Q.悪役令嬢になりました。どうしますか?
悪役令嬢になったらどうしますかという問いに、真っ先に思い付いたことがこれだったんです。
基本会話は少ないです。
私は気が付けば、白い空間に居た。
「こんにちは。あなたは先ほど死にました。」
ここは何処かと、辺りを見渡していると女性の声が聞こえた。声の元を辿ろうにも見渡す限りの真っ白い空間が、どこまでも続いている。
「混乱されるのは仕方ありません。」
ここは死後の世界でしょうか?
「ええ。しかし、正確には死亡した魂が転生する間に来る場所ですが…。」
転生する?記憶を持ったままということでしょうか?
「はい。記憶を保持したままの転生など本来は無いのですが、今回は特例です。」
特例…。特例を設けられるようなことをした、ということでしょうか?
「はい。異世界転生協定・特例事項5条2項に基づきあなたには記憶保持をしたまま、転生していただきます。」
特例事項…。ちなみにそれってどんな内容とか教えていただいても?
「すみません。私には権限がありません。」
つまり…、教えていただけないと?
「はい。そういうことです。」
それでは、転生する世界については?
「…流石ですね…。」
え?
「いえ、失礼しました。あなたには、とある世界で発売された『World Destruction~恋せよ乙女達~』というゲーム内の悪役令嬢の一人に転生していただきます。」
…は?
「魔法、精霊などの一通りのファンタジー要素が盛り込まれた世界ですので、説明を省きます。」
え?ちょ、ちょっとお待ちください!!
「待ちません。どうやらゲームの内容などに心当たりが無いようですので、わたしからのヒントを一つ。あなたは学園へ入学します。その学園がゲームの舞台になります。」
はぁ、せっかちな御嬢さんだ。もうちょっとあなたの声を私に聞かせて―――
「な!!そそそ、そんなこと言っても駄目です!!」
女性の声が慌てるようにして、言葉捲くし立てると私の意識は次第に薄れていった。
「恐ろしい方です…。魂だけの状態で口説きに来ますか、普通。」
「ね。面白い方でしたでしょう?」
際限なく広がる白の空間で二人の女性が話し始めた。
「ええ。まさか特例事項5条2項が機能するとは思いませんでした。」
「ふふ。私も“お姉さま”に会うまでは想定外でしたわ。」
「“お姉さま”ですか…。」
「あら、私ったら。“地球”での癖が抜けてませんね。」
「特例事項5条2項。」
「“神または神に準じる存在から心から愛された魂は、娯楽系統世界の悪に転生すること”、ですわね。」
「ええ。まったく胸糞悪いものです。」
「そうは言っても、力の譲渡は禁止をしていないじゃろ?」
二人の声に、しわがれた老いた男性の声が混じる。
「そうですが、この場合において力の譲渡は繋がりがなければいけません。それにある程度の神格も必要です。後者はともかく前者の条件が厳しすぎます。」
「善行による転生は数柱、多くて数十柱の加護を得られるからのぅ。」
「ふふ。あなた“も”お姉様に何か授けてたじゃない?つまり私とあなたの計二柱の加護を得たのですよ?お姉様なら余裕ですわ。」
「そうかしら?」
「そうじゃろぅ。」
「さぁ、お姉様の転生人生を見に行きましょう?」
そうして、三つの声は次第に消えてゆき、後にはただ際限なく続く白が静寂を吐き出し続けるだけとなった。
△△△
『白銀の君』、『氷華』、『氷帝』などの数多の通り名を擁するのは、王国に存在する五公爵の一つジーブル家の長“女”、アリス・ジーブル。
彼女の銀色の髪は、光が当たるたびに、輝き方を変化させるようにやや癖がついていた。ブルーサファイアのような色の瞳は垂れ目がちの瞼の内側で確かに煌めいている。その瞳は吸い込まれるようだと錯覚を起こす者も少なくない。
凹凸の少なめの体型、手足は細く、きめ細やかな白い皮膚もまた彼女の魅力の一つだろう。
総じて、美しいと言える彼女だが、その通り名は君やら帝など、男性に用いられるものが多い。その理由は…。
「ア、アリス“お姉様”。ああの私これ作ってきたんですが、ご一緒に食べませんか?」
「あら、美味しそうですわね。中庭などでどうかしら?」
「は、はい。」
緊張した様子の少女は、アリスの後をに続こうとして、緊張のあまり足をもつれさせた。
咄嗟に、アリスは右手で少女の片手を取り、左手は彼女の腰に添える様に支える。
「お嬢さん、お怪我はありませんか?」
少女を支えるアリスの後ろに、少女のみならず周囲の人間は華が咲くのを幻視した。
お気付きだろうが、アリス・ジーブルは、悪役令嬢として転生した転生者だ。転生するうえで神様から与えられた力は二つ。“氷系統の魔法への高い適正”、“使用するごとに増える彼女自身の魔力”だ。前者は、その代わりに他の系統の適性が平均以下に。後者はこの世界の誰もが同じ条件であるが、その増大量が1か2の違いである、ただそれだけの能力。
彼女にとっての最大のチート能力は前世の成熟した精神を宿していたことだろう。それによって彼女は幼児期より魔力を消費し、その魔力は今なお増大し続けている。
さて、そんなアリスに支えられている少女は、アリスとは対照的に癖のない艶やかな明るいブロンドの髪を腰まで伸ばし、小さな顔と鼻、口に溢れんばかりの大きな碧眼。全体的な印象は大きな小動物。
そんな彼女も、アリスの“彼女”である。この場合の“彼女”は俗に言う“恋人”という意味だ。
アリスの彼女の名前は、キャミラ・アイリーン。アリスからは、「お嬢さん」又は、「ミラ」と呼ばれている。彼女はアイリーン伯爵と妾の間の子で長らく庶民として暮らしていたが、母である人が死んだ後に伯爵家に迎えられ、貴族の子息達が通う王立魔導第一学園に通うこととなった。通うことになっても元は一般市民。マナーのマの字も知らないキャミラを快く思わない人もいる。
ここまででご察しの通り、キャミラは『World Destruction~恋せよ乙女達~』の主人公である。
そして、キャミラに対し最初に手を差し伸べたのが、彼女アリスである。
アリスは、主人公であるなら、それなりの特殊性があると考えたので、貴族関連の小さな噂まで、公爵家の暗部を職権を用いて、噂を集め一人の主人公候補を上げることに成功した。それがキャミラである。
「お嬢さん、道に迷ってしまったんだけれど、講堂へはどう行けばいいかな?」
入学式。アリスはキャミラにそう声をかけた。明らかに不審者である。
しかし、キャミラはお人よしであり、天然だった。変な人だと思いつつ、講堂まで連れたって会話をする。
しかしながら、変だと思った時点で、通報すべきであった。キャミラは、アリスが独自に開発した記憶を探る術を受け、アリスはキャミラが好ましく思う人物像に沿いつつ、自分らしさを会話に混ぜ込み
「あ、この人、良い人だ。」
とキャミラに思わせる作戦を決行していたのだ。
勿論、これは相当なコミュニケーション能力と詐欺技術と匠な話術があってこそである。
そして、アリスにとっても予定外が起きた。キャミラに告白されたのだ。アリスにとってそれは真に予定外であった。
だが、考えてほしい。男子からちやほやされるレベルの美少女が、自分と違う平民であればプライドの高い貴族はこぞって嫌がらせをし、男達は常に彼女の制服の上からでも分かる膨らみに無遠慮な視線を寄こす。
そんな貴族を社会的に脅し、男達の間に常にその身を盾にし庇ってくれる人がいることを。
そんな毎日を過ごす内に、友愛は親愛さらに恋愛へと変わっていった。
キャミラは悩んだ。アリスは同性である。この胸の内を曝け出せば、アリスはどう思うか…。それが堪らなく恐ろしかった。
時は進み、自分の一個下の“女”生徒からアリスが告白されているのを、キャミラは“偶然”見てしまった。暇さえあれば、アリスを追いかけまわしているのに偶然と言い張るくらいならさっさと告白すればいいのに…。
さて、そうは言っても偶然見てしまったものは、仕方ない。それよりもアリスの対応だ。彼女は女生徒に対して微笑み、
「嬉しいよ、子猫ちゃん。でも私は君のことを何も知らない。まずはそこからどうだろう?」
そうのたまった。要するに友達から始めようと。
だがキャミラは、自分に都合のいい変換を行った。同性の告白も嬉しいと。互いの事を知れば付き合っていいと。自分は、アリスと一年もの間、よく話した。
これはいける。そうキャミラは、確信した。
翌日、キャミラはアリスに告白した。
これにアリスは、それは表情に出さなかったが、酷く狼狽した。まさか、“前世に続き”同性から告白されるとは思ってなかったからだ。しかし、キャミラは可愛い。その頭を慈しむ様に撫でるアリス。瞬時に真っ赤に染まる頬、耳いやキャミラの顔全体が真っ赤だった。
その反応は、“前世で付き合っていた彼女”と同じ反応でついおかしくて笑ってしまった。
ここに、“教師”と“生徒”の同性カップルが産まれたのだ。
つまり、
Q.悪役令嬢になりました。どうしますか?
ーA.主人公を落としま“した”。
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