第二章 ~ Police! Police!(警備兵さん、こっちです!) ~ 第一話
ラヴィとラチアは里で借りた荷馬車に乗って王都ルーベアイスにやってきた。
ルーベアイスは他国からの侵攻に備えて都市全体を巨大な防壁で囲まれているいわゆる城塞都市。
初代国王が六世紀前にここを定住の地に定めて以来、人が増えるほどに街を囲む外壁を外へ外へと拡張してきた結果、今では三万人もの市民が内部で暮らせる規模になっている。
「うわぁ……人がいっぱいだぁ……」
元々大きな目を限界まで大きく開いたラヴィが大勢の人間が行き交う街の様子を興奮した様子で見ている。
まだラチア以外の人間は怖いラヴィだけれど、これだけ大勢の人間の中に紛れていると逆に恐怖は感じなかった。
馬車の横を通る人たちはいちいちラヴィに目を向けないし、目が合ったとしても特別な反応なんてせずに通り過ぎてゆく。
なにしろ街の中では数え切れないほどのアニオンがいて働いていた。ラヴィは比較的人間に近い姿だけれど、街にいるアニオンたちは多くが人間よりも動物の姿に近い。
頭が豚のアニオンはでっぷりと肥えた体躯を揺らしながら大きな麻袋を担いでどこかへ向かおうとしていて、腰から下が馬のアニオンは筋骨隆々とした体で荷車を牽いている。
ラヴィよりも小さなネズミのアニオンたちはチーズの塊を中心に置いて輪を作り、何かトラブルでもあったのか姦しく言い争っていた。
「ね、ラチア見て! あの牛さんすごく大きいよ! ラチアの倍くらいあるよ!」
「そんなにはしゃいで馬車から落ちるなよ?」
「ボク、そこまでドジじゃ――」
そう言い終わらないうちに、車輪が小石を踏んで馬車が左右に揺れ、ラヴィはバランスを崩して落ちそうになった。
「わ! わっ!?」
ラチアの腕に支えられて危うく転落するのを免れたラヴィが、恥ずかしそうに小声で「ありがとう」と言いながら見上げると、ラチアは『ほらな?』とでも言っているように口の端を吊り上げてちょっとイジワルな顔で笑っていた。
ふたりが王都に来ているのには二つの目的があった。
一つはこの街の靴屋に靴を納品するため。
馬車の荷台に大きな木箱が三つ載っていて、その中にはぎっしりと靴が詰められている。
もう一つはラヴィを奴隷登記するため。
昨日お月見をした後にラチアから《ラヴィを奴隷登記しなければいけない理由》を説明された。その話によると――、
アニオンと蛮族の人間は一律に奴隷とみなされ、その扱いは人ではなく動的財産になる。
市民権のある人間が奴隷を保有する場合、保有者は奴隷の登記をしなくてはならず、未登記で奴隷を保有しているのが発覚すると多額の罰金が科せられる。
その他にも登記は二年ごとに更新しなければならないとか、奴隷が罪を犯したら保有者が責任を取らなければならないとか、色々と面倒な法律があるらしい。
ラチアはラヴィにも理解できるようにできるだけ噛み砕いた説明をしたのだけれど、やっぱりラヴィには話が難しくて、分からない単語も多かったから聞いている途中で寝てしまった。
王都に向かう途中、馬車を御しているラチアが「昨日説明したこと理解してるか?」と確認してきたのでラヴィは「ボクがラチアと暮らすのに必要ってことなんだよね? たぶん」と答えた。
同じ説明を二度するのが面倒だったラチアは「まぁそんな感じだ」とおざなりに頷いた。




