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愚かしくも愛おしき  作者: 宮沢弘
第三章: 企て
7/22

3−1: 試験

 翌朝、ラジーニは書斎にいた。机のディスプレイに接続されたキーボードを叩き、昨夜の内に走らせておいた探査機の軌道計算と、重力波によるそれへの影響の計算結果を眺めていた。少なくとも、公開されている打ち上げに関する資料からは、探査機はスイングバイに失敗したはずがないし、検知した重力波も影響を及ぼすはずがなかった。

「これくらいはやっておかないとな」

 そう呟くと、ウィンドウを切り替え、何人か知り合いの、あるいは気にかかる科学ジャーナリストの名前のリストアップを始めた。

 その作業を終えると、最初に書いた名前にカーソルを合わせ、リターンキーを押した。

「ラジーニ、何なの? 仕事をするにはまだちょっと早いんじゃない?」

 通話の発信音が鳴るかどうかの内に、ディスプレイには女性が映った。

「そういう君だって、もう仕事をしているように見えるけどね、ラリッサ」

「それは否定しないけど。それで?」

 告解や懺悔ではないが、セヴァロにはもう言ってある。そう思い、多少の罪悪感を少しなりとも薄めて、ラジーニは切り出した。

「探査機の木星スイングバイの失敗の話と、重力波の検知の話は知っているだろ?」

「えぇ。私も記事を書いたから。来月号には載るかな」

「そうか。なら話が早い。できたら君の記事を先に読ませてくれないか?」

 ディスプレイに映った女性はしばらく答えなかった。

「何かあるの?」

 その女性は訝しげな表情を浮かべた。

「いや、何かというわけじゃないんだが」

 女性はディスプレイの中で身を乗り出した。

「あなたのそのやり方は知っているわ。何かあるのね?」

「君との付き合いは長いからな」

「わかった。あなたが持っているものを見付けてやるから。待っていなさいよ。あと、どうせ同じようなことを他の人にもするんでしょ? 返事はメールで送るから」

 ラジーニは笑いを堪え、答えた。

「そうしてもらうと助かるな」

「じゃぁ、早速取り掛かるから」

 女性はそう言い、通話を切った。

「まぁ、話が早いのは助かるな」

 ラジーニはそう呟き、リストの次の名前にカーソルを合わせた。


 * * * *


 数日の内に、リストに挙げた全員から返信があった。中には、付き合いの長さから考えて、とぼけているのだろうと思えるものもあった。ラジーニの期待に似わない返信もあった。あるいはただ国際宇宙局に訊ねただけの返信もあった。それらはまず検討の対象外とした。

 残った返信を検討し、ラリッサ・エイムズ、バートールド・エッツォ、スティーヴン・アーデをチームとすることにラジーニは決めた。エッツォは中堅、アーデは新進の科学ジャーナリストだった。だがラジーニも人となりは知っており、また返信も十二分の検討がなされていた。誰もが独自にラジーニが検討したものと同じか、それ以上の計算をしており、その上で国際宇宙局に、そしてその他の研究者に簡単なインタビューを行なっていた。そこから得られた結論として、何かが起きているとして返信を結んでいた。それにナオミとセヴァロが加わる。

「どこから中継をしたものか」

 そうは思うものの、セヴァロがそうは教院を空けられないことを考えると、教院から中継するしかなかった。

 ラジーニは、ゲーランとセヴァロ、そして選んだ科学ジャーナリストに明日の午後にミーティングの中継を行なう旨のメールを、時刻とチャンネルを添えて送った。数分と経たない内に、全員から了解の旨の返信があった。

2015-Sep-12T15:20

ゲーランの名前を間違えて打ってたのを修正しました。

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