街
馬車に揺られること3日、石でできた立派な城壁が見えてくる。関所のような場所で簡単な人定を受けて入ることを許された。
「爺さん…あんた結構偉かったんだな。関所の役人が妙に腰が低くて驚いたよ。」
日本では、関所の役人なんて偉そうで、いい思い出はない。こっちの世界はずいぶん丁寧で腰が低いなと思ったが、そうではない。
周りを見れば、通行者に偉そうにしている役人が目に入る。おそらく爺さんが一緒だから優遇されたのだろう。
「なに…ちょっと顔がきくだけじゃ。老舗の商会じゃからな。」
「顔がきくってのは、何をするにも一番必要なもんだ。」
「まぁ、信頼されとることは自負しとるよ。そうあろうと努力もしてきた。」
「すごい…見て!ヤーノスケ!すごい!人数!」
爺さんと話してると、トーカが興奮して腕を引っ張ってくる。
「ほぉ、これはすごいな…」
関所を抜け、石造りの門を抜けるとそこは大通りなのだろう。店が並び人が忙しなく歩いている。こちらの世界に来て、初めて見る人の街だ。
「ここの殿様は、優秀なんだな。」
「殿様…?ああ領主様のことか。なんでそう思う。」
「住んでる連中の顔を見りゃわかるさ。景気も良さそうだ。」
「フハハハ!そうだ、豊かなのも領主が優秀なのも間違いない。古都ベルトは王国が建国された当時の首都で、遷都が行われた今でも王都ベルクルンに次ぐ第2の都市じゃ。」
「そうか…どうりででかい訳だ。来たばかりの俺たちでも就ける仕事はあるのか?」
「そうじゃな…お前さんの腕なら何処でも雇ってくれるだろうよ。なんなら、ウチの商会で雇ってもいい。」
「ん〜困ったら頼もうかな?そういえばこの国でこれは使えるか?」
そう言って懐から一番価値が低そうな銅銭を投げる。
「な…なんと。」
銅銭を見て、目を見開く爺さん
「どうした?」
「お前さん…これをどうやって手に入れた?」
「?…ああ、えーっと。」
素直に言う訳にもいかないので適当に嘘をつく。
「森の奥の古城で拾ったんだが…不味かったか?」
「いや…不味くはない。あの辺りは龍が住み着き。放棄されて長い。誰のものでもない土地で拾ったなら、所有権は間違いなくお前さんにある。しかし、神話時代の硬貨が銅銭とはいえ未だ手付かずで存在するとはな…」
「申し訳ないが、わかるように説明してくれるか?」
「これは五千年前の神代に使用されていた世界共通通貨と呼ばれる貨幣じゃ。価値は銅貨一枚で帝国大金貨一枚と同等じゃ。」
「…大金貨の価値が今一分からんのだが?」
「そうか…大金貨は王国で最も価値が高い通貨で、金貨なら2枚、小金貨なら10枚、銀貨なら100枚と同等の価値を持つ。ベルト一般市民の年間の平均所得が銀貨80枚程度じゃから…かなりの価値があるぞ。」
うーん、分からん。とりあえず一枚換金すればしばらく生活できそうだ。
「なるほど…爺さん…それ換金できるか。価値があるのは分かったが、使い勝手が悪すぎる。」
「…いいのか?ワシが価値をデタラメに言っとるかもしれんぞ。」
「かもしれないな。だが、この街で爺さんより信頼出来る奴を俺は知らない。それに、当面の生活さえ出来れば問題ない…。」
さらに言えば、この爺さんは俺の強さに利用価値を感じているはずだ。だとすれば、こんなつまらん嘘はつくまい。
「わかった。なら使いやすさと持ち運びを考えて、帝国金貨1枚と小金貨2枚、銀貨20枚、銅貨100枚に換金しよう。あと、両替商もやっておるから必要があれば預かることもできるぞ。」
「両替商…銭を預けられるのか?」
「うむ、必要があればいつでも渡せるし、何百枚も銭を持つのは大変だろう。」
「なるほど、では頼む。」
とりあえず当面の生活費を手元に残し、後は爺さんに預けることにした。
「それじゃ、あの緑の看板の宿屋に1週間は無料で泊まれるように手続きしておいたからの。なんか困ったことがあったらマークス商会に来てトマス爺さんに用事があると言っとくれ。」
「何から何まで悪いな。爺さん」
「なーに…お前さん達は命の恩人だ。古都ベルトにいる間はどんどん頼ってくれ。まぁ、今回のようにワシもお前さん達を頼らせてもらうこともあるだろうしの。それじゃあの!」
爺さんがとってくれた宿に入る。トマスに言われて来たと伝えると
「畏まりました。トマス様のご紹介のヤノスケ様ですね。お部屋にご案内いたしますので少々お待ちください。」
案内された部屋は三人でも広すぎる豪勢な部屋だった。
「ヤーノスケ!ここフカフカ!ここフカフカ!」
トーカが分厚い布団の上で嬉しそうに飛び跳ねている。こんな布団は初めて見た…元の世界でもよくて廃寺の畳、悪けりゃ野宿なんて生活をしていたのだ。
布団で寝るのすら久しぶりなのに、この布団は身体が少し沈み込み、まるで包み込まれるようだ。落ち着かない。
ただ、トーカと古龍はえらく気に入ったらしく早々に寝ようとしている。
「おい…何寝ようとしてんだ。飯を食いに行くぞ。」
そう言うとトーカが跳ね起きた。
「行く行く!」
古龍はあまり乗り気ではなさそうだ。
「主よ竜種はあまり食事を必要としません。水と光があれば…食べ物は嗜好品に過ぎぬのです。」
「そうか…折角の人の街だし、酒でも一緒にと思ったんだが無理強いは「行きます!」
酒という言葉が出た途端にこちらの話を遮って準備を始める古龍…その後、言い出しっぺの俺が引きずられるように飯屋に連れて行かれることになった。




