非存在系クラスメイト実在論 2
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「ふぅ~ん。わざわざ幽霊見学のために制服まで揃えるなんて……もしかして変態?」
「断じて違います!」
制服を用意したのは金切先輩だし! 突発的に計画して実行したのもそうだ! 僕は被害者だ!
「まぁなんでもいいや。どうするわけでもないしね。そーゆーのセンセイ達の仕事っしょ? ダルイことはしないんだ、アタシ」
紫藤と名乗った女子生徒は、そんなことを言いつつ教卓によりかかる。
それだけで短いスカートの中が見えそうになるが、僕は決して直視したりしない。もちろん、チラ見したりもしない。
「見ないの?」
「見ません」
「なんで? ドーテー?」
「…………」
黙秘権を行使。
絶対に口を割ることはしない!
しかし、どうやら紫藤先輩(三年生らしいので一応)、かなり開けっぴろげらしい。
おそらくは校則違反なぐらいにばっちり決まったメイクといい、着崩された制服といい、あまり関わり合いになってこなかったタイプだ。
それでも、悲鳴を上げて人を呼ばないでくれるのは助かるけど。
「そんなわけで、だ。教えてくれないか? この教室にいる誰かさんのことを。じっくりたっぷり研究してやるから」
「え~? 『シャバシャバ』のことぉ? でもアンタら他校じゃん」
『シャバシャバ』? それが名前なのか。
…………なんだかやけに薄そうな名前だ。人物名として登場してもぴんとこない。
「そう! その『シャバシャバ』のことを聞きたいね! 毎年この教室にだけいるという存在しないクラスメイト。一体元々は何者なんだ?」
めずらしく真剣な表情の金切先輩。
知ってか知らずか、紫藤さんも困った顔になる。
「そんなのアタシが知ってるわけないっしょ。つーか、オカルト研究部だかなんだか知らないけど、あんまり他の学校の事情にまで首突っ込むのはマズいんじゃない? バレたら停学とかもあるかもよ」
「そんなことは俺の知ったことじゃないな! 知的好奇心を満たすことができるのならば! 多少の困難は覚悟の上! やってくるがいい艱難辛苦!」
「あぁ、うん……そう。でもアタシはこれ以上話すことはないよ。元々忘れ物取り来ただけだから。っつーわけで、他当たってね。ばいば~い」
これ以上の質問は怒らせるだけだろう。
紫藤先輩は自分の席に行き、机の横に引っかかっていたカバンを回収すると、だるそうに教室を出ていった。
…………いや、どうやったらカバンを忘れるんだ?
「手掛かりを失ってしまった。どうしようか? その辺の生徒をしらみつぶしに突撃インタビューしてみるかとか。このクラスに所属する生徒もいるだろ」
「一発で不審者ですね、それ」
あくまで紫藤先輩みたいなリアクションは例外だと思ったほうがいいだろう。
一般的な生徒ならもっと警戒するだろうし、下手したら通報されかねない。
たしかに事情は聞いてみたいのだけど、行き当たりばったりが過ぎたツケが早くもやってきたみたいだ。いつもそうなのだけど。
金切先輩はどうやらまだ花瓶が気になるようで、さっきからずっと持ち上げたり眺めたりして無駄な時間を過ごしている。
……帰りたい。
「お、ホントにいるじゃん。マジかよ! こんちゃー!」
快活な男子の声。
また僕たちは接近に気が付かなかったらしい。野生動物なら五回は死んでいることだろう。
教室の入り口にいたのは、見るからにスポーツマンという風情の背の高い男子生徒。茶髪ではあるが、立ち姿からしてスマートだ。
「おおう! 情報提供者が現れたぞ七咲君! やはり普段から俺の行いがいいからな!」
いきなりテンションがぶちあがった金切先輩に気圧されたのか、スポーツマンの顔の筋肉がほんの少しだけ引きつったのを僕は見逃さない。
さあ! アンタもとっとと逃げたほうがいいぞ! 疲れるだけだから!
「面白いねあんた。俺は榎戸っていうんだ。よろしく」
「俺は金切だ! キミとは仲良くなれそうな予感がするな! こっちは後輩の七咲君! かわいい後輩だ。撫でてみるか?」
「そうだなぁ……今は遠慮しとく」
”今は”ってなんだ、”今は”って。警戒したほうがいいかもしれない。
やはりというかなんというか。
榎戸先輩もこのクラスの生徒だった。
そして、紫藤先輩から送られてきたメッセージによって、僕たちのことを知ったそうなのだ。だからといって、突撃してみようとするメンタリティは理解しがたいのだけど。
「で、あんたたちは調べてるわけなんだろ? 『ゆみちゃん』のコト。どっから知ったのか気になってよ」
…………ん? 『ゆみちゃん』って、なんだ?
「『ゆみちゃん』? 俺たちが調査してるのは『シャバシャバ』だが? 他にもなにかいるのか? だとしたら非常に興味深い」
「は? 『シャバシャバ』? なんだそれ――って、紫藤のやつそんな呼び方してるのか。ダッセェな」
話が見えてこない。
どうやら金切先輩も同じようだ。
肩眉を上げて、榎戸先輩の次の言葉を待っている。
「ああ、悪い悪い。そういや”どんな名前で呼んでるのか”なんて気にしたことなかったわ。もしかしたら全員違ってるかもな」
「どういうことだ? 一体いくつあるんだ?」
「いやいやいやいや、一つだけだって。ただ、みんなそれぞれ好き勝手に名前つけてるってだけのことだよ。何の不思議もないだろ?」
「…………ほう」
頭がおかしくなりそうだ。
ここで一体何が起こっているんだ? 何がいるんだ?
僕たちは、一体なにに首を突っ込んでしまったんだ?




