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仕切り魔様の憂鬱  作者: 森埜林檎
第一章
6/13

06

 

 “僕の生活を仕切ってくれませんか?”


 あまりにも真剣にそんな事を言われたものだから、思わず私も本音が漏れた。


「先生、正気ですか?」

「すみません。本気です」

「ですよね本気……えっ! 本気なんですか!」


 いやいや、東堂先生。返答が微妙にズレてます。


「東堂先生。隣でマスターが大爆笑してますけど……冗談ですよね?」

「いえ。本気です」


 いや、そんなモジャモジャの顔で本気ですとか言われても、正直信憑性薄いですよ。


「あのですね。因みにお聞きしますけど、私がさっき水を被った事の顛末はご存知ですか?」

「はい。失礼ながら拝見しておりましたので」

「最初から最後まで?」

「ええ。一言一句逃さず」

「…………」


 どうしよう。もしかしたら先生はさっきの元彼とのやり取りを知らない可能性を期待したんだけど、そうじゃないのか。


「……どうして……」


 どうして私にそんな事を頼むのかと途方に暮れた。


 先生自体は悪い人じゃないんだろうとは思うが、いくら少し会話をして打ち解けたと思った所で所詮数時間の事だ。

 つまり、私が振られてからも数時間しか経っていない。あんな別れ方をしたんだから、私だって人並みに傷ついているんだけどな。

 しかも別れた原因として突き付けられた事を、別の男にやれと言われるとは。


 ……きっと今日は厄日に違いない。


「吾妻さん。僕は貴女に酷い事をしています」


 先生は唐突に頭を下げた。


「え……?」

「ほんの少し前にとても傷つけられたと分かっていながら、同じような事をしてくれないかとお願いしているのですから」


 すみません。と再び深く頭を下げた先生は、それでも、と続けた。


「僕に今必要なのは貴女だと確信しています。どうか話しだけでも聞いて頂けないでしょうか」


 そう言って私を真っすぐ見据える瞳には強い意思が宿っていて、先程までのどこかぼんやりした印象とは別人に見えた。

 無意識にフッと息を吐き出した私は、どうやら笑っていたようだ。


「……振られた後の女に“貴女が必要だ”なんて。どんな殺し文句ですか?」

「あっ!いや、あれはその、決してやましい気持ちがある訳じゃなくてですね、あの……」


 少し茶化しただけでこの慌て様。女性に慣れて無いんだろうなとか、そんな所も少し可愛いと思ったりして。


 あーあ。完全にこの人にほだされてるな、私。


「分かってますよ、先生。真剣だってお気持ちは、良く伝わりましたから」

「あ……じゃあ……」


 期待に満ちた少年のような瞳に、思わず笑いが零れた。


「そうですね。先生のお話、聞かせて下さい」


 この時先生は心底安心した様子だったけれど。

 本当に救われたのは、私の方だった。


“僕に今必要なのは貴女”


 ホント、大した口説き文句だわ。


 

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