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愚かしくも愛おしき  作者: 宮沢弘
第四章: マスコミ
15/22

4−4: 放送後

「なるほど。世界は終わるんだね、ラジーニ」

 レイモンは楽し気に言った。

「地球、あるいは太陽系という意味なら。あぁ、終る」

「それなら、あと九日間はやり放題というわけだ。だって、九日だ。いや、もう八日に近いけど。それだけ逃げ切れば、何をやっても構わない。つかまたって、どうせあと八日だ」

「もし、君がそう望むならね」

 ラジーニは疲れを表に出さないよう、答えた。

「そこでだ。"The EAD+・クラーク・レイモン" というチャンネルを確保した。世界が終るという大予言が実現するか、この目で、そしてあなたの目で見てみようじゃないか」

 「大予言」に、笑い声が重ねられた。

「おっと、レジーニ、勝手に "The EAD+" という名前を使わせてもらったが、もちろんかまわないよね?」

「かまわないとも」

「ありがとう。さぁ、皆でテイガー博士に拍手を。そして、楽しい時間を提供した私、クラーク・レイモンにも、是非拍手を」

 それに拍手の音が重なり、そして続いた。

「トム、これでなにかになるのか?」

 キーボードのキーを押しながら、ラジーニは呟いた。その声には疲れが表われていた。

「結果はわからないが。だが、多くの人に内容が伝わった、いや伝わってはいないかもしれないが。ともかくそういう話だということを多くの人が観たのは確かだ」

「それだけでも、よしとするか」

 そう言い、ラジーニはキーボードをまた叩いた。放送用の二つのウィンドウが閉じ、トムとの通信用のウィンドウも閉じた。


 それから数分後だった。ポンと着信音が鳴った。ラジーニは椅子に深く背を預けたまま、キーを叩き、着信を受けた。開いたウィンドウには、クラーク・レイモンが映っていた。

「ラジーニ・テイガー博士。さっきはありがとうございます」

 番組中とは別人とも思える表情だった。行き過ぎとも思える笑顔はなかった。

「あぁ。こっちこそ」

 ラジーニは番組の内容を思い出し、総括した。

「レイモン、君はさっきいいところを突いたな。やり放題という所だが」

 ディスプレイの中でレイモンはうなずいた。

「博士、そこがおそらく今、一番の問題なのです」

「ほう。というと?」

「私はああいうキャラクターを演じているが馬鹿ではない。いや馬鹿なのは認めますが、そこまで馬鹿ではない」

「なるほど」

「ですが、ああいうキャラクターを演じて来たおかげで、それなりの影響力を持っている。あなたにそれがどういうものだと思われようとも。あれも、それによって得た影響力も、今が使い時だと思う」

 ラジーニはすいっと座り直した。

「トム・オブライエンが、全てのグルーバル・チャンネルを使い、全てを送信すると言っていました。実際、もう始めています。だが、それとは別の、つまり地球上で、混乱を避けるような試みも必要だと思う」

「それを君がやると?」

「えぇ。"The EAD+・クラーク・レイモン" では、そこを訴えようと考えています。時にはあれで、時には真面目に」

「あのキャラクターを演じない君を見る人がいるのかな?」

 レイモンは言葉に詰まった。

「いないかもしれない。ただ、全てがあのキャラクターでなくてもかまわないはずだ」

 今度はラジーニが考えた。

「君は、レイモン、これを機会にして、別のこともできるのだと名前を売ろうとしているのかな?」

「博士、これは信じて欲しいのですが。誓って、そうではありません。混乱は起こるでしょう。ですが、混乱に力で対応しようとするなら、ますます混乱が深まり広まるだけでしょう。力ではない方法で、何とか対応しようと試みるしかない」

 ラジーニはうなずいた。

「どういう方法が実際に功を奏すかはわかりません。ですが、少なくとも私にできる方法はこれしかない」

「君は…… 実はいい奴なんだな」

「そう言われるのは始めてかもしれません。会ってみたらつまらない奴だったとはよく言われますが」

 レイモンは笑っていた。ラジーニもつられて笑った。

「わかった。頼む」

「『彼らはあなたを見ている』 番組のタイトルでしたが。会ったことも見たこともないとしても、彼らに、そして私たち自身に恥じることのない最期を目指したい。それを目指すことは、少なくともそういう人間がいたのだということは、誇りであろうと思います」

「うん。ありがとう」

 レイモンは会釈をして通信を切った。


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