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Hunter's guild

 私達は地下街を歩いていく。砂漠に出た時は早朝だったからか余り感じなかったが、少し混雑が落ち着き始めた時間帯とは言っても、ずいぶん人が多い。狭い地下に何万人も住んでいれば仕方がないが。人口と言う点では今の時代は前世の頃の百分の一とかまで減っている。その為色々と滞ったり政治システムや警護等の様々な部分で不都合が起こったり、かなり混沌としているようだ。

 この時代の犯罪者の取締りは地下街毎の管理役員である区画長等がハンターを雇う形で行われているようだ。つまりは私達が対人戦闘を行う可能性も有ると言う事か。


「むしろうちのクランは積極的に対人任務を受けている。今居ないメンバーは捜査や巡回に回っているな」


 ハルさんが説明してくれる。このクランが対人任務を引き受けるのは、単純に他のクランが信用出来ないかららしい。大規模クランの中には犯罪者と繋がりを持つものも有るらしく、それならば、と言う事だろう。分からなくもない。自治権を握っているクランは複数有るが、もし抗争何て事になれば少なくない人間が死ぬ事になる為、余程の罪を犯したものは身内から叩き出される。それを徹底する事で自治権を持つクランの信用は高まるそうで、それも見込んでファタリテートは自治任務をこなしているようだ。捕らえるのは主に重犯罪者中心で、その為にハンターが命を落とす事も少なくはないらしい。その事を予め話しておきたかったのだろう。この話が終わるとハルさんは何処と無くホッとしたような顔をした。


「まあ客分にそんな仕事はやらせないがな。着いたぞ」


 私は別に「自分が撃たれても人を殺すなんて出来ない」とかぐずるような性格でも無いが、気を使われるならなるたけ関わらないようにしよう。それでも覚悟は決めておかなくてはな。

 ギルドはやはりと言うか、小汚ない建物だった。およそ二十メートル以上は有りそうな低くない地下ブロックの天井までの高さが有るので、中々に大きな組織だと分かる。


「こっちだ」


 ハルさんに案内されて受付に向かう。と、ヒロユが私を隠すように左側を歩く。……ああ、また自分の容姿が婆じゃなくなってるのを忘れていた。変な男に絡まれないようにしてくれたんだろう。

 ハルさんには何となく気後れするのでヒロユの右腕に腕を絡める。ヒロユは少しギョッとしたが、絡まれるのを防ぐ為に恋人の振りをすると言うこちらの意図は分かっているのだろう、抵抗はしなかった。流石に男がいる女には声を掛け辛かろう。


「エマ、新人のハンター登録とクランへの仮加入、討伐証明の処理を頼む」

「畏まりました」


 エマと呼ばれた受付の女性は流石に小綺麗にしていた。好感が持てる。私が持つカガミ博士に渡された住民証とイーターを倒した後にゴツいおっさんにもらった討伐証明書を彼女に手渡した。


「登録はすぐに済みますが暫くはあちらでお待ち下さい。登録費用はどうしますか?」

「クランで持つ」

「了解しました」


 費用が掛かるのか。今は金が無いからな。ここはハルさんに甘えるしかない。


「済みません、ハルさん」

「なんでハルにだけ敬語……」


 愚痴るヒロユにハルさんはニヤニヤしながらからかうような事を言う。


「人徳だろ、ヒロユ君」

「ちょっハルまでヒロユ呼びかよ! 流行ったらどうすんだ!」


 ヒロユの狼狽っぷりをみて、前世から持ってきた私のいたずら心にも火が着いた。それほど望むならぜひ盛大にヒロユ呼びを流行らせるか。そう思い立つとヒロユの腕に抱きつき、自分のキャラとは完全に違うがギャルっぽく絡む。


「ヒロユ~、ごはん奢ってよ~!」

「ばっ、声がでけえよ!」


 お前の声の方がずっとデカいがな。お陰で私達はすっかり目立ってしまっている。私達を囲っている人の大部分がニヤニヤしているのは、ヒロユが、いや、ファタリテートが有名な証拠かも知れない。元々ハルさんは英雄視されているので注目の的のようだし。


「ねえねえヒロユ~お腹空いた~!」

「分かった! 奢るから黙れ!」

「ヒロユさん、いつまでも受付の前で騒がないで下さい!」

「そうだぞヒロユ!」


 私の弄りにエマさんとハルさんまで乗ってきて、ヒロユは泣きながら私に引き摺られ食堂と思われるギルドの奥へと連行されるままになった。





 この、ギルド内の食堂は流石に綺麗に清掃されていた。メシを作っているのはゴリラみたいに大柄で色黒で序でにアゴヒゲも伸ばしているむさ苦しいマッチョキャラのおっさんだが、几帳面なのかも知れない。

 さて、私はもう今回の人生では積極的に料理をする気力も無いのだが、美味いものは食べたい。不味かったら文句は出るかも知れないが他の人のご飯を食べたい。……料理を作ると色々と思い出しそうで、少し辛い。


「おう、可愛い嬢ちゃんだな! 何にする?!」

「野菜炒め」

「俺もそれで良い。あとビール」

「はいよっ! 野菜炒め二丁! それと生中!」


 おやっさんの声が馬鹿デカイがオーダーを皆に伝えるのは大切な事だ。ここまでは好感が持てる。だが、大事なのは味だし、野菜炒めは意外と難しい料理だ。これでこの店のレベルが分かるだろう。


「はいよっ! おまち!!」

「いただきま~す」


 威勢の良いゴリラなおやっさんが自分でカウンターに皿を並べる。従業員の可愛いお姉さんはいるのに自分で皿を持ってきたのは評価されたいと見て良いのかな? 私は両手を合わせてから今の時代に似合わない竹の割箸を手に取り、その出来たばかりの熱い野菜炒めを口に運ぶ。

 ……結論から言うなら糞不味い。恐らくは粉末出汁を大量に使っているのだろう、味が濃すぎる。粉末出汁は私も使うが癖が強いので使い方は工夫しないと駄目なのだ。野菜は葉野菜も根菜も同時に炒めているのだろう、汁は出過ぎだしキャベツは煮えすぎ、なのにニンジンは芯が残ってる。胡椒もキツく、肉は煮たようになっていて焦げ目は無くそれなのに火も通り過ぎてパサパサになっている。


「どうだい嬢ちゃん! 美味いか?!」

「糞不味い」

「な、なにぃっ!?」


 そう言えば私の外見はまだ子供にも見える。流石に完全否定されると思わなかったんだろう。おやっさんがワナワナと震え、ヒロユも顔を青くしている。これは仕方がない、私の失敗だ。


「厨房と材料貸して」


 私の料理もそんなに派手な物ではないが一応居酒屋を開けていたのだ。これよりはマシだろう。本当なら料理をしたくはなかったのだが絶対と言うほどではない。自炊はしただろうし。ここは自分が悪いので料理をしよう。おやっさんを押し退けて厨房に入り、野菜炒めを作る。粉末出汁は使わず、ある物を使う。シンプルな物を選んだのですぐに出来上がりだ。カウンターに座らせたおやっさんとヒロユの二人に皿を出してみる。


「具は豚肉とキャベツだけかよ」

「ふうん、まあ、おやっさんのよりは見た目は綺麗だな」

「シンプルな方が腕の差が分かるだろ。食ってみな」


 私が勧めると二人はキャベツから口に入れる。しゃきしゃきと気持ちの良い音がすると、二人の動きは止まった。


「な、なんじゃこりゃあ……」

「しゃきしゃきであめえ。しかも全く青臭くない……。こりゃおやっさんの負けだわ」

「もっと食ってみな」


 私が勧めるまま二人はガツガツと野菜炒めを食べ進める。


「肉は焼けて焦げ目も綺麗に着いてるのにそんなに硬くなってない」

「焦げた薫りもしっかり着いてるし胡椒の薫りも強い。なのに胡椒辛くなってない……」

「美味いだろ?」


 私の言葉に二人は大きく頷いて「美味い!」と、声を揃えた。やはり美味しいと言われると嬉しいな。少し泣きそうだ。


「しかし出汁も使ってないのに何で美味い?」

「出汁は豚肉から出てる。レシピ知りたいか?」

「頼む!」

「俺も知りたいぞ!」


 簡単だ。まず豚肉は油を使わずに焼いて醤油と、そしてインスタントコーヒーを少量焦がして混ぜ合わせる。それをざっと肉に絡めたら芯を削ぐように包丁を入れたキャベツを入れ、フライパンを振りつつ少し炒めたら蓋をして火を止め、蒸す。一分、置いてから更にざっと混ぜながら軽く炒め黒胡椒を振って混ぜ、絡めたら出来上がりだ。仕上げの時に豚肉が焼けてないようでは論外だけど火は通しすぎないように気を付けて。味見をして塩気が足りなかったら普通の塩を加えるといい。


「本当に簡単じゃねえか……」

「それでこれだけ違う物が出来るのか」


 まあこの程度の手間と工夫でかなり美味いとなれば、料理も楽しくなろうってものだ。

 今世ではやる気が無かったがやっぱり私は料理が好きらしい。何となくまた沢山料理を作り皆に振る舞うようになる気がしていた。






 もう一作連載するつもりなので更新は三日に一回くらいです。

 このお話では「なんで主人公料理上手にしたかな~」と思うことが多いです。

 実際詰まってますw

 なので、料理はおまけと考えてくださると有り難いですね。


 今回のレシピでは豚肉が全体の材料の比率として多いのでその旨味や脂味が生きていますが、食材を足すなら味を足す工夫が必要になります。粉末和風出汁とか便利ですけど使い方は難しいですよね。加えるとしたら玉ねぎとか美味しいですね。野菜炒めは難しい、それが伝われば幸いです。

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