07
その告白は、唐突に始まった。
「実は先程言った通り、吾妻さんには僕の生活を仕切って頂きたいんです」
「……色々と突っ込みたい事はありますが、今は黙って聞いておきます」
東堂先生は酷く恥じ入ったように顔を俯け、椅子に埋もれるようにして話し出した。
「僕は昔からどうにも要領が悪くて、成人しても身の回りの事すら上手く出来ない有様で。……恥ずかしながら、誰かに助けて頂かないと生活していけない自信があります」
いや、そんな事で自信持たれても。
「大学時代までは一緒に暮らしていた祖母が、亡くなってからは知り合いの家政婦さんが何くれと面倒を見てくれていたので、何とか生活出来ていたんです」
「なるほど」
ここまで聞いた限り得に珍しい話しじゃない。家事が苦手な人なんてそれこそ男女問わずに結構居るだろう。先生みたいに稼ぎのある人なら家政婦さんを雇うのは別におかしな事でもない。
一体何が問題なんだろう?
「それが、去年の冬の始めにその方が腰を悪くされまして。もうお年でしたからそのまま息子さん夫婦と同居される事になって、引っ越されたんです」
「ああ、それは大変でしたね。それじゃあ今は別の方が? その方と上手く折り合いが付かないとかですか?」
何だ、「僕の生活を仕切って下さい」なんて言うから何事かと思ったら、先生はつまり家政婦さんを探しているという事なのだろう。
今は二月後半だから、新しい方がいらして約三ヶ月。こういうのも相性が大事だろうから、その人とは反りが合わないのかも知れない。
ああ、でも先生の言い方じゃ私を家政婦さんにしたいのか、私に家政婦さんを手配して欲しいのかが解らない。
結局の所どうして欲しいのか尋ねようとしたら、先生は向かいの席で更に体を小さくしてしょぼくれていた。
……な、何故?
「それが……新しい方にお願いはしたんですけど……」
「けど……?」
先を促してみてら余計に縮こまってしまった。。テーブルの上に置いた手が真っ白になる程握りしめられ、緊張がありありと伝わってくる。
「先生?」
何度か声をかけると、彼はやっと決心したようだった。
「その……新しく雇った方は、皆さんうちに来ると……えと、あの……に、逃げて、しまわれるんです」
「えーっと……それは……」
衝撃の告白。そしてマスターの大爆笑再び。
どうしよう。
かける言葉が見つからない。