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世渡り下手な最強の侍は異世界で気ままに生きる?  作者: ミイルキイ
第2章 オーグの王
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長との戦い

もし、長がクレハと一対一で戦っていれば手を出すつもりはなかった。ただ、白いのを大勢で襲わせた手管を見ればその可能性は低いだろうと、来てみれば案の定だった。


先の戦いの敵の首を長の前へ投げ入れ、姿を表すと、間髪入れずに襲ってきた巻き角の鬼を斬り殺し、刀を鞘に収めクレハを見ると…


『何で…何でこっちに来ちゃうんだ!家で待って時間がきたら逃げろと言ったろ!』


やや怒りを含んだ口調でクレハが、こちらを睨んでいる。斬り殺した巻き角の鬼以外は、こちらを警戒しているのか、動きは特にない。


やれやれ、危ないところを助けてやったのに…


「ああ…ただ従うとは言ってない。それに、クレハが死んだらアイツが悲しむ。」


『そんなこと言って君が死んだらどうするんだ?あの子が生きていれば私は別に…君が守ってくれれば…』


「守ってやるさ…もう誰も奪わせやしない。ただ、白いのだけじゃない…クレハも守ってみせる。」


『な…な…馬鹿!そ…それなら、私が長をやる。側近を…』


「いや、クレハはそこで見てろ。その怪我じゃまともに剣を握れないだろ?」


『馬鹿な…君一人じゃ無理だ。』


「任せろ!」


そう言って刀の柄に手をかけ、重心を下げる。事の成り行きを見ていた鬼どもも状況を理解したのか。こちらに構え直し、少しずつ間合いを詰めてくる。


「おい小僧…お前は何者だ?残りの兵たちはどこに行った?」


鹿のような角を持つ…おそらく長が間合いをジリジリと詰めながら話し掛けてくる。なるほど隙がない強いな…


「ん?…ああ、居候みたいなもんだ。それと…あんたが差し向けた兵なら、全員あんたを待ってるよ…」


生きているとでも思ったのか。安堵の表情が浮かび…やや間合いの詰め方が雑になる。刀を抜いていないこちらに油断したのだろうか?そうだ…寄ってこい。今だ!


次の瞬間、間合いに入った長の首が飛んだ。もはや、鬼に手こずることなどない。


残された側近は、長がやられたのを見て唖然としていたが、すぐに斬りかかってくる。先ほどの20数匹の鬼に比べ、よく訓練されているようだ。


こちらに来たばかりの頃に、初見でこの三匹と戦ったのなら、おそらく負けていただろう。もちろん長にも勝てなかった。ただ、こちらに来てからの生活が自分をさらに鍛え上げた。


三匹の攻撃を避け、腕を肩口から斬り、胴を袈裟に斬り、頭を唐竹に割った。勝負は一瞬で終わった。二匹は絶命し、一匹は切られた腕を抑えて蹲る。


「腕が…くそぉ…。ぐぅう」


「おい…長を倒したが、これってどうなる」


あまりにあっけなく長を倒した俺をクレハも信じられないモノを見るように見つめている。


「おい!」


『ああ…君は余所者だが、長との戦いに勝てば長になる権利がある。」


「そうか…この側近はどうするか?」


『勝者は敗者を生かすも殺すも自由だ。抵抗する気もないようだし,どうするかはヤーノスケが決めればいい。』


「うーん…おい。」


「……」


黙ってこっちを睨みつけてくる水晶のような形の角を持つ鬼


「おい、クレハ…お前、腕切られたよな。もう一本の腕でも切っておくか?」


鬼は少し怯えを見せるが、敵意はそのままにこちらを睨んでいる。


「いや…無抵抗の同族を斬るのはちょっと…。」


「…そうか、それじゃコイツに選ばせよう。」


岩のような角の鬼の側に取り落とした大槍を投げてやる。鬼は槍と俺を交互に見て口を開く。


「…なんのつもりだ?」


「だから選ばせてやるよ。一つ!武器を取り俺と戦って死ぬか。一つ!無抵抗で死ぬか。一つ!俺の配下に入るか。十数えるうちに三つから選べ。選ばなければその時点で殺す。一つ、二つ


「殺せ…どうせこの腕では武器も扱えん。詰みだ。」


即答か…


「そうか…なら死ね」


俺は剣を振りかぶり、無抵抗の鬼に振り下ろした。最後まで身動きしない鬼、覚悟は本物だったらしい。


「何のつもりだ?」


鬼は自分のすぐ近くに振り下ろされた切っ先を見ている。


「お前…名を何という?」


命令で汚い事をしたのは間違いないが、覚悟や矜恃はあったらしい。ここで命乞いでもしていれば利用価値なしで殺していただろうが…


「?…ボロスだ。」


「ボロス…俺はお前が気に入った…お前が村の長になれ。」


「馬鹿な!仕えるべき長を殺され、敵に負けた俺が長などになれるものか…。それに片腕では…他の戦士に簡単にやられるだろうよ…」



「今回の件に関わらない連中で片腕のお前に勝てる連中はいるのか?」


「それはいないと断言できる。今回の襲撃には集落の戦士階級が全員参加している。集落に残ったのは全員が非戦士階級だ…いくら片腕になったからといっても俺は戦士階級だ。それ以外の階級に負けることなどない。」


「なら大丈夫だ。今回の襲撃に関わった奴は全員殺した。お前しか残っていない。」


「な…姿が見えないと思ったが…まさか、そんなはずは…」


「全員殺した。じゃなきゃ、クレハの家にいた俺がここにいるはずないだろ。信じられなきゃ、後で見てみろ。」


「…信じよう、長を殺したお前なら可能だろう。よく考えれば、生きているならこちらに来ていなければおかしい。」


「そうか、それでは集落に戻って長が変わったと伝えろ。そして、俺はハグレの家で暮らすから、お前が名代として長を代行することにしろ。まぁ、細かい伝え方は任せる。」


「な…それなら問題はないが、それでお前は何を得る?何のメリットもないではないか。」


「何もいらん…ただ何もないのは不自然か。それなら、年に一度、負担にならない程度で貢ぎ物を寄こせ、あと、クレハが作った薬草や作物と集落の物を定期的に交換できるようにしろ。」


集落を率いるなんて面倒なことはしたくない。それよりはクレハ達と自由気ままに暮らしたい。それに余所者がいきなり来ても混乱させるだけだろう。


「本当に、そんな事でいいのか?」


「いい…細かい取り決めは後だ。…10日後にここで話し合おう。早く行け!」


そう言うと、ボロスは集落の方向に走り去って行った。


『君は本当に無欲だな。長になれば村の物は全て思いのままなのに』


「別にそんなもの…欲しければ自分で手に入れるさ…それに煩わしいのは嫌いだ。」


『ふふふ…君は不思議な奴だ。』


「ただ集落は大丈夫なのか?男手がほとんどいなくなったようなものだろ?」


『ああ…戦士階級なんて畑仕事はしないし、たまに狩に出るくらいで村を守る以外にはほとんど役に立たないよ。逆に負担は減るんじゃないか?戦力的には不安も残るが、もうすぐ元服の男の子もいるし、問題ないだろう。』


「そうか…そんなもんか。」


『うん、そんなもんだよ。それよりも早く帰ってご飯にしよう。あの娘もお腹を空かせているだろう。』


「そうだな…ただ、家で食うのは無理だぞ。」


『ん?何でだ?』


「見たいなら見に行ってもいいが、鬼の死体が大量に転がっている。」


『な…何だと…』


その後、自慢の自宅を見て唖然とするクレハをなだめて、白いのがいる洞窟まで何とか連れて行った。


鬼どもの死体は、ボロスに話すと集落の者に引き取ってもらうことになった。聞けば供養するらしい。ただ、家が再び住める状況になるまで、それから半年を要したのだった。


まぁ、何はともあれクレハの機嫌以外は無事にすんで良かった。

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