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世渡り下手な最強の侍は異世界で気ままに生きる?  作者: ミイルキイ
第1章 ボーイミーツガール
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寒風

眼を覚ますと山の中にいた。違う世界と言っていたが今のところ、元の世界と変わりがない。


…狐か狸に化かされたか?まぁ、取り敢えず持ち物を確認する。見れば刀も衣類もずいぶん上等なものに変わっていた。見たこともないような美しく薄い南蛮胴に、見事な細工が施された籠手や大袖、陣羽織、衣類の下には鎖帷子が身につけられている。兜こそないが、これから(いくさ)にでも行くかのような格好だ。


何より刀が見事だ。二尺を超える太刀であるが軽く粘りがある。反りのある刀身は水面を思わせる刃文が美しい。柄や鞘にも赤珊瑚や螺鈿らでん細工が施されており、漆が重ね塗りしてあることがわかる。実用性と芸術性を兼ね備えた素晴らしい業物だ。


あとの持ち物には、米が少しと見慣れない金貨が3枚、銀貨10枚、銅銭10枚が入れられている。


価値がわからないが…とりあえず人がいるところに行けば分かるだろう。


一通り持ち物を確認し、とりあえず近くにあった川に沿って人里を探そうと歩き始める。


半日も歩けば、少なくとも山は抜けるだろう。そう気楽に考えていた。


川沿いに行く方法は1時間ほど歩いたところで頓挫する。落ちた水が見えないほど深い崖に行き当たったからだ。何だこりゃ…底が見えない崖なんざ見たことも聞いたこともない。飛び越えようにも向こう岸は五十間(約90m)は離れている。


さらに、崖を境に景色が一変している。崖の向こう岸に広がるのは広大な砂浜?海は見えないが…と言うより何里も先も見渡せるのだが、建物どころか木の一本すら見えない。


その後、崖の対岸に行くのは諦め、崖に沿って進むことにした。


半日ほど移動すると日が傾いてきたので、寝床と焚き木の準備をする。焚き木を集めていると、近くの茂みから何かが動く音がした。


何かが後をつけてくるのは、ずいぶん前に気がついていた。問題は何につけられているかだ。、前世であれば人間か飢えた野犬、熊くらいのものだろう。


しかし、犬にしては明らかに気配が大きすぎる。足音から察するに人の倍はありそうだ。熊なら食えるな。子供の頃、猟師の手伝いをして肉を食わせてもらったことがある。などと考えた瞬間…!


頭より少し小さいくらいの石飛礫が、自分に目掛けてすさまじい勢いで飛んできた。それを避け、刀を抜く!


「ゴォオオーーーー!」


茂みから叫び声をあげて出てきたのは、赤い肌に2本の角を持つ大男だった。…手には大斧が握られている。


「…地獄はないけど、鬼はいるのかよ。」


乾いた笑いを浮かべて、相手を見る。でかい…8尺(2.4m)はありそうだ。しかし、人型なのはありがたい急所は人と同じと見て良いだろう。


動かないこちらに、怯えているとでも思ったのか。無防備に斧を振り下ろしてきた。まるで反撃を考えていない、その動作は強者の自信を感じさせる。


速い…だが、動作が大きく直線的な動きはひどく読みやすい。


攻撃を避けると同時に鬼の手首を斬りつける。続いて後から来たもう一匹の攻撃を避け、今度は首に斬りつけた。


そこで、手首を落としたはずの一匹が攻撃してきたことに気がつく。慌てて、攻撃を回避し距離を取る。


(…今のは、危なかった…)


感覚のズレを感じる。人であれば、今の攻撃で手首を落とし戦意喪失、首を斬った方は即死だ。


ただ、刀から伝わってきた感触はまるで岩でも切ったような感触だった。たった2撃で腕が痺れる。刀が折れていないことが不思議なくらいだ。


(まずいな…。)


先程とは打って変わり、こちらを警戒している2匹…1匹は右手首に傷を負ってはいるが、戦闘に問題はなさそうだ。


もう一匹も、首から多少出血しているが、戦意を失っていない。


「やれやれ…骨が折れる。」


とは言え、やることは変わらない。急所を斬っていくだけだーーー


「ハァハァ…フー」


乱れた息を整える。何回斬りつけたか分からない。首の後ろを切ったら絶命したが、それ以外を斬っても戦意を失うことがなかった。


化け物め…あと1匹もいたら、危なかった。いや、今の戦いだって、こちらが一撃でも貰えば即死だったろう。


その場に座り込んでしまいたい気分だが、じっとはしていられない。


近くに仲間がいるかもしれないし、血の匂いに誘われて、どんな生き物が寄ってくるかもわからない。どんな生き物がいるか分からない状況で、この場に留まるのは得策ではない。


そのため、鬼から使えそうな物を回収し、すぐにその場を離れ、木の上で休息をとることにする。


「狸に化かされたなんてことはなさそうだな…」


夜空を眺めながら…浅い眠りについた。


朝、茂みを大勢が歩く音で目を覚ます。木の上で息を潜めて様子を伺うと…


どうやら昨日の鬼どもだ。全部で6匹…急所が分かっているので昨日よりは上手く殺せる自信はあるが…6匹は手に余る。


しかも、昨日の鬼どもとは明らかに様子が異なっている。どの鬼も昨日の鬼よりも一回り大きく、鹿のような角や岩のようにゴツゴツした角などそれぞれが特徴的な角を持っていた。直感が危険だと言っている。ここはやり過ごし、後をつけることにする。


もしかすると、集落みたいのがあるのかもしれない。


予想は当たっていた。しばらく歩くと少し開けた場所に集落らしきものがあった。俺はしばらく悩んだ結果…化け物共の集落近くの洞穴に拠点を築き、奴らの生活を観察することした。

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