって、動いたら困るし」
なにをゆーとるんじゃこの人は。
幽霊の席なんてどこにあっても同じじゃないか。存在していようといまいと。
そう、そのはずだ。
なのに、
「…………………………ええ。見くびっていました」
「まあな! よっし帰るぞ七咲君! ここに用はない!」
…………………は?
何が起こったんだ? 何がわかったんだ? ドユコト?
「もう会うことはないでしょうから、お元気で」
卯の花先輩の声を背中に、僕と金切先輩は学校を後にした。
当然、僕は問いただす。
一体何を掴んだのか? 本当にわかったか? 出まかせじゃないのか? そんな風に。
「いや、たぶん合ってる。これから裏取りをするから、確信が持てたら話してやる」
はぐらかされた。
すごくもやもやする。
このままだと眠れそうにない。
だから、僕は。
わずか四日間というスパンで、再び<Cafe doll>を訪れたのだった。




