あなたがいいんです!
ページを開いてくれて有難とうございます・・・
「はるちゃん、今日はどんな髪型にしに来たの?」
ニコリと笑ってそう言ってくれたのは、心の癒しの元。私のお気に入りの美容師、大谷誠也さん。
笑う時のエクボと細められた左の目の下にある黒子がなんと言ってもセクシーだ。
お気に入りとか言って、私は、あんまり美容室に通うような人間じゃない。半年にいっぺんとか、枝毛がすっごく気になって切りに行くとか、雑な人間に入るし。それに大谷さんの美容室は、個人経営で一人でやっていていつも予約制で電話するのが少しだけ苦手って言うのもある。
言ってる事の矛盾!って言われたらなんとも言えないが実は私の職場の先輩の従兄弟さんなのだ。だから、話だけはいつも聞いてるのだ。いつもって言うのは、ストーカーじゃないわよ!ただ、先輩が同じルームメイトってだけで、その愚痴を聞いてるのだ。
「えと、今日は、パーマあててもらおうと思ってきました。あと、長さも揃えて欲しいです。」
「前回は、ストパーだったけど、その前はパーマだったよね。あの時のような感じかな?」
あの時って、よく覚えてるなぁ。一年半?くらい前の話なんだけど。記憶力いいって、結構、ポイント高いと思うんだよね。
「そうです!襟足の所でくるくるっと。前髪は、残しといて欲しいです。仕事中に髪の毛あげれるて楽なんで。」
「おっけ。前回の事ちゃんと覚えてるよ。前髪も襟足よりも長めが嬉しいんだよね?それと、染めるのはなし?」
「ええ。今回もなしです。」
大谷さんは髪の毛を触りつつ、眉をよせた。
「はるちゃん、焦げ茶とかの方が軽めに感じるけど、ほんとにいいの?勿体ないなぁ。絶対似合うと思うんだけどなぁ。気になるんだったら、少しした後でもきてよ?やって上げるから。」
私は、初めてここに来た大学1年のことを思い出した。
髪の毛が重く見えるんです。量が大くて、野暮ったいってよく言われるんです。どうすればいいんでしょう。
そう、私は尋ねたのだ。
あの時、伸ばしっぱなしにして、人に触れるの触れられるのが嫌だった髪を思いきって切りにきたのだ。
そしたら、綺麗な髪の毛だねと、褒めてくれたのは大谷さんなのだ。
それなのに、染めるなんて勿体なくて無理だ。
私の気持ちが解けていく時でいい。彼のことが、彼にある、このなんとも言えないが暖かい思いが無くなるまでは。
「はるちゃん?」
ぽけっとしてたら、呼ばれて、我に返る。
「お仕事は、どんな感じ?涼がいつもお世話になってるみたいだけど。なんか、言いたいことあるなら俺からガツンと言ってあげたりするけど?」
少し、茶化した感じに言われる。涼とは、先輩の事だ。
「いえいえ、こんな新米を優しく教えてくれる先輩なかなかいないです!有難いですよー。」
そう、私は新卒2年目なのだ。最近慣れて来たかなっと思って、やっとパーマを当て直しに来たのだ。
「半年にいっぺんとか、二ヶ月に一回とか来るのになかなか来ないから心配してたんだよ。よかった。涼に虐められて無いんだね。何かあったら、愚痴りに来ていいからね?」
「有難うございます。愚痴なんでとんでもないですよー。失敗したら、怒られますけど、尻拭いばっかりしてもらった上に飲み物よく奢ってもらってるんです。やっと、最近、それも無くなって来てる感じなんです。」
少しだけ職場を思い出し、嬉しくなり笑うと、鏡から見える大谷さんの作業を私は見つめることにした。なんだか、機嫌が良くないのか眉が中央に寄っている。あれ?なんか、悪いこと言っただろうか。じーっと見ていると、気づかれたのか目がガチっとあう。
恥ずかしくなり、目をそらすが耳まで赤くなってるのはバレバレですごく恥ずかしい。
その後、恥ずかしいのを隠すために職場の出来事をベラベラと喋った。何を喋ったか、全く思い出せない。勿体ないことをしたと思う。
色々お願いしたせいか、時間がかかったが綺麗にふわふわとしたパーマがかかった。最後にセットするためにワックスを塗ろうとしている。
大谷さんは、ワックスを手のひらに広げながら何を思ったのかニコッと笑った。
「はるちゃん、もしかして恋でもしてる?なんか、だんだん、すごく綺麗になってるよね。さっきから涼の話ばっかだけど涼がのことどう思う?」
ドキッとする。恋?初めてそんな話する。とゆうか、本人にそんな話することなんて・・・
大谷さんをもう1度鏡越しにみる。じーっと見られている。
「へ?」
バレた!?と、焦り大谷さんから慌てて目をそらす。
「はるちゃん!」
薄い手袋をぬぐとぺしっと床に投げ捨てた。
あれ?なんか、怒ってる?
座っている椅子を蹴るようにしてがちゃんと固定されているレバーかなんかをける音がしたと思ったらくるりと後ろを向かされて大谷さんと目が合う。
か、顔が近・・・
「はるちゃん、り、涼が好きなの?」
「と、近・・・は?涼先輩?」
涼?涼先輩がなんでで来るの・・・?
キョトンとすると
「はるちゃん、はるちゃんは、俺のことが好きなんじゃなかったわけ?俺のもんだよね?だから、髪の毛染めないんだよね?髪を触れても嫌じゃないのは俺だけだよね?」
あれ?なんで知ってるの?言ったっけ?
「はるちゃん、聞いてる?俺の顔みて。」
ガシッと顔を掴まれ目を無理やり合わせられる。
・・・ん?さっき、大谷さんなんていった?
顔の近さでショートさせていたがさっきの話からして、
かぁーっと、顔に血が集まるのがわかる。
「はるちゃん?」
「え、あ、う・・・」
ば、バレてる!?
なんで?なんでー!
アワアワとしていると、大谷さんがくすくすと笑い始めた。
「ごめんごめん、パニック起こしてるね。ごめんね、ちょっと嫉妬しちゃった。改めて言わなきゃね。」
どゆこと?と、目をキョロキョロさせていると、もう一度目を合わせるように屈まれて視線を合わせるように顔を掴まれた。
「好きです。だから、俺のことだけを見て。」
「え。」
思いもよらない言葉に驚く。
「大学の初めにきてからずっと気になってたんだよ。あんな綺麗に髪を腰くらいまで伸ばしといてあっさり切ってくれなんて、君が始めてて俺が綺麗にしたようなもんなのに。毎日、涼が君のこと話してさ、取られた気分になってなのに、君はなかなか、来ないし。捨てられたのかって思ったら、予約の話が涼からきて。愕然としたけど、俺の顔みて赤くなるぶんには好きでいてくれるってわかったから。どうしても・・・言わずにいられなかったんだ。」
照れたのか、いつもより早口で少しだけ目元がじわりと赤くなってきている。
驚きすぎて声が出てこない。
「はるちゃん、ダメかな?俺じゃ。」
ぶんぶんと、首を振った。
新しくかけたパーマが揺れる。
「大谷さんがいい!大谷さんだからこそ、です!」
大谷さんは、嬉しそうに笑って
額をかきあげると、
ちゅっと
「知ってる。ずっと、俺がいいんだよね?」
っと、自信満々に言ってきて、その姿がかっこよく、色気ダダ漏れでぼっと、私の顔が赤くなるのがわかる。
「よろしくお願いします・・・」
蚊の泣くような私の声が聞こえたのか大谷さんは、目がなくなりそうなほど細く笑った。
ぱーっとかいちゃいましたが、どうでしたでしょうか。
その後、ルームシェアの合間をちょっと覗かせてもらいましょ。
「おい。涼」
「お、おかえりー。」
「ソファでねこけるな。飯、今から作るから、風呂はいっとけよ。」
「ん?仕事後に飯作るのに機嫌がいい。・・・もしかして!?」
ソファから、がばりと体を起こして誠也を睨みつける。
「はるちゃんと付き合ってから浮かれてるとかじゃないからな!」
慌てたように、買い物してきた袋を揺らす。
「やっぱしか!俺の可愛い後輩を取りやがったな!」
一悶着あったようななかったような・・・