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愚かしくも愛おしき  作者: 宮沢弘
第五章: 介入
18/22

5−2: あなた

 あなたは、昨夜のうちに買い込んでおいた物の中から、飲み物を飲んでいた。そのビンをテーブルに置いた時、ノックが聞こえた。

「はいよ」

 あなたは玄関に向かいながら、そう答えた。

 あなたは玄関に着くと、いくつものロックを外し、扉を開いた。そこには隣りに住む男性が立っていた。

「やぁ」

 その男性は気軽にそう言った。

「えーと、何か?」

 あなたはそう答えた。

 隣の男は、口を開きかけては閉じていた。おして意を決っしたように言った。

「これじゃぁ、いけないと思うんだ」

「これじゃぁ?」

 男はあなたの言葉を聞いてうなずいた。

「ほら、このサイレンとか」

 男は視線を玄関の向かいにある窓に、あなたの肩越しに向けた。

 あなたは振り向き、サイレンの音を確かめた。

「それで?」

「『彼らはあなたを見ている』は見たか?」

「あぁ」

 昨夜の放送を思い出して、あなたは答えた。

「それじゃぁ、 "The EAD+・クラーク・レイモン" は?」

「あぁ、観た」

 クラーク・レイモンがどういうつもりでやっているのかと感じたのを思い出し、あなたはそう答えた。

「レイモンは、理性をもって最期を向かえようと言っていたよな」

 男はそう言い、そして続けた。

「これじゃぁ、それには程遠いよ」

「そうだな」

 あなたは、買い込んである荷物を思い出し、落ち着いて答えた。

「それで自警団を組織しようと思っているんだ」

 男はそう言った

「いや、自警団と言っても、暴力で抑え込みたいわけじゃないんだ」

「ふん」

 じゃぁどうしたいんだと思いつつ、あなたは答えた。

「その、暴力も必要かもしれないけど。ともかく見回って、注意して…… それを中心にしてやっていこうかと思うんだ」

 何も考えていないのかとは思いつつも、あなたは考えた。

「法律も無意味だとして、神の助けもない。何かシンボルが必要かもな」

「シンボルか」

 男はそう言い腕を組んだ。

 やっぱり考えなしかと、あなたは思った。

「今、シンボルにするなら、『彼らはあなたを見ている』か、"They Watch You"か、その頭文字で "TWY"とか」

「あぁ! それがいい。"The EAD+・クラーク・レイモン" で、全てを送信していると言っていた。なら、その『彼ら』に恥かしくないように、自分を律っするように訴えないと」

「それで、今メンバーは?」

 まさか二人でやろうっていうのでもあるまいと考え、あなたは訊ねた。

「このフロアの全員。あと上も下もだんだんと」

 案外物好きが多いものだと、あなたは思った。だが、一箇所にまとまっているのも便利だろうとも思った。

「だけど、その人数でどれだけの範囲を守れるっていうんだ?」

 当然の疑問をあなたは口にした。

「まぁ、可能ならこの2,3ブロックを周れればというくらいだろうと思う」

「それで俺に何の得が?」

 やはり、当然の疑問をあなたは口にした。

 男はしばらく無言だった。

「ない」

「何の得もなしに、そんなことをやれって?」

「あぁ。もし君にヒーロー願望があるなら、それを突くのもいいだろう。だけど、それじゃぁ暴走されても困る。私たちにとっても君にとっても。他の報酬は、今はもう意味がないだろう。だから、君には何の得もない」

「正直だな」

 何か、たとえば食べ物や飲み物で釣ってくるかとも、あなたは思っていた。

 あなたは、ただのスーパーの店員だった。そのおかげもあり、昨夜のうちに色々と買い込んでおけた。そういうことをこの男が知っているのかどうかはわからない。

「もし、俺が食べ物も飲み物も既に買い込んであったとして、いざとなったらそれを提供しろと言い出すのか?」

 男はあなたの顔をじっと見た。

「もしそれがあるとしたら、頼むかもしれない。だけど、そうだとしても、スーパーに並べられるほど買い込んであるわけじゃないだろ? なら、スーパーから必要な分を各々が持って行ける方がずっといいと思う」

「なるほど」

 確かに、それはそうだとあなたは思った。

「そのためにも、強奪や混乱はない方がいいな」

「あぁ。そこまでしかできることはないと思う」

「わかった。協力しよう」

 あなたはそう答えた。

「そうしたら、最初にやることをやらないとな」

 あなたはそう続けた。

「やること?」

「あぁ。スーパーに "They Watch You"、あるいは "TWY" と書いてこよう」

「あぁ、あぁ。そうしよう。途中で他の連中も紹介する」


 あなたと隣の男はスーパーに着いた。

「それでどうやって書くんだ?」

 男が訊ねた。

「スプレーでもペンキでも。中にあるものを使えばいいだろう。そんなもの、今、持っていこうとする奴なんかいないだろうからな」

「そうだな」

 スーパーの中の物は、既にいくらか持ち去られていた。だが、まだ強奪に近いことは起きていないようだった。

 あなたは、スプレーとペンキを持ち、スーパーの正面に出た。そしてスプレーで大きく "They Watch You" と "TWY" と書いた。隣の男はその様子を録画していた。

 あなたは視線を感じて振り向いた。そこには、老夫婦が立っていた。

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