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瞬殺暗号 1


 こんにちは、七咲(ななさき)です。

 僕はいま、再び<cafe doll>に来ています。いや、正確に()べるのならば、ノウコさんの目の前に座って、すでに羽積科(うつみしら)さんにコーヒーを二人分注文し、動き出すのを待っています。

 

 誰の? それは当然、毒舌で性悪(しょうわる)で冷酷で傲慢(ごうまん)で――切れ味鋭い頭脳を持つノウコさんの起動を。


「お()った~♪ 俺様特製濃厚アメリカンコーヒーふたっつ! 隠し味は愛情! う~ん、これが愛される喫茶店の理由ってやつ? だっはっはっは!」


 聞いてないです。聞きたくないです。あと、それはもう普通のコーヒーなのでは?

 言いたいことはたくさんあるのだけど、とりあえずは無視しておく。多分それが正解だと思う。っていうか、反応しても疲れるだけだし。


「少年が冷たいぜっ! せっかく()れたコーヒー冷めちまう! ほらほら、冷めないうちにイッキ! イッキ! 男を見せな!」

熱々(あつあつ)のコーヒーをイッキしても得るのは火傷(やけど)だけじゃないですか?」

「ほかにもあるさっ! …………俺の笑顔とか?」

「タダでもいりません」

「押し売るゾ☆」


 訳の分からないことを言っている羽積科さんは無視しておく。どうせ飽きたらすぐに別のことをしだすのだから。

 そんなことよりも、


「騒ぐな馬鹿ども。お前たちの体液がせっかくのコーヒーに入ったらどうするの? 割腹(かっぷく)しても(つぐな)いきれないほどの大罪よ」


 ここまで罵倒(ばとう)される必要あるの? (しゃべ)ってただけで?

 どうやら燃料(コーヒー)を目の前にしたノウコさんにとって、僕らの(つば)やらなんやらは産業廃棄物並みの扱いらしかった。人の心とかないのだろうか。ないか。人形だし。


 油の切れたドアみたいな音を立てつつ、コーヒーを口に運んだノウコさん。

 肌を除く白の部分が、黒に染まっていく。

 すっかり黒の人形と変身したノウコさんを前に、僕は要件を切り出す。主導権を握らないと。


「ノウコさんって、暗号とか得意ですか?」

「お前が解けなかったからといって私に解説してもらおうなんて(あさ)ましいわ。先輩にでも聞きなさいな」

「な、なんでそれを!?」

愚問(ぐもん)ね。練場(れんば)、説明してやりなさい」


 変なクスリでもキメているかのように大笑いしていた練場さんに話しが振られる。

 が、


「ヒヒヒヒヒヒッ! アーッハハハハハハハハッハッハッハッハッハ! ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ‼‼ ホホホホホホホホホホッ‼‼‼‼」


 自分の笑い方が面白くなってしまっているので使い物になりそうにない。

 「で?」という視線をノウコさんに送る。


「…………役立たずね」

「同感です」

「同感を表明する許可を出していないわ」

「許可貰わないとそれすらも!?」


 傍若無人(ぼうじゃくぶじん)がとどまることを知らないなこの人。……この人形?

 至極面倒くさそうにノウコさんは一口、漆黒の液体を細い喉に滑らせると、つまらなさそうに説明してくれた。


「制服のままなら学校帰り。そして、迷いのない話しの切り出し方は『私に何をしてもらうのか』が明確になっている証拠。そして、お前の周りでみょうちきりんなことをしそうなのは例の『先輩』とやら。ついでに言うと、『こんな話を知ってますか』ではなく、『得意ですか』ときたのだから――――これ以上は冗長(じょうちょう)かしら」


 ぐうの音もでない。

 いささか予測の範囲を超えていないとも言えるのだが、それでも、的中しているのだから反論したほうが馬鹿をみる。反論しなくても馬鹿は見そうだけど。

 まあいい。わざわざやってきた事情は察してくれるのなら話が早い。

 もうコーヒー飲んだんだから、つべこべ言わずに解いてくれないと困る。

 しがない高校生にとっては、六百円ってけっこう重要なんだ。


懇願(こんがん)しなさい。(みずか)(あわ)れみを覚えるほどの(にぶ)さの頭脳を(なげ)きながら、みっともなく涙と鼻水に(まみ)れて」

「出てきた液はノウコさんのカップに投入しますよ」

「そんなことをしたら――――今後一万日間、練場がお前の夢に出るわよ」


 こわ! ……いや、怖いっていうか、疲れそうだ。

 ええい! またペースを握られそうになってる! 正念場だぞ僕!


「勝手に話します!」

「勝手に話しなさい」

「俺も聞いちゃおうかな! ノウコちゃんよりも先に解いて見せるぜ! こう見えてもクロスワードパズルとか得意なんだ」


 一名ほど無視しよう。


「今日の出来事……っていうか、つい一時間ほど前です」

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