瞬殺暗号 3
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「杯は干されて、謎は解された」
話し終えるのと同時、ノウコさんはカップを置きながらの宣言。
……早い! しかしながら! 本当に解けているのかどうかはまだわからない!
「解けたんなら……わかりますよね? 僕と先輩がどこに行ったのか? 『宝物』が一体どこにあったのか」
「化学室……いえ、生物室かしら? 蛙の標本ぐらいはあるでしょう? そこ」
「………………………」
「正解は? 合ってるでしょう?」
「…………はい」
どうやら、僕の頭の回転が鈍かっただけのようだ。
先輩もノウコさんも一瞬にして解読してしまった。
ははは! なんて滑稽なんだよ僕ってやつは! 自分の能力の低さを棚に上げて、ノウコさんを試すようなことをしてしまった! 頭脳力がないことを認めたくないばかりに! こんなみじめな思いをすることになってしまった!
「えぇ~~? なんで蛙になるんだよぉ? 全然ワケわっからねえぜ! 実はノウコちゃん初めから知ってたんじゃねえの? 暗号考えたのノウコちゃんだったりしない?」
「練場さん! 貴方だけが僕の理解者です! いままで”金髪ヤンキー”だとか、”頭と格好のイカレたヤツ”とか! 心の中でひどい呼び方をしていたことを謝ります! 僕たち仲間ですよね? 親友!」
「だっはっはっは~! そうだろそうだろ! 俺は全人類の八割とお友達になれる可能性を秘めている男だからなっ! 懐の深さはマリアナ海溝並みだぜ!」
「さすが! やっぱり男同士は分かり合えますね!」
「で、ハナシは変わるんだけど、暗号ってどうやって解読するわけ? ノウコちゃ~ん、教えてくれよォ~!」
は、そうだった! 僕と練場さんはいまだに解読の手法を知らないのだ。
ノウコさんが一体どのような論理によって答えを導いたのか! それを!
先輩はニヤニヤ笑っているだけで、全く教える気はなかったし!
「教えたくないわ。お前たちは一生頭を悩ませていなさい」
「おぉ~? そんなこといってぇ~? 本当はわかってないのかぁ? あてずっぽうだったんじゃねえのォ?」
ノウコさんの瞳がすぅと細くなる。
まるで闇で出来た剃刀の様に。
「ふぅん…………最初の手紙、覚えてる?」
圧倒的なプレッシャーによって、声がでない。
下手に一言でもしゃべってしまったらその瞬間、口の中にナイフでも突っ込まれそうだ。
でも、練場さんにはそんなことは関係ないようだった。
「記憶力いいから覚えてるぜ! 紙にも書いておいたしな!」
「今日”で”わかる。不自然極まりないわ。これが解読の鍵」
空のカップが弾かれて涼やかな音を立てる。
それを合図にしたかのように、ノウコさんの解説は始まった。
「”言葉の奔流”が辞書を表しているのなら、
そして、並んでいたのが本ならば、
当然、図書館という場所の法則を適用するべきでしょう?
並び直しなさい、ちゃんと辞書に記載される順番に。
ああ、一冊だけ離れていたわね。おそらくそれは除外すべきもの。
ちゃんと並べなおした?」
僕と練場さんは必死になって並べなおしていた。
とはいっても、実のところ二冊を入れ替えただけのことなのだけど。
<愛なき獣の慟哭>
<心理学の黎明 ~フロイトから始まった精神の世界~>
<ハイ・ボルテージ>
<たぬきの単語帳! 受験専門500単語! これさえ覚えたら絶対に受かる!>
<妖怪大図鑑。民俗学から見た百鬼夜行読み解き>(離れていた一冊)
これが、
<愛なき獣の慟哭>
<心理学の黎明 ~フロイトから始まった精神の世界~>
<たぬきの単語帳! 受験専門500単語! これさえ覚えたら絶対に受かる!>
<ハイ・ボルテージ>
<妖怪大図鑑。民俗学から見た百鬼夜行読み解き>(離れていた一冊)
こうなる。
「次に、それに割り当てる符号……”今日”という単語。
当然、このままではないわ。おそらくは五文字。となると、”Today”。
一文字ずつ割り当てておいて、正しい並びに直す。
当然、除外する一文字は消えるけど」
T<愛なき獣の慟哭>
O<心理学の黎明 ~フロイトから始まった精神の世界~>
A<たぬきの単語帳! 受験専門500単語! これさえ覚えたら絶対に受かる!>
D<ハイ・ボルテージ>
Toad。
ああ、蛙だ。
蛙が、出てきた。
そういう、ことだったのか。
「あとは蛙が確実にいる場所を探せばいい。
学校なんだから、生物の授業ぐらいはあるでしょう?
説明するのも馬鹿らしくなるほどの、単純さね」
呆れかえっている、と言わんばかりにノウコさんはため息を吐く。
そりゃ、わかってる人からしてみたらそうなんだろうけど、なんかむかつく。
僕じゃなかったら逆切れしてもおかしくないぐらいだ。
「なるほどなるほど! やぁ~っとわかったぜ! そういう仕組みになってたわけな! てっきりこの本の中に隠れたメッセージでもあったのかと思ってたぜ!」
だとしたらノウコさんにも解きようがなかったろう。今回は違っていたのだけど。
「……帰ります。頭を鍛えるために数学でも勉強してます」
正面から切り捨てられてしまった傷心の僕は、とっとと帰宅してヤケ焼きそばでもすることにしよう。三人分ぐらい食べよう。明日の朝食がいらなくなるぐらいに。
会計を済ませて、僕はとぼとぼと帰路につく。
そういえば、言ってなかったことが一つあった。
先輩が見つけた宝物は、オカルト研究部としてはなかなかに面白いものだということを。
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