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東堂海慈といえば、大抵の人が知っている有名人だ。
沢山の雑誌にコラムや連載を持っているし、広告やCMのキャッチコピーなんかも幾つか担当してたはず。
本業の小説も世代を問わず人気で、確か今年も年明け早々に発売した小説がベストセラーになりそうだと、この間テレビで流れていたばかりだ。
かく言う私だって、雑誌に東堂海慈のコラムが載ってたら思わず読んでしまう位にはファンである。
確かにメディアに顔出しはしていなかったと思うが、初期作の作者近影とかに顔写真が……って、ダメだ。私そこまでコアなファンでは無いから、見てたとしても今とは比べられないや。
「ふはっ! ヒヨちゃん考えてる事が顔に出てる……」
「えっ!」
慌てて顔を隠してみたけれどその行動がまたツボに入ったらしく、マスターは肩を震わせて笑い続けていた。
「……おい。お前の方が失礼じゃないか」
「ごめん、ごめん。でもヒヨちゃんたら、凄いけどこの人本物? って顔に書いてあるんだもん」
「…………」
……おっしゃる通りで。
マスターが本物だって言うから信用はしてるんだけど、熊、おっと……東堂さんはどう見ても人気作家って雰囲気では無いから、まるっと信じるにはどうにも抵抗があると言いますか。
そんな私の葛藤を見て取ったのか、マスターは何とか笑いを静めてにっこりとあの笑顔で微笑んだ。
「あのねヒヨちゃん。東堂先生は昔からこの近所に住んでてね。学生の頃からの付き合い……というか、高校の先輩なんだよ。作家デビューしてからは良く打ち合わせ何かでうちの店を使ってくれてるわけ」
「そうだったんですか……。何だかすみません。失礼してしまって」
そんな昔からの知り合いだったのか。本当に本人だなんて、人は見かけによらないって本当だなぁ。
見かけで判断してしまった自分が恥ずかしくて本当に申し訳ないと頭を下げたら、本人はあまり気にする風でもなく“いいえ”と首を振った。
「女性が警戒心を持つ事は悪い事では無いですよ。逆にお若いのにしっかりした方だと感心しました。
僕の方は慣れてますから。お気になさらず」
本当に気にしてないと再度繰り返す東堂さんに、逆にどうしていいか分からなくなった。
本当に、いい人だこの人。どうしよう。