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瞬殺暗号 2



「いやー! 七咲(ななさき)君! 俺ってやつはモテちゃってこまるねぇ! なんと机の中にこんなものが入っていた! 君は一生(えん)がないかもしれないから、今のうちにしっかりと目に焼きつけておきたまえ! 青春の残り香ってやつになるかもしれん! それがなんらかの怪奇現象に(つな)がってくるのならば(おん)の字!」

「勝手に人を怨霊(おんりょう)かなにかに仕立て上げようとするのはやめてくれませんか?」

「怨霊みたいなものだろう?」

「殴りますよ?」

「冗談だ。高等でウィットの聞いたジョークというやつなだ。もしくはエスプリだ」


 英語だろうが(フランス)語だろうが同じだろうに。

 しかしながら、金切(かなきり)先輩がさっきからヒラヒラさせているモノが気になるのも事実。

 薄いピンク色の便せんに、封をしているのはハートのシール。

 これで果たし状かなにかだったのならば、差出人のセンスはきっと異次元方向に跳躍(ちょうやく)していることだろう。


 微塵(みじん)躊躇(ちゅうちょ)も見せずに先輩は封を開け、入っていた中身(これも当然のように手紙だ)を読みにかかる。

 その顔が、楽しそうに(ゆが)む。

 ああ、これはいじりがいのあるおもちゃを見つけた時の顔だ。

 知らない差出人に合掌(がっしょう)する。

 ナムー。貴女の純情は踏みにじられることが決定しました。


「七咲君、キミも読んでみるか? なかなか挑戦的で面白い」

「え? いや、遠慮(えんりょ)しときますよ。だってそれ(・・)、先輩()てなんでしょう?」

「いいやぁ、特にそのような記述はなかったなぁ。我がオカルト研究部への挑戦状だと思うね、俺は」


 ? なんだそれ。もしかしたら挑戦状じゃなくて苦情の申立書(もうしたてしょ)かもしれない。普段からけったいなことをしてる我らがオカルト研究部にはそういった(たぐ)いの、この上なく当然の文句がやってくる。

 かくいう僕でさえも、生徒会長から直々にお達しをうけたことがあるのだ。

 ”金切のヤツを大人しくさせろ”と。

 あれ? けっこう損してないか? 


「早く読め七咲君! 時間がないぞっ!」

「どういうことですか……あ?」



 本の海にて私は待つ。

 私は灯台(とうだい)。導く光。

 私の先に真相は待っている。

 言葉の奔流(ほんりゅう)、その中に。

 行く先は、今日でわかる。



「怪文書?」

「詩的な暗号だ! 感受性が死んでいるな君はっ! 磨きたまえ!」


 意味不明の文章はどうやら暗号だったらしい。僕にはつまらない授業中に書いた走り書きのポエムにしか見えないのだけど。

 まあ、暗号だったとしても意味不明だ。

 何が言いたいんだよ、コイツは。


「俺にはわかるね。この暗号の意味」

「じゃあ教えてくださいよ。ぜひとも解読結果を知りたいものですね」

「結果はまだわからない」


 おお……とうとう……数秒前の記憶まで!


「そうじゃなくて、本題じゃないってことだ。これは単なる出題場所を教えてくれるだけの道案内。キモの暗号は待っているのさ」

「待っているって……どこで?」

「図書館に決まっているだろう?」




 考えればすぐわかることだった。

 本の海。そんな表現ができる場所は、学校内では図書館ぐらいだ。

 だが、図書館と言っても広い。全部をしらみつぶしにするにはどれだけの時間がかかってしまうのか。


「チッチッチ! すでにそれもわかってる! 『言葉の奔流』! わかるだろう?」

「…………いえ、さっぱり」

「語彙力が足りてないな、七咲君。辞書でも引いて勉強したまえ。たくさんの言葉が(あふ)れかえっているから、詰め放題だ」 

「…………はぁ?」

「鈍いな!」


 図書館内はお静かに。

 この会話は入り口でやっているのでギリギリセーフ。そういうことにしておきたい。

 二人とも口を(つぐ)んで入る。

 独特の匂いが漂う図書館内を迷いなく進む先輩。

 僕はその後を影みたいについていく。


 辿りついたのは誰もいない辞書コーナー。分厚いハードカバーが整然と並んで、いなかった。

 一箇所だけ、その棚一列だけ辞書でも何でもない本が並んでいた。

 しかも、たったの五冊。

 スペースはがら空きで、寒々(さむざむ)しさを覚えるほどだったのだけど、金切先輩は(うなず)きながらそれを観察する。

 左から順に、


<愛なき獣の慟哭>

<心理学の黎明 ~フロイトから始まった精神の世界~>

<ハイ・ボルテージ>

<たぬきの単語帳! 受験専門500単語! これさえ覚えたら絶対に受かる!>

<妖怪大図鑑。民俗学から見た百鬼夜行読み解き>


 最後の一冊だけはやけに離れていたのだけど、この五冊。

 ジャンルも、大きさもてんでバラバラの、統一性のない五冊。

 いや、なんだこれ?

 これがどうしたんだ?

 金切先輩を見る。

 

「ふん、なるほど。…………ああ……わかった! わかったぞ金切君! えうれーか!」

「ちょ、ちょっと先輩! 静かに!」

「静かにしていられるものかっ! これが黙っていられるものか! 瞬殺! まさに瞬殺なんだよっ! やはり俺は正しかった! 暗号とは解かれてしかるべきなんだよ! それが本懐なんだよっ! なんでそれがわからないのかな?」

「シーッ! 口を、閉じてくださいよ!」

「口を閉じたら俺の主張が存在しないも同然じゃないか! ええい離せぃ!」

「黙ってくださいって! マズいですよ!」

「マズいことがあろうものかっ!」

「図書館ではお静かにしてくださいますか?」


 静かな、とても静かな声だった。

 しかし、とても、とてもとても怒っている声だった。

 ギャーギャー騒ぎ立てる僕らは静謐なる図書館からしてみれば、この飢えない異物だったことだろう。番人である図書委員からしてみたら、排除すべき敵に値する。

 ゆえに、僕らは振り向けなかった。

 きっと声をかけてきた人物は、怒りの業火(ごうか)を背負っているだろうから。




「ふぅ、あんなに怒らなくてもいいと思うんだよな、彼女も」

「なんでそこまで自分に(とが)がないと思えるのかが不思議です」

「俺はオカルト研究部部長だからな!」

「…………はい」


 諦めよう。

 そして、もう帰ろう。


「帰るな帰るな。これから宝物を見つけに行くんだからな。地図の暗号は解読したんだから、あとは発見するだけだ」

「いや、どこに行くっていうんですか。職員室にでもいって謝罪行脚(あんぎゃ)ですか?」

「そんな一文(いちもん)の得にもならないことをしてどうする。行くのは一つしかないだろう?」


 そして、僕らはそこへと向かい、見事に『宝物』を見つけたわけだ。

 ただ、僕にはいまだに暗号が解けていない。

 だから、ノウコさんの力を借りることにした。

 そして今、話し終わった。


 さあ、ここからはノウコさんの番だ。

 見事に推理してもらおうじゃないか。

 先輩が瞬殺したこの暗号を!

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