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渋滞をスルリスルリとすり抜けて、二人は無事に時間通りついて、取材することが出来た。
彼女は友達って言ってたけど、よくよく話を聞いていると、どうやら親友のようだ。
スンゲー人が親友なんだな・・・柊は思う
彼女はさっきから、取材の合間に無邪気に雑談している。
こーいう一面もあんだ・・・
それは、柊が今まで見た事のない、生き生きとしたさつきの姿だった。
無邪気な笑顔・・・心を許してる人には、こんな顔見せるんだ・・・。
レンズを通して彼女の笑顔を写す。自然と、そっちの方に目が向いてしまう・・・。
「ちゃんと撮ってる?ダメよ、さつきばっかり撮ってちゃ。」
花園 美怜がからかう様に不敵な笑みを浮かべながら、柊をチャカした。
なんだよったく・・・そう思いながらも、自分の行動に少しハッとする。
美怜は、作家とは思えないほど派手な顔立ちをしている。
神秘的な水野 さつきの美しさを"月”と例えるなら、彼女は"太陽”そのものだ。元気が一面に出た、ヒマワリのような顔立ちだ。
目がパッチリとしていて、笑うと八重歯がかわいく出て・・・。
まぁ、この二人が並んで街を歩いたら、たいがいの男は振り返るわな・・・。
柊はそんなことを思いながら、少しの気恥ずかしさもあり、レンズを覗いたまま、
「大丈夫ッス」と、答えた。
「ちょっとからかわないでよ。彼はShyなんだから。それに腕は確かよ。」
さつきがフォローする。心にも無いことを、と柊は思うけど、今はそのフォローに少し感謝したい。
「ねえ君、ちょっとカメラどけてみて。」
美怜がふいに、近づいてきた。
「何すか?」柊は訳がわからなかったがとりあえず、カメラを下げた。
「ふーん。君、いい男ね。モテるでしょ?」
彼女は自分を舐めまわすように見ている。
何だよ急に・・・
「うん、眉毛がキリッとしてて・・・眼元もいいわね、キレイなラインよ。鼻も高いし・・唇は・・・う~ん大きめで厚ぼったくて、なんとも情熱的!肌は浅黒ね。髪型も・・・少し長めだけどあなたの輪郭に合ってるわ・・・」
彼女は冷静に分析し始めた。
柊はジロジロみられて、ちょっと恥ずかしくなった。
「美怜!苑田くん、困ってるでしょ。まったく何かのモデルにでもするつもり?」
さつきが呆れたように腕組みしながら言う。
「当たり!!今度、新しく連載するのの主役、彼みたいな男の子にシヨ~ッと。」
美怜が明るく笑う。
男の子って・・・柊は心の中でつっこんだ。
「やっぱりね。」
さつきもつられて笑う。
「でもさぁ、こんなカッコいい男の子と仕事してて、さつきよく冷静でいられるね~。よくよく見ると、すごくいい男じゃない。私だったら、話すだけでときめいちゃうな~。」
自称恋多き女美怜が、無邪気に言う。
そうか?・・・まっ言われて悪い気はしねーな。
「はいはい。私はあんたとはちがうのよ~。」
さつきが皮肉る。何かその姿はすごく開放的だ。
「あんたもいい加減、新しい人見付けたら?もう3年になるのよ・・・。」
「はいはい、その話はいいから。また今度、飲みにいった時にでもゆっくりきいてあげるから・・・。」
さつきは美怜の話をさえぎった。
何の話だろう・・・柊は一瞬そう思ったが、自分にはカンケーない話だとすぐに打ち消した。
「じゃ、また今度ね。今日はサンキュー。」
さつきが美怜に声を掛ける。
柊も荷物をまとめ、一礼した。
「柊クンだっけ?彼女いるの?私狙っちゃおーかなー。」
ふいに美怜がニヤッと笑ってスリ寄ってきた。
はぁ?柊は思ったが、美怜が軽く腕に触れてきたので少し恥ずかしくなってしまった。
「何言ッてんのよ。彼はね、私達より4つも年下なのよ。あたしらみたいなのは、彼にしてみたらただのオバさんなのよ。相手にされる訳ないでしょ。
それに・・・あんたは所詮、オヤジ専でしょ。」
さつきが皮肉っぽく言う。美怜もそうだった~と笑っている。
ったく人をおちょくりやがって・・・
あたりはもう薄暗くなっている。
「じゃ、戻りますか。」
柊はこれ以上ここに居ても仕方ないといった感じでさつきに言った。
「ええ、そうね。でも、ちょっとだけ、寄って欲しいとこが
あるんだけど・・」
さつきが言った。
二人はもう一度美怜にあいさつをして走り出した。
さつきはほどなくして、ジーンズショップの前で止めてくれと言った。そして、4.5分程してジーンズ姿で出てきた。黒のジャケットにロールアップした紺の
ジーンズ・・・何か妙にあっている。
「行きは時間が無かったからしょうがなかったけど、帰りは・・・ね?」
彼女が少しはにかむ。
たしかにね・・・。柊は何だかその姿に、微笑ましい気持ちになった。
「私、バイクって今日、生まれて初めて乗ったんだけど、すごく気持ちいいね。まさに風を切るって感じ?何かストレスとか・・・吹っ飛んじゃった。」
無邪気にはしゃいだように言う彼女を見て、柊はなんともいえぬ親近感を覚えた。
「バイクっていいだろ。俺も車も持ってっけど、たいがいはバイクつかってる。」
自分で気が付く間もなく、自然に話していた。
「そうね。ホントは帰りぐらい、電車で帰ればいいんだろうけど・・・あなたさえイヤじゃなかったら、帰りも乗せてってくれないかしら?」
さつきは少しの不安はあったが、思い切って言ってみた。
そういやそうだ・・・柊は思う。別に帰りまで乗っけてく事なかったじゃん。
俺、そうする事が当然のように、そんな事も気がつかないで、当たり前に彼女を乗っけてこうとしてた。自分でも意外だけど。
「かまわねーよ。」
本当はだいぶ遠回りになっちまうけど、なんかそうしてやりたい。
柊は少し笑った。
なんてキレイな眼をしてるんだろう・・・ヘルメットからのぞく、優しい色を浮かべる彼の瞳を見て、さつきは思わず、そう思ってしまった。
「それに、準備万端じゃん。」
柊はさつきのジーンズを指差した。
「そうよね・・・これじゃ、断れないわよね・・・でもよかった!もうちょっと風を切っていたい気分なんだ。」
かわいらしく微笑む彼女の姿が、何だか眩しく見える。
「ふぅ~。気持ちよかった~。」
さつきがヘルメットをはずしながら言った。
髪をかき上げる・・彼女のクセだ。
柊もとりあえず、メットをはずした。
「今日は本当にありがとう。仕事も無事済んだし、今まで経験したことの無い世界、体感させてもらったし。お礼に食事でも・・・といいたい所だけど、さっきの原稿、立ち上げなくちゃ。」
ジーンズ姿の彼女が微笑む。柊は何だかそんな彼女がすごく近くに感じる。
いつもセクシーな格好ばかりしているから、そのギャップが余計にそう、見せるのかも。
「いいよ。別に。」
程よい心地よさと素直な気持ちでそう言った。