新しい生活
白いのの母親を見つけて数日が経とうとしていた。親子水入らずの生活を邪魔するのも悪いと、すぐに人里探しに出立しようと考えていたのだが、クレハに引き止められた。
集落の長が変わったことで、集落との関係が悪化したらしい。ただ、白いのと常に一緒にいては生活に支障が出るので、用心棒兼子守りでしばらく滞在してほしいと懇願されたのだ。
『君は強いし、長や側近以外なら簡単に倒せるだろう。それにあの娘もよく懐いている。厚かましいとは思うが頼むよ。報酬は払うし、食べ物と寝る場所は提供する。基本は安全だ。』
その言葉に迷いながらも引き受けてしまった。白いのに辛い目や怖い思いをさせたくないと素で思っている自分に驚いた。完全に…情が湧いてしまったらしい。いや…父性か?
報酬の内容は分からないが…ただ白いのを見てるだけで食事と寝る場所が確保できる。鬼どもが近づいてくればすぐ分かるし、危険もほとんどない、悪くない条件だと思う。ただ、現状…少し後悔している。
ギギギ…俺の体をクレハが抱きしめている音だ。クレハは白いのと一緒で人の話を聞けない。聞かないのではない聞けないのだ。俺が何度断っても強制的に一緒に寝ることになってしまう。
あれは、ここに泊まった初日のことだった…近場に温泉が湧いており、川原に作った簡易な湯船で汗を流した。
こんなところで風呂に入れるとは思っていなかったので、思いっきり堪能した。これだけでもここに残る意味があった。
温泉から上がり、クレハ邸に戻ると、クレハが湯浴みをさせた白いのの髪を梳かしていた。その姿を見ながら疑問に思っていたことを口にする。
「…部屋は広いが寝床が一つしかないようだが、俺は何処で寝ればいいんだ?」
クレハは毛皮で作られた寝床らしき場所に目をやると
『ん?一緒に寝ればいいだろ。』
「ハイ?」
『この娘とも一緒に寝てたのだろ?それに角が生える前の男児はどの村落でも女達と一緒に寝るのが普通だ。』
「いや…だから俺は元服している。」
『そんな嘘はいいからこっちにおいで』
そう言うとクレハは俺の腕を掴み自分の方に引き寄せた。丁寧にではあるが、素手での力比べでは話にならない。俺は白いのよりも力が弱いのだ。なす術なくクレハの膝の上に座らされる。
何を思ったのか…クレハは俺の髪を梳かし始める。
「おい!何のつもりだくすぐったい!やめてくれ…やめろください。」
「サラサラで綺麗な髪だ。こんな触り心地の良い髪は初めてだよ。」
「人の話を聞けぇぇえ。離せ!おい白いのお前もどうにかしろ!」
暴れる俺を片手で制しながら、なんでもないように髪を梳かすクレハに…側で見ている白いのに助けを求める。
「ふふふ…ヤーノスケも私と一緒。」
「お前も話を聞けぇぇぇ…」
結局、この可愛がりは二人が寝るまで続いた。2人が寝静まったところで寝床を抜け出そうとするが…クレハの腕がキツすぎず、緩すぎずで俺の体をしっかり抱きしめている。
そして足には白いのが絡みついており、身動きが取れない。詰んだ…
別に不快ではない。ただ、白いのはいいのだが…クレハの柔らかな感触が問題だ…情欲を抑えられない。だいたい、白いのみたいなガキならともかく健康な男が女と寝ればだいたいこうなるだろう。
その後、何度も現状の変更を試みるが、その度に話を聞かない2人に尊厳を踏み躙られた。
5日が過ぎた頃、俺は現状を変更することを完全に諦めた。2人の間で寝るのも悪くない。そう考えて今日も寝ることにする。ちくしょうめ!