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愚かしくも愛おしき  作者: 宮沢弘
第三章: 企て
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3−2: チーム・ミーティング

 ラジーニは教院のセヴァロの部屋で中継を始めた。セヴァロは他の複数の教院とのミーティングをオンラインで行なうこともあり、壁にはカメラと大型のディスプレイが備えられていた。

 また、ラジーニ、セヴァロ、そしてナオミは自分のキーボードとディスプレイ、あるいはスレートを立ち上げていた。それぞれには、各々が調べた結果、あるいは計算した結果をいくつかウィンドウに開いていた。

 時間になると、ゲーラン、ラリッサ、バートールド、スティーブンが次々に接続し、大型ディスプレイに映った。

「じゃぁ、ゲーラン、まず説明をしてくれないか?」

 ラジーニはそう切り出した。


 ゲーランの説明を聞き、一同は言葉を失なっていた。

「むしろ核融合に影響が出た方が影響は少ないと?」

 ラリッサがやっと言葉にした。

「あぁ。恒星系の形成過程でも推測されているが、実際にはほとんど影響がない」

 ゲーランは恒星系の形成過程のモデルを表示しながら続けた。

「ダークマターはそこまでの相互作用をしないんだ。少なくとも、そこに留まって、通常の物質と相互作用を続けることはない。太陽系内にも、あるいは銀河系の比較的内側にもダークマターがあるように見えないのは、そうだからだと考えている」

「だけど、湧き出し続けたら?」

 スティーブンが訊ねた。

「太陽の核融合に影響が出たとしても、観測できるかどうか程度だろう。ニュートリノが増えているのは言ったとおりだが、だからと言って爆発的に反応が進んでいるわけじゃない」

 ゲーランはニュートリノ計測のグラフと反応の推定のグラフを表示しながら説明した。

 続けて、コロナを撮影した映像をゲーランは表示した。

「むしろ空間が湧き出すことと、それに共なうダークエネルギーの湧き出し、そしてそれによる斥力が問題だ」

「太陽が膨張、あるいは脈動しているというのは?」

 バートールドがその映像を見ながら訊ねた。

「空間が湧き出し、斥力で、少なくとも表面近くの水素が空間に乗ったまま引き剥がされているんだろうな」

 さらに、膨張した映像を並べ、ゲーランは答えた。

「空間が湧き出すこと自体の地球への影響は?」

 スティーブンが訊ねた。

「実質、ない。あれば、もう出ているだろうな。上層の大気が持っていかれはするだろうが。地球がグズグズに崩れるなんてことはないだろう。結局、重力は弱いとは言っても、そこまで弱いわけじゃないんだ。ただ、この程度のものであればという条件が付くが」

「ゲーラン、ちょっと聞きたいんだけど」

 ナオミがゲーランの言葉が終るかどうかという時に口を開いた。

「荷電粒子はどうなっているの?」

「もちろん増えている。単純には、今、一番の懸念はそれの影響だろうな」

「単純でなければ?」

「湧き出しが太陽に付き纏って、さらには規模が大きくなれば、太陽は膨張する。まぁ、一時的には。それが一番の懸念だろうな。太陽の中でまだ出てこれていない熱が出て来やすくなる。その後は、太陽の寿命が短かくなる程度だろう。その頃には惑星の軌道にも影響が出るだろうが」

「その熱は致命的なほどですか?」

 セヴァロが訊ねた。

「ハザウェイ教父、私にとってもラジーニにとっても、そこが問題であって、そこがわからないということが問題なんです。そして、致命的であったとしても、どうするという方策もない」

「それで、神に祈れという文言が必要だと?」

「セヴァロ、それは……」

 ラジーニが言いかけた言葉をセヴァロは手で制した。

「ハザウェイ教父、もちろんそうではありません」

「では、私に何を求めているのですか?」

「教父、私やこちらのチームは、こういうことが起きた、そしてどういうことがありうると論文を書けばいい。今、それが起きるかどうかは別の話です。ですがラジーニにとっては、あるいは私たちがラジーニに期待していることは、それとは違う。もちろん彼も、こんな馬鹿なことを言っている連中がいるとだけ記事にすることはできる。ですが私たちが彼に期待していることはそういうことではないのです。そして、それは彼にとっては今後の一生を左右しかねない」

「その考えはわかります。ですが、ラジーニも知っているはずだ。ラジーニが、そしてあなたが私に期待していることがどれほど困難なことか。それは言葉でどうにかできる問題ではない。力によってなされるものだ」

「教父さま」

 ラリッサが割り込んだ。

「おそらくそうなのだろうと思います。ただ、これが起きるのだとしたら、ほんの一瞬でもいい、人間は賢かったのだという自負を持ちたい。ですが、そのための言葉を私たちは持っていません」

「ラジーニ、どれほど困難なことかはわかっているはずだ。知らないままでいるのが一番だろうと、君も言ったな」

 セヴァロはラジーニを凝視めた。

「あぁ。だが、見出す機会を作って欲しい。人間には、それが出来るはずだと信じたい」

 セヴァロはディスプレイに映る面々を、そしてこの場にいる面々を一人ひとり見た。

「できるだけの協力はしよう。その記事は、騒がれはするだろう。だが、それだけだ。人間はそのようには出来ていない。あるいは、そのようには育っていない」

「ありがとう。これが起きなければ、なに、私が先走っただけにすればいい」

 そう言うラジーニに、セヴァロは悲しそうな目を向けた。


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