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〜命の灯火を揺らす者14〜

《なっ!?》


驚きの声はロンの口から発せられていた。

風さえ切る速度で飛ばした緋黒色の骨。

確実に目の前の女の頭めがけて、殺す気で伸ばしていた。


今までの手合わせで、女が避けられるのは不可能だった。



なのに――



『ふぅ、ギリギリセーフかな?』



女の口から放たれる幼い口調は緊張感を持たず、まるで些細な事に出くわしたかのような声色をしていた。



『レンネを殺されるのは僕としてもちょっと困るからね、悪いけど邪魔させてもらったよ?』



《どういう……事だ?》



それは決して、レンネが片手で骨を受け止め、避けずに攻撃を防いだ事だけを問うたわけではない。



《貴様は……誰だっ!?》



今まで相対していた女とは違う雰囲気に、いきなり女から発せられた『何かの気配』に、ロンは困惑する。




それを見て、口を三日月型に変えて不気味に笑うレンネは、言った。



『僕の名前は六王だよ。これから宜しくね――消された闇の属性、その血を受け継ぐ貴重なサンプル君?』




ロンは、目の前の女と違う『誰か』からおぞましい程の寒気を感じた――











肌には砂埃が凄い勢いで当たり、吹き飛ばしそうな突風が身体を通り過ぎる。

髪の毛が乱れ舞うのが分かり、立っているのがやっとの状態だった。


――しかし、それ以上シエルの身には何も起きなかった。


飛竜の放った炎弾は必殺の一撃であったし、シエルがそれに気付いた時にはもう眼前に迫っており、為す術などなかったはずなのに、だ。


不可解な事実に、シエルは恐る恐る閉じていた瞼を開ける。

映ったのは曇天の空を突く、巨大な竜巻。

竜巻はまるで天昇る蛇のようにうねり、何かが割れる音に似た轟音を響かせる。



「な、何これ……」



竜巻は飛竜がいた場所から立ち昇っていた。

しかしこんな魔法、シエルは見た事も聞いた事もない。


風系統の上級魔法は詳しく知らないが、それでも分かる。

これは、人が出せる力を軽く超えていた。



化け物――無意識に出た言葉は、自分でも驚くくらい震えていた気がした。



瞬間、シエルの背筋に強烈な悪寒が走る。

まだ敵がいる事を思い出し慌てて後ろを振り返ると――



「シエルぢゃ~~んっ!!」



「ぐぎゅっ!?」



――二つの巨大な肉饅頭を、問答無用で顔に押し付けられるシエルなのであった。


突如襲ってきた肉饅頭に鼻と口を押さえつけられ呼吸困難に陥るシエル。

しかし相手は気づかずシエルの頭に回した腕に力を込め、泣きじゃくる声に拍車をかける。



「シエルぢゃんシエルぢゃんシエルぢゃ~~ん!!」



「リーリア……ちょっ……死ぬ……」



必死の声はしかしリーリアには届かない。

このままでは死に方は肉饅頭による窒息死……肉饅頭ではないシエルにとってこの上なく屈辱的な死に方である。


そしてシエルが『あっお花畑……』なんて意識を遠のきはじめた時、その声は呆れ気味に耳に届いた。



「何を……やって、るんですの……あなた、達は」



声と同時、シエルを圧迫していた肉饅頭は凄い勢いで離れ、その持ち主であるリーリアは見えない何かに引っ張られるように後ろに飛んでいった。



「げほげほげほぉうほっ!?」



「うほ? ……大丈夫ですの、シエルさん。いくら自分には、無いからって窒息死したい、くらい欲しがらなく、ても……」



「違うわよバカ! 誰がそんな滑稽な死に方選ぶか――ってピリコ!?」



咳込みながら思わず叫んだ名前の主、ピリコは血がべったりと付いた服を着て、赤い雫を地面に滴らせている。


顔には脂汗が滲み、肌は土気色をしていた。



「だ、大丈夫なの?」



「大丈夫なはず、ないですの。ずっと水魔法をかけ続けて、傷を、治してるんですが早くちゃんとした治療をしないと……ヤバいですの」



立っているのもやっとだったのか、ピリコは自身の血で濡らした地面に膝をつく。


シエルは慌てて駆け寄るが、しかし駆け寄ったところで出来るのは心配くらい。

無力さを、窮地を救えぬ己の非力さにシエルは歯噛みした。



「……しかし、驚いたですの。まさか彼女に、あれほどの魔力があった、なんて」


「え?」


シエルはその言葉の意味が分からない。

ふとピリコの視線を追えば、その先にはいつの間にか砕けていた氷柱の欠片がある。


近くには、サファイア色の瞳をした少女と人の姿をした竜。



その少女は、遠目からでも分かるくらい、とても悲しい顔をしていた。



「私を助けたのって、まさか……」



「そう、ですわ。私はあいにくと、自分の怪我で手一杯でしたし、それに……この身体であんな規模の魔法、とてもじゃないけど、使えませんわ」



「エルラ……」




シエルは呼ぶが、けれどもその声は本人には届かない。


エルラは頭を押さえながら、竜巻の消えた場所にある――飛竜だった肉塊を見つめる。

レイは無言で寄り添って、悲しみを称えるエルラの横顔をただただ、見つめていた。



「私にできたのは、あなたを窒息死させようとした、天然さん、を引き離す事くらいです、のよ」



「……それも私の命を救ったといっても過言じゃないんだけど」



エルラはいまだ悲しそうにしている。

その顔を見て先ほど思った考えを、化け物と言った自分の心にシエルは嫌悪した。


――化け物なら、自分だって同じだ。


地形が変わるくらいの暴走をし、仲間には傷を負わせ、その事実に押し潰されそうになった。



化け物というのならきっと、自分の方がタチが悪い。



だって自分は、自分は……一人の少年に、自分の抱える重荷全てを預けようとしたから。


自分が潰れそうになったらその自分を支えてくれと、少年が絶対断らないと分かっていたのに、束縛するように甘えたのだ。



化け物なんて言った弱い自分を叱咤して、シエルは少女を見据える。


クラスメートで、仲間で、ライバルで、化け物なんかじゃない大切な少女を見据える。



落ち込んだ自分を救ったのは仲間である皆の声だった。


だったらきっと、自分の声も、彼女に届くはずだ――



エルラは、立ち尽くす。

頭痛で霞む瞳に、憂いを滲ませながら。



あの時――飛竜がピリコに牙をたてた瞬間、エルラには確かに届いた。



――助けて、という弱々しい声が。



心が燃え盛るように熱くなるのを感じた。

けれどそれは冷たい魔法となって、声の主に襲いかかった。



「私は……助けられなかった」



言葉にすればその事実は、更に心にのしかかってくる。



エルラの人一倍小さな胸では支えきれない程、重く、重く。




「エルラ……」



いつもは安らぎをくれるレイの声も今は慰めの色を含み、それさえも心に重くのしかかった。



「――――」



流れる涙は、飛竜のためか、自分のためか。



分からない、分かりたくない。



悲しさなんて、受け止めたくない――



「エルラ!!」



――それでも、人は逃げられなくて。



「そんな涙じゃ、何にも変わんないのよ!!」



だからこそ、前を向き立ち向かって。




「涙で濡れた地面を踏みしめて、全部……全部吹き飛ばすくらい!!」




だからこそ、人は、一人じゃなくて。



「一緒に、強くなるわよっ!!」



虚勢だとしても、偽物だとしても、その声は、エルラの顔を持ち上げさせる――



「……何だか私達、忘れられてる気がするんだけど気のせいよね~?」



「いや……おそらくその通りだと思うよ。ミス・ハンニアース」



シエルとエルラの様子を、まるで他人事のような目でみる二人の人間がいた。



「ここでの私の役割って~……まさか巨乳のみ!?」



「なな、なら僕はさしずめイケメン担当といったところかな!?」



半泣き顔のリーリアと、引き笑いを浮かべたベルである。


けっこう大声で言ったのだが相手方にはまったく聞こえておらず、何だか薄い膜でも張られてるみたいだ。




――まさしく、サブキャラから脇役への格下げ警報発令中である。




「で、でも~私はシエルちゃんに炎弾が当たりそうになった時クーと共鳴増幅させたファイアウォールで守ったし~っ」




「それならば僕はほら! 今こうして品性の欠片のなさそうな男をヴァルキュリア達で捕まえているよっ!?」




確かにリーリアは先ほど炎弾にやられそうになったシエルを、使い魔であるクーと共鳴増幅したファイア・ウォールをシエルの周りに張りその身を守っていた。


土壇場の機転で、かつ難易度も高く賞賛されるに値する働きである。




一方ベルはうずくまっていながらも何手も先を読み、残った敵を封じるという最善の手に出た。


そして野党の男にヴァルキュリア達を放ち、鈍い輝きの剣を突き付けて捕まえている。


こちらも賞賛に値する働きであるのだが――



「お前ら……報われねえな」



「ぎゃふん!」

「ぐはん!」



野党の男に同情された二人の叫び声は、何だか凄く悲しい響きをしていた――











「さてと……殺す前に、質問させていただき、ますわよ」



身体を重そうに引きずりながら、眼光鋭くピリコは言った。


睨みつけるは野党の男。

傲慢で、自分勝手で、竜を道具として扱っていた、ピリコの忌み嫌う人間そのもののような、男。


生かす気はさらさら無い。

瀕死の身体だが、一人くらい拷問する気力は残っている。



「ベル様、もうゴーレムを消して構いませんですの。あとは……私が引き継ぎますから」




有無を言わさぬ威圧感に押され、ベルは薔薇を振る。


すると何体もいたヴァルキュリア達は土塊に戻り、その瞬間、野党の男はピリコめがけて突進した。



「――寄るな、ゲスが」



片手をかざしただけ。

たったそれだけで、男の身体は何メートルも吹き飛び、隆起した岩に激突する。



「ぎゃっ!?」



短く悲鳴をあげると男は地面へと倒れる。

しかしピリコが伸ばした手で手招きをすれば、男の身体は宙に浮き、ピリコへと引き寄せられる。



「あなた、くらいの力で、エルフの私に、勝てると思ったんですの? 笑えない冗談は顔だけにして、くださいですの」



「この、化け物めっ」



「化け物……飛竜にあんな事ができる、人間に、それを言う資格があるとは、思えませんですの」



ピリコと睨み合いながら、野党の男は指輪をゆっくりと外そうとする。

バレないようにゆっくり、ゆっくり。


――そして指輪は、嵌っていた指ごと地面に落ちた。


「あ?」


男はおもむろに手を見る。

映ったのは親指しか残っていない、自分の手。

丸い傷口からは、濁った白色の骨が垣間見えた。



「ッぎゃあああああ!?」



「言い忘れてましたけど私、杖や詠唱なしに魔法が使えるんですの。まぁ下位魔法だけですけれど、一瞬であなたを殺すくらい、わけないんですのよ?」




野太い悲鳴を心地良さそうに聞きながら、ピリコは口元を歪める。



黙って見ていたリーリアとベルは、その表情を見た瞬間ゾッとする。



生き物としての本能的な恐怖がそこにはあり、その根源は、目の前に立つ一人の少女。



顔見知りのはずなのに、今はあの整った顔立ちが異様に映っている。



一度抱いた恐怖は拭い去られる事なく、彼らの心を蝕んでいく。



「た、頼む! 何でも話すから命だけは助けてくれ!?」



「……私が倒した飛竜は、絶命してた、はず。なのになぜ動いたんですの?」



男の問いには答えず、ピリコは低い声を出す。



「あ、あれは指輪のおかげだ。飛竜を買った時に一緒に付いてて、奴等が言うには死体になっても動かせる装置のスイッチらしい」



ピリコは地面に落ちた指輪を見る。

男の血で汚れたそれはダイヤのような宝石を付け、ただただ美しく光っていた。



あの、男が投げた指輪を破壊した時、それが装置の発動に繋がったのだろう。

精霊魔法や人間の魔法を多く知っているが、ピリコはそんな魔法を知らない。


きっと魔法ではなく、機械に頼った蘇生なのだろう。


――いや、あの時飛竜の目は白く濁っていた。

それは蘇生などとは程遠い、傲慢にしか思えぬ愚行だ。


(だから……人間は……)



何百年も前から変わらぬ、人間の愚かで恐ろしい行いの数々。


死んだ後さえ弄び続ける欲の奥深さに、ピリコは吐き気さえ覚える。



けれど、それでも、あの人が願うのならば。



「その、飛竜を売ったというのは、どんな奴等です、の?」



――全ての感情に蓋をして、人を殺して、人を救う。

男を睨むピリコの瞳に、輝く光は灯っていなかった。



「――――っ」


「どうしたのよ?」



突然顔をあげたエルラにシエルは訝しげな声をかける。

しかしエルラはその問いに反応せず、赤茶色の岩壁をジッと見つめている。


そして、一言。



「――来た」


「!?」


潰されなかったのは、レイが竜の姿になり覆い被さってくれたからだった。


突如轟音と共に砕けた岩壁から降り注ぐ、無数の岩、岩、岩。



翼の隙間から垣間見えた景色に、シエルは見知った人影を見つけて驚愕する。



「ロン!!」



そう叫ぶが轟音にかき消され声は届かない。

それに、ロンの様子はどこかおかしい。


緋黒色の骨で身を固め、表情は何かに怯えているように見える。

以前感じた威圧感は、小さく、儚く、蜃気楼みたいに霞んでいた。



大岩の破片を次々飛び移りながら、ロンは片手を振るう。

瞬時に緋黒の槍が数本現れ、神速の速さで前方に飛んだ。



「シャイン・プロテクト――」



幼い少年の声が木霊した瞬間、きらめく湖畔のように光りを放つ魔法陣が現れ、槍を弾き返した。



《ぐっ!?》




歯噛みした表情をすると同時、ロンは地面に着地する。


それに続くように大小様々な岩も降り注ぐが、ロンが見据えているのはただ一点のみ。


「君の攻撃の衝撃量は計測済みだよ。それ以上の魔力で練り込んだ魔法を使えば、いくら竜の咎人の力であっても防ぐ事ができるんだよ」



ふわり――と。

ロンの目の前に音もなく着地したのは、身体中を血で濡らしたレンネ。


時おり噴水のように血が噴き出すが、それを意に介した様子もなくレンネの口は声を発する。


自分ではなく、六王の言葉を。



「同様の理論でいけば僕の魔法も――って、何だかギャラリーが一気に増えたみたいだね」



六王の言葉にロンは初めて辺りを見回した。


そこにあったのは見知った顔ばかり。

その中には、命をかけてでも守りたい少女もいる。



《なぜここにっ……くそ!》



巻き込んでしまった――自責の念が心に浮かぶが、今は後悔するより行動をしなければならない。


相手を殺す、行動を。



「ロン様!」



ロンの耳に届いたのはピリコの叫び声だった。

その方角を見ればピリコは血を流しながらこちらを心配そうに見つめ、外見もあの夜見せてくれた 本当の姿に変わっている。


その後ろには、リーリアとベル。

二人の表情は――読み取らずとも、分かる。




「ロン様! 今すぐ力の解放をやめてくださいですの!! でなければあなたは――」



《…………》



ピリコの悲痛な叫びにロンが答えずにいると、六王の少し驚いたような声があがる。



「これはビックリだね。まさか本物のエルフに会えるなんて」



「……あなたは誰ですの?」




言いようのない不安を覚えピリコは六王を睨む。

六王はそれには答えずに辺りを見回し、一人で勝手に頷く。



「エルフは一属性に一つの部族を神竜に仕えさせると聞いた事がある。そうかそうか――サンプル君は、闇の神竜の生き残りなんだね」




「闇の……神竜?」



「おや? この事は本人は知らないみたいだね。ふーん……」




六王は少しだけ考えこみ、レンネの顔で笑った。



「サンプル君は殺してでも持ち帰ろうと思ってたけど――闇の神竜なら話は別かな」



どこかへ誘うような笑みは、決して好感の持てるものではない。



「君は思っていたより、ずっと良いサンプルになりそうだよ……」



恐怖よりも、より恐ろしいものをロンは感じる。


人の底無しの欲望さえも飲み込みそうな六王の言葉は、ロンの身体を強ばらせる。


――だから、近づいてくる六王に、反応する事ができなかった。



「っ危ないですの!!」



ロンの異常にいち早く気付いたピリコが六王へ片手を向ける。



「邪魔しないでよ」




が、怪我したピリコよりも六王の手の方が早く、かざした瞬間ピリコの身体は吹き飛ばされた。




《ピリコ!?》




地面を受け身さえ取れずに転がるピリコ。

リーリアとベルが慌てて駆け寄るが、意識を失ったようで二人の呼びかけに反応をしない。



「――あ、忘れる所だった」



言うが早いか、伸ばされた手はそのまま野党の男に向けられ、空高くへと吹き飛ばした。

一瞬で豆粒のように小さくなった男は落ちて、落ちて、見えなくなった。




「色々喋られたら面倒だからね。でもエルフの方は殺してはいないよ。実験に使えるかもしれないしさ。まぁ、反撃してきたら分かんなかったけどね」



《……貴様》



「サンプル君も分かってるとは思うけど、僕に君の攻撃は効かないよ。僕は今ハーフエルフ二十人分の魔力を使ってるんだから」




六王はロンから数歩の距離で止まると、片手を差し出す。

一瞬警戒したロンだったが、その手からは魔力も何も感じられなかった。



「僕の専門は科学でね、人為的に共鳴増幅させた魔法を一人が操るとか、そんな装置を作ったりしてる」



レンネの身体から滴る血は、止まってはいない。



「まぁ、魔法を強くしても使える者がいないと意味ないけどね。ハーフエルフの身体でもこの通り、ちゃんと考えないとすぐ壊れてしまう」



あまりにも邪気のない声に、ロンは怒りでわなわなと震える。


怒りが恐怖に勝り、緋黒色の骨を力任せに振るおうとした時――



「そして複数だから、こんな事もできる」



レンネの血にまみれた手が触れただけで、ロンの緋黒色の骨は粉々に砕け散った――


《――――》



「竜鎧は特殊でね、魔法を吸収する性質があるんだ」



六王の声が、いやに遠くから響いてる気がする。

目の前に立っているのに、不思議な気分だった。



「全ての属性の魔法を吸収できるけど、一気に複数の属性は吸収できない」


――痛みは、半歩遅れて襲ってきた。



《――――――――――っ!?》



「だから全属性の魔法を一気に吸収させれば竜鎧は――って聞こえてないか」



悶える事さえできない痛みに崩れ落ちるロンの眼前に、六王は何かを投げ落とす。



「改めて名乗るよ、僕は六王。『竜の手綱を握る者』の、一応リーダーかな。皆は色々言ってるけど、僕はただ竜の秘密を解明したいだけ」



落としたそれは、何も書かれていないネームタグ。

そして離れていくレンネの足。激痛で明滅する視界の端にそれを捉えるが、ロンには何も出来ない。



「もしかしたらサンプル君の属性、闇の属性を復活させる事もできるかもしれない」



ロンの視界が、暗闇に覆われる。



「もし興味があったらそれで連絡をとってね。悪いようにはしないから――」



そこで、ロンの意識は完全に暗闇へと落ちた。



「ちょっと!!」


「ん?」


装置を介してスクウェアス・テレポートを発現させようとしていた六王に、少女の怒声は投げかけられた。


「誰?」


「あんたこそ誰よ! 一体ロンに何したの!?」



目の前にきた少女は桃色の長髪をなびかせながら声を荒げて六王に詰め寄ってくる。


ロンが竜の咎人の名前だと一拍置いて気付いた六王は、しかし答えるのが面倒で少女に片手をかざす。


死なない程度の魔法を浴びせようとした時――




「私の使い魔に何したかって聞いてんのよ!!」



「使い――魔?」




その言葉に、魔法を放つのを忘れ六王は聞き返す。

少女は更に激昂し、襟首へと掴みかかる。



「そうよ! あいつは私の、シエル・シャン・メサイアの使い魔よ! あいつを傷付けるやつは、私が許さない!!」



名前を聞き、六王は更に驚いた。

運命なんて信じた事がなかったのに、今この瞬間にはその言葉が的確な気がした。



「くっ――くくくくく」



「な、何がおかしいのよっ」



唐突に笑い出した六王にシエルは困惑したのも束の間、六王は掴んでいたシエルの腕を払い地面を蹴る。



「待ちなさい!!」



そのまま空高くまで浮き上がる六王に、シエルは大声をあげるしか出来なかった。



「くくく……エルフに、竜の咎人に、それを使い魔にしてるメサイア家の者」




六王の狂気じみた笑い声は、曇天の空の遠くまで響き渡る。




「この瞬間だけ僕は神様を信じていい! 面白おかしい運命をくれた、最低な神様をッ!!」



六王はそう叫ぶと、空の彼方で姿を消した――













「ロン!?」



六王を逃がしてしまった後悔をする暇なく、シエルは倒れたままのロンに駆け寄った。

エルラにはピリコの手当てを頼んでいたが、ロンにも水魔法が必要かもしれない。


エルラを呼ぼうとそちらを向いた瞬間――



「ね、ねえ?」



「ミス・メサイア……本当の事を、聞かせてくれないか?」


リーリアとベルが、近くにいた。


何を――聞こうとして、気づく。


なぜなら、二人は、ロンを見つめていたから。


恐怖の滲んだ、化け物を見るような目をしていた――












「あれ? 何してるの?」



城下町の隅に立つ一軒の酒場『夢舞台の踊り子亭』の裏口。


ゴミ出しに来ていた従業員の少女は、同じ従業員の少女に声をかけた。


くすんだ暗闇の更に暗闇に、身を隠すようにしていた少女に訝しんだが、さして気にする事なく少女は近づいてゆく。



「もうすぐお店開ける時間だから早く戻ろ――」



そこまで言って、少女の身体はぐらりと揺らいだ。

持っていたポリバケツが倒れゴミが散乱し、その上に少女は倒れる。



――赤い液体を、汚れた石畳に広げながら。



「はい、分かりました。すべては六王様の、狂気のままに――」



耳に手を当てていた少女はそう言うと歩き出す。


倒れた少女を一瞥し、その上に夢舞台の踊り子亭のエプロンを落とす。


エプロンに広がる赤い染みは、邪悪な何かが広がるように。


路地裏の闇は、不吉を孕んで隠すように、濃く。


そばかすの顔を無表情にし、茶色のおさげ髪を風に揺らして、少女はただただ前を見据えていた――――




~シエルの使い魔・腐霧ふきりの森ととがの巫女に続く~



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