非存在系クラスメイト実在論 1
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こんにちは七咲です。
宝物。人それぞれ想像するものは違ってくると思う。
単純に貴金属とか宝石を想像するかもしれないし、友情とか絆とか、そういうカタチないものを想像する人もいるかもしれない。
が、僕らオカルト研究部にとっての宝物とは、『研究するに足るだけの奇妙さ』なのだ。
例えカタチあろうとなかろうと、オカルト的であるのならば、そんじょそこらの代物には目もくれずに飛びついてしまうような、歪んだ人間ばかりなのだ。
かくいう僕も、金切先輩ほどではないが、その傾向がある。
ノウコさんのことをあっさりと受け入れてしまったのも、その一端だろう。
先日、僕と先輩はとある暗号解読によって、一つの情報を得ていた。
一体だれが提供してくれたのかは知らないのだが、生物室の蛙の標本の下、挟んであった紙にはとある学校の、とある教室の事情が記されていたのだ。
その教室では、毎年クラスの人数より一つ多い机が運び込まれてくるのだという。
そう、教室なのだ。
クラスじゃない。
これがクラスならば、不幸な事故や病気で世を去ったクラスメイトへの慰霊の意味、なんて風に納得することもできる。
が、まさか教室の地縛霊になっているわけでもあるまい。
つまり、その教室には主なき席が毎年存在しているのだ。
これには金切先輩も大興奮だったようで、情報を得た四日後にはすでに潜入調査の準備を整えていた。
具体的には他校の制服を用意し、タクシーまで予約していた。
なぜか当然のように僕も巻き込んで。
「似合ってるじゃないか七咲君。体格が細いから学ラン着ても番長というわけにはいかないようだけど」
「番長にされても困りますよ。大体、今時いるんですか? 番長」
「いるんじゃないか? いたら面白い」
「面白さを判断基準にしないでください」
運転手さんは黙ったままだ。
当然か。高校生とはいえ、タクシー利用して移動するってどんだけブルジョワなんだって話になる。もっとも、僕はそんなものとは程遠いのだけど。
それはこっちの事情であって、運転手さんが知っているはずもない。
そもそも、下手したら自分の孫ぐらいの年代とどういう会話をしたらいいのかわからないだろう。
はてさて。そんな微妙に気まずい時間は長く続かない。
目的の学校には問題なく到着したし、運悪く創立記念日だった、なんてずっこけもなかった。制服もちゃんと指定のものになっているので、一切怪しまれずに僕たちは潜入を果たす。気分はちょっとしたスパイだ。
「さあいくぞ! ちゃんとカメラも持ってきてるな?」
「いいえ。全く」
「七咲君! キミは! 一体何を考えて生きているんだ!? やる気あるのか!?」
「じゃあ聞きますけど……校内でパシャパシャ撮影している見慣れない生徒がいたらどうしますか?」
「きっと思い出を残すために一生懸命なんだな! うんうん、見守ってあげよう」
「普通の感性では不審者になりますね。警察につかまりたくないので、僕は」
「度胸がないな。精々がお説教どまりだろうに」
その程度、と断ずることができるのはアンタぐらいだ! と突っ込んでやりたかったのだけどぐっと我慢する。いまここで漫才初めてもしょうがない。
無駄に目立つことは避けよう。他校に入るなんて初めてなんだし。
「例の教室は三階だ。一番上まで階段とはね。エレベーターでも設置したらいいだろうに。これだから無駄に歴史ばっかりある学校は」
ぶつくさ文句言ってる先輩のことは無視しつつ、階段を上り三階へ。
放課後ということもあって、人影はまばらだ。都合がいい。
目的の教室はすぐ見つかった。
なんの変哲も――鳥肌が立つとか、瘴気が立ち込めているとかそういう要素――はない。
流石に堂々と入るだけの度胸はなくて、廊下と教室を隔てている窓から内部を窺ってみる。
僕も先輩も硬直した。
どういう状態なのか、多少は予想してきたのだが、意表を衝かれた。
なぜならば、広口の花瓶が載った机が、堂々と教室の真ん中に鎮座していたのだから。そして花瓶には一輪の花が。
普通、そういうのは端っこじゃないか?
「ふふん、ちょうどいい。誰もいないならじっくりと近くで観察してやろう。いくぞ!」
「あ、ちょっと!」
それで待つなら苦労はしない。
オカルト研究部部長、金切侵入!
しょうがないので僕もあとに続く。
教室内の机の密度はそこそこ。少子化が叫ばれる昨今ではあるのだけど、この学校においては生徒数の確保はそこそこできているようだ。
それはさておき。
先輩は遠慮なく例の机を観察している。
それはもう、下手したらそのまま着席してしまうんじゃないかってぐらいに。
「んー、そういうわけにはいかないな。なにせ机はあるが椅子がない。……この花瓶やけに重いな。水を換えるのが大変そうだ」
どーでもいい。
そもそも幽霊の席だとしたら、椅子なんて必要ないだろうに。足もないのにどうやって座るんだ。っていうかすり抜けてしまうか。
いやいやいやいや! そもそも幽霊に席を用意するわけないだろ!
「うーん机。フツーの。お札でも貼ってあったらわかりやすくていいんだが、そこまであからさまじゃないみたいだ」
「そうじゃなくても以上ですけどね」
教室のど真ん中に無人の机、しかも花瓶がON。
これだけ見たらクラスメイトに不幸があったようにしか見えない。
「ところがどっこしょ。この学校では二十年ほど在学中に死者は出てない。当然、今年のこの教室を使っているクラスにも」
「となると、本当に誰の机でもない、と」
不気味だ。
わけがわからない。得体のしれないタイプ。
人間は”わからない”ということが非常に恐ろしいのだという。誰に聞いたのか忘れてしまったのだが、科学が発展してきたのが、そういう人間の本能に基づいているのだとしたら、加速していく発展も納得できそうだ。
そんな風に、余計なことを考えてしまっていたのがいけないのだろう。
「……アンタら、誰?」
僕たちは、誰かがやってきたことに気が付かなかった。




