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LIFE GOES ON・・・  作者: shion
第二章 he's gone
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1

 はぁ・・・また朝がきてしまった・・・・

 さつきは、どうしようもない位の胸の痛みとともに、けだるい体をゆっくりと起こした。

 また、一日が始まってしまう・・・

 なんともいえないイヤな感じが心の中に広がる・・・

 

 もう、どれ位こんな朝を迎えただろう・・・

 本当に独りぼっちで孤独で、空しいだけの朝を。

 毎夜、もう朝なんて来なければいい・・・

 たとえ来たとしても、もう眼が覚めなければいい・・・

 そう思いながら、ベッドに入る。

 夜を一人で越えるより、朝を迎える方が恐い・・・。

 直視できない現実が、私に重くのしかかる・・・

 それをどうすることも出来ず、ただ、もがいている・・・

 

 私がこんな風に朝を迎える様になったのは、あの日からだ。

 そう、運命の、あの日・・・

 

 

 私は取材先へ向かうため、駅からの道のりを急いでいた。

 私は22歳。駆け出しの編集者で、毎日こき使われてめまぐるしい日々を送っていた。

 あーもう時間無いじゃん。また飯田さんに怒られちゃうよ~。あの人、恐いんだよな~。あーいうオジさん、私苦手。

 私は、飯田の怒る顔が目に浮かんで、なりふり構わず走っていた。

 クツのかかとが折れちゃいそう・・・でも、毎日がとても充実している。

 何もかも、きらめいて見える。好きな仕事をさせてもらってる。

 日々、勉強だわ・・・私は元気いっぱいだ。

 

 

 

 

 ◇       ◇         ◇

 

 

 

 

 ふと、キャーッという悲鳴があちこちから聞こえてきて、クモの子を散らしたように人々が道を空けた。

 何?なんなの・・・私は歩みを止めた。

 状況が良くのみ込めない。ただ、周りの人々の態度は尋常じゃない。

 私は、あちこちに視線を這わせた。

 と、血だらけでナイフを持った40位の中年の男が、引きつった不気味な笑いを浮かべ、この世のものとは思えない形相で立っているのを見つけた。

 

 イッちゃってる眼だ・・・自分の置かれている状況が理解できないまま、そんなことを思って立ち尽くしていた。

「フッ。」

 男は笑って辺りを見回している。よく見ると、その男の向こう側に4,5人位の人たちが、血まみれで倒れている。

 ウソ・・・何これ・・・私は一気に事態を把握し、逃げようと2,3歩動いた。通り魔だ。すると、その男は私に目をつけ、ニヤッと笑って私の方へとズンズン歩み寄ってきた。

 

「逃げなさーい。」「逃げてー!!」

 

 その場に居合わせた人々が、口々に叫んでいる。

 

 どうしよう・・・逃げなきゃ・・・こっちに来る・・早く逃げなきゃ・・・

 そう思うのに、あまりの恐怖に体が硬直して、思うように動かない。

 男がどんどん自分にせまって来る。私には、その姿が、スローモーションのように見える。そして今、ナイフを振り上げた・・・

 遠くでサイレンの音が鳴り響く・・・

 

 殺される・・私は体をこわばらせた。その瞬間、数人の警官が駆け付けて来た。男は少しうろたえて、私を人質に取った。

 首を締め上げられ、のど元にはナイフが突きつけられた。

「くっ来るなー!来たらこの女を殺すぞー!」

 男が叫ぶ。

 どうしよう・・・怖い・・・私どうなるの・・・なんでこんな目に・・・

 全てが一瞬の出来事で、私はパニックになった。

 いや、街中が

 パニックになっている。

 怖い・・・脚がガクガクする。立っていられない・・・

 

「バカな真似はやめるんだ。」

 刑事らしき一人のスーツ姿の若い男の人が、なだめるような口調で男に言った。皆、かたずを飲んで見守っている。

「うるせー!こっちにくんなー!」

 男は発狂している。

「とにかくその人を放すんだ。人質なら、俺が代わりになるから。」

 その人は穏やかな口調で続けた。

「うるさい!そんな言葉誰が信じるんだ!

 俺はもう終わりだ!

 俺はもう・・・この女を殺して、俺も死んでやる!」

 男はもはや止まらぬ勢いだ。私はただ、なすがままで何も出来ない。思考さえも、正常に働かない。

 

 私・・もう、ダメだ・・・

 ガクガクする脚も、もう限界だ。私は腰が抜けてしまった。

 と、私がズルリとへたり込んだので、男の腕から一瞬すり抜けた。

 その瞬間を逃さずに、数人の警官が男に飛びかかる。

 男は激しく抵抗してナイフを振り回し、私はそれに巻き込まれて手を切られてしまった。

 でも次の瞬間、私は腕をグイッと引っ張られて、訳がわからぬまま、誰かに抱きすくめられていた。

 

「君、大丈夫か?早くこっちへ。」

 男を説得していた人が、私をもみ合っている所から引き離した。

「私・・・私・・・」わなわなと震えが止まらない。

「怪我してしまったね。大丈夫か?」

 その人は持っていたハンカチを、出血した腕に巻いてくれた。

 あまりの恐怖でボー然となり、傷口に痛みなど感じる余裕もない。

「すぐ、救急車来るから。それまでちょっと頑張って。」

 精かんな顔立ちのその人は、優しく微笑み、ずっと肩を抱いていてくれた。

 私はその人の優しい顔を見たら、緊張の糸が一気にほぐれて、泣き出してしまった。

「もう大丈夫だから。よくがんばったね・・・」

 

 

 それが、私の未来の夫、『水野 耕作』との出会いだった。

 

 

 

 私が病院で手当てを受け、廊下の長いすで休んでいると、さっきの彼がやって来た。

 

「大丈夫かい?」

 

 そう言って微笑む彼の笑顔に、なんとも言えぬ安心感を覚える。

 彼はよく見ると、すごくステキだ。正義感にあふれた男らしい口調。

 短めの髪にはっきりとした二重の目元。鼻が高くて優しい口元・・・

 とにかく彼のかもし出す雰囲気は清潔感にあふれ、すごく男らしい。

 

「はい・・・少し落ち着きました。」

 私はムリに笑って見せた。

「事情聴取に来たんだけど・・・話せる?」

 彼が少し微笑む。いたわるような、優しい口調だ。

「はい・・・たぶん・・・」

 私はうつむいた。ほんとは思い出そうとするだけで、震えてしまうけど。

 

「俺は水野 耕作。デカだよ。そうは見えないでしょ。」

 

 彼がわざと明るくくだけた口調でいった。気遣ってくれているんだ・・・

 

「いえ、いかにも刑事さんて感じ、します。」

 

 少しだけ、笑みがこぼれる。彼の持つ雰囲気が、なんだかとても私を安心させる。

 

「名前教えてね。」「はい。三沢 さつきです。」

 彼はメモを取り始めた。

「歳は?」「22です。」「住所と電話番号・・・・・」

 私は一通りの質問には答えた。だけど、やっぱりあの時の事になると

 恐怖がよみがえって体が震え、思い出すことさえ出来なかった。

 

「仕方ないよ。あんなに怖い思いしたんだから。」

 

 彼は思いやりに満ちた眼で、優しくそう言ってくれた。

 

 

 

 

 彼はそのあと、何日かかけて私のところに来てくれた。

 日々、落ち着きを取り戻した私は、だんだんと冷静にあの時の事を話せる様になっていた。

 その間、彼はいつも優しい眼差しで私を包み込むように見つめていてくれた。

「ありがとう。これで事情聴取は全部終わり。もう、イヤなこと思い出させないから。よくがんばったね。」

 彼の優しい微笑みは、いつの間にか私の心を捉えてはなさなかった。

「はい。こちらこそ、何度も足を運ばせちゃって、すみませんでした。」

 私は心からそう思って微笑みながら、わびた。

 すると、彼は少し恥ずかしそうにうつむいて、

「あのさ・・・こんな事、不謹慎だって解かってるんだけど・・・今度事件の事とは関係なしに、一度、会ってくれないかな・・・」

 と言ってくれた。彼が真っ赤になっていうから、私まで真っ赤になってしまった。

 でも、彼の気持ちがとても嬉しかった。

「はい、私でよければ・・・」

 

 こうして、私達の付き合いは始まった。


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