05
東堂さんの人柄に感銘を受けた私は、自分でも現金だとは思うけど、一気に気を許してしまった。
マスターの先輩って事は、一番上の兄と同い年位だろうか。うちの長男もクセの強い人だし、何だか年の割に可愛い人だと思ってしまう所も似ている気がする。
そう思うと益々親しみを感じてしまって、自然と笑顔になってしまうのは致し方無いと思いたい。
それからは暫くお仕事大変じゃないですか、なんて世間話しをしたりして。マスターからも若い頃の失敗談なんかが飛び出して、話しは大層盛り上がった。
東堂先生も、それらを嫌な顔一つせずに答えてくれるものだから、私はついさっきの最低な元彼との事を少し忘れていられた。
「あ、やだ! 私ったら舞い上がっちゃって、こんな時間まで先生をお引き止めして……」
「あ、いや……」
気づけば、あれから一時間以上が過ぎていた。
マスターもごめんなさいと、これでお暇する旨を伝える。
出しっぱなしにしていたコスメポーチ等を片付けて、財布を持って立ち上がろうとした時だった。
「あのっ!」
「はい?」
東堂先生が腰を浮かせて何か言いかけている。
今日一番大きな声だったので正直驚いた。
どうしたんだろうと座り直して言葉を待ってみるが、当の先生は酷く困惑した顔で口を開いて閉じてを繰り返している。
「先生っ、ほらちゃんと言わなきゃ」
「ん……いや、でも……」
「アナタ切羽詰まってるでしょうが。今回みたいに倒れただけで済めばいいけど……」
「えっ! ちょ、ちょっと先生倒れられたんですか? 一体何の話しです?」
穏やかじゃない話しに私も思わず腰を浮かせる。
それでも話し渋る先生をマスターが肘で突いて先を促し、更には私の問い掛けるような視線を感じたのか、東堂先生はフッと息を吐き出してやっと重い口を開いた。
「……吾妻さん。こんな事をお願いするのは失礼だと分かっていますが……。
僕の生活を仕切って貰えませんか?」
そう言って、東堂先生は真剣に私を見つめた後、頭を下げた。
「えーっと……」
正直、そんな斜め上方向のの話しだとは思ってませんでした。
思ってませんでしたが、取り合えず。
先生。正気ですか?