寸刻神隠し 2
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「キャンプ行こうぜ! せっかくの大学生活なんだから、もっと充実してないとダメだろ! 若人たちよ、野に放たれよ!」
秋津帆高のそんな一言によって、わたし達四人はキャンプに出発していた。
元々、高校から知り合いだった四人だから出かけることに文句を言うつもりはなかったのだけど、頑強なインドア派であるわたしにとっては厄介事。
「最終的には行くんだからいいじゃない。それとも無理矢理に拉致ったほうがお好みかにゃ? うひひひ」
馬追重。同じ女性だけど性質は正反対だといっていい。
言い出しっぺの帆高と同じで、意味もなく大騒ぎできるタイプ。正直、なんでわたしとつるんでるのかわからない。
「ん、まあ。葵はブツクサいってる時が一番可愛いからしゃーない。もちろん、重はブツクサ言ってなくてもかわいい。つまり、今この場の半分は可愛いってことだ」
水馬健木。飄々としていて、今一つ本心がわからない男。今も助手席でルービックキューブをずっと弄り続けている。
以上三人プラスわたし――蛍香葵。この四人を乗せて、クルマはキャンプ場に向かっていたりする。わたしの願いとは裏腹に。
「テントはどうするのー? あたし男と寝るのはベッドだけって決めてるんだけど?」
「安心しろ! 俺たちはごく健全な男女グループだ! テントは三つ。女性陣用の大きめと、男はそれぞれで一つずつ! 男性陣がテントは張る!」
「さっすが熱血マン~! あとでチュウしてやろっか?」
「ご遠慮被る!」
「俺にはキスしてもいいよ。熱烈なやつを一つ頼むわ」
「健木にはだぁ~め。葵にしてもらいな」
「なんでわたしはそんなことしないといけないの? 罰ゲームにしてはちょっと刺激が強すぎる」
車内で飛び交うのはそんな会話。
他愛のない、日常の会話。
これから怪奇現象を体験することになるなんて、一片たりとも想像していなかった。
到着したキャンプ場はなかなかに整備されていて、炊事場までついていた。
そのおかげで、くたくたになるまで薪拾いをすることもなく、わたしと重は順調に夕食の準備を進めていた。ちょっとばかり早いのだけど、日が沈んでしまう前にやってしまおうという魂胆だ。
その間、男性陣は何をしているのかというと――、
「ペグペグペグペグっ! ペグ打ちは大事だ! 怠ってしまうとテントが飛んでいく可能性があるからなっ! しっかりやっとけ! オーケー! グッド!」
「そりゃあ、隣にご立派なセンセイがいるからこの上なく作業は進むわな」
「先生っ!? ……そうか! そんなに学んでくれるつもりなのか! だったら俺の持つ全てのキャンプテクニックを教え込んでやるッ! 明日のお前はもうセミプロ間違いなしっ!」
「あいよー」
――以外にいいコンビなのかもしれない。受ける印象は反対の二人だけど、それゆえに補完関係というか、カバーしあえるのかも。
ただ、帆高がペグをガンガン打ちまくってるのは少しばかり心配になる。折る気じゃないよね?
「ちょっとぉ~、葵も皮剥いてよぉ。あたしばっかやるのは不公平じゃない?」
「……適材適所」
「いいわけしなぁ~い。じゃがいもは任せた」
「任されたので、にんじんは譲ってあげよう」
「小生意気なぁ~」
カレー作りは進むし、テント設営も進んでいく。
なにごともなく、そして、多少なりとも不気味さを含んだ状態で。
「ねぇ~、そろそろ寝なぁ~い? 明日歩くんでしょ」
もう半分ぐらいは寝ているような半開きの目で重が言う。
とはいえ、わたしも同感だ。
重労働っていうほどでもないが、四人分の夕食を作るのはそれなりに大仕事だったし、その後始末に費やした労力はなかなかのものだった。
「なら寝るか。明日は五時起床! 朝もやの中を散歩しながら、新鮮な空気をいっぱいに吸収しよう!」
「あと四時間ぐらいは寝そうにないな、お前のほうは」
確かに。とはいえ、寝ると決めてしまったら寝てしまうのが帆高という男。その寝付きの良さは折り紙付き。
健木のほうも、眠そうな目つきが更にとろみを増しているし、今晩は休息としたほうがいいだろう。
反対の声が上がることもなく、四人は三つのテントに分かれ就寝した。
しん、静まり返って――いるはずもなく。
大合唱を繰り広げている虫の声でわたしは目を覚ました。
隣で寝息を立てる重は気にならないらしい。こういう肝の太さは見習いたい。見習いたくない部分のほうが多いけど。
「…………ケータイ、は起こすか」
慣れない気遣いをした直後、ふと”散歩”という単語がよみがえる。
朝に散歩するのなら、夜にしても悪いということはないと思う。だって同じキャンプ場じゃん。
すこしは気も紛れるだろうし、心地よい疲労感がやってくるかもしれない。
抜き足差し足で、こっそりとテントを抜け出す。
空には不気味なぐらいに丸い月が浮かんでいた。
月明かりに照らされて、一つのテントが見える。
――――え、一つ?
目を擦ってもう一度。
やはり、見えるテントは一つ。
わたしが今這い出てきたのを含めたら、二つ。
確かに三つ設置したテントの一つが、忽然と姿を消していた。




