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LIFE GOES ON・・・  作者: shion
第七章 DAY BREAK
34/35

5

 二人は公園に取材に来ていた。

 子育てをしているママさん達の、特集記事のために。昨日からのあいにくの雨でコンディションは最悪だったが、予定していたので、雨が上がった所を見計らって取材を始めた。

 さつきはママさん達を4,5人集めて、自分が今、何に憤りを感じ、そして何に幸せを見出すのかなどを取材していた。

 しばらくして柊は、彼女達の写真をとり終え、子供達の写真を撮っている。

 

 さつきは、一通りの質問を終え、そろそろ切り上げようと彼の方へと目をやった。

 そして、目に飛び込んできたあまりにも衝撃的な場面に、凍りついた。

 

「あぶねー!」

 柊が叫ぶ。子供がボールを追いかけて道路へと飛び出す。

 すぐ近くまで車が走ってきている。柊がそれを追いかけて・・・

 それは、一瞬の出来事なのに、スローモーションの様に見える。

 キーーーッ つんざく様なブレーキの音。いろいろな事が頭をよぎる。

 キャーーッ ママさん達が、悲鳴を上げる。

 しゅう・・・くん・・・?

 あまりの恐怖でただそれを見ているだけで、動く事が出来ない。

 

 どうしよう・・・イヤよ・・・また失うなんて・・・あなたを失うなんて・・・絶対イヤ!

 その想いだけが、一瞬にして心を支配した。

 

「柊くん!」

 さつきは夢中で駆け寄った。

 どうか無事でいて・・・お願い!

 生きた心地がしない。心臓が痛いくらい激しく脈打っている。

 ママさん達も、駆け寄る。

 

「柊くん!」

 柊は倒れながら子供をかばうようにして抱きかかえ、そしてニコッと笑った。

「ゆうき!」

 子供の母親が駆け寄る。

「ママ!」

 子供が母親の胸に飛び込んでいく。運転手も車から出てきてホッと

 胸をなでおろしている。

 柊は洋服をはたきながら、ゆっくりと立ち上がり、微笑む。

 水溜りに落ちたらしく、ドロドロだ。

 

 柊くん・・・

 さつきは一気に涙が溢れ出した。

 

「柊くん・・・」

 何の躊躇もなく、彼に抱きついた。

 

 人目なんかどうでもいい。

 よかった・・・無事で、ほんとによかった・・・

 

 彼が居なくなったらと、腰を抜かしそうになるほど怯えた自分がいた。

 目の前が、真っ暗になった。

 

 私、あなたが好き・・・あなたなしでは、いられない・・・

 

 さつきの中で、何かが弾けた。

 

「俺は大丈夫だよ、さつきさん。」

 彼が優しく抱き返しながら、そっとささやく。

「うん。うん。」

 

「あの・・・大丈夫でしょうか?」

 運転手らしき人の声に、さつきは我に帰った。

「はい、大丈夫です。」

 彼が答える。

「子供も無事です。」

 母親が言う。安堵の空気が、そこに流れた。

 

 

 

 

「柊くんほんとに大丈夫?」

 帰りの車の中でさつきは聞いた。まだ全身が少しだけ震えている。

「うん、ちょっとヒジんとこイテえけど、へーき」

 彼がヒジをさすりながら笑う。

「病院行く?」

「ううん、大丈夫。シップでも貼っときゃ治る。

 とりあえずドロドロだし、俺んち行ってくれる?」

「わかったわ。」

 彼が愛しい・・・

 

 

 

「とりあえず、シャワー浴びてくるわ。」

 彼はドロドロの洋服を脱ぎながら言った。

「そうね、ドロだらけだもんね。」

「そういうさつきさんも、ドロだらけだよ。」

「そう?」

 よく見ると、柊に抱きついたせいでさつきもドロだらけだった。

「ほんと。」

 さつきは笑った。

「俺、先に浴びちゃうから、さつきさんもその後シャワー浴びなよ。」

 そう言って彼は、さつきの頬についたドロを軽く取ってくれた。

「うん、そうさせてもらう。」

 

 よかった・・・ほんとに・・・

 

 さつきは、今彼がここにいる事に、彼と会話している事に、心から感謝した。

 

 

 

 さつきは服も全部ドロだらけだった。柊に、シャツとスエットを貸してもらった。

 

「なんかかわいい、さつきさん。スッピンでそんな格好で。」

 彼が私をからかった。

「もう!この歳でスッピン見られんの、結構恥ずかしいんだから。そんな事より早く手当てしましょ。」

 少しふくれながら、彼のヒジにシップを貼った。少し赤く腫れている。

「スッピンのさつきさん、マジかわいいね。」

 彼が無邪気に笑いながらふざけて言う。

 

 あなたはここにいる。こうして、笑っている。あなたが本当に大切・・・

 その想いに気が付く事が出来た・・・全てが溶けていく・・・

 

「バカ・・・ほんとにほんとに、怖かったんだから・・・

 あなたがいなくなっちゃったらって・・・」

 私は思わず泣き出してしまった。

「ごめん、心配させて。でも俺はこうして、ここにいるよ。」

 クスッと笑って、彼は私を抱きしめた。

「怖くて死ぬかと思ったんだから。目の前が真っ暗になって・・・一瞬のうちに、いろんな事考えちゃったんだから。 

 そして解かっちゃったの・・・あなたを愛してるって・・・

 あなたがいないと、生きてけないって・・・」

 

 

 

 

「さつき・・・」

 俺は彼女を力いっぱい抱きしめた。俺がいないと生きていけないと泣く、この愛しい人を、力の限り抱きしめた。

 

 俺でも、あなたを泣かせる事が出来るんだね・・・。

 

 

「愛してる・・・」

「私も・・・」

 もう止められない・・・止める必要なんてない・・・

 俺は彼女を抱いた。お互いのぬくもりを、心を確かめ合いながら激しく愛し合った。

 彼女のつややかな唇から時折こぼれ落ちる吐息を

 一言も聞き逃さないように、愛しむように、情熱の全てを注いで、彼女を抱いた。

 

 俺の全てでこの女性をいっぱいにしてやりたい。包み込んでしまいたい。

 この女性の寂しくくもった心の色を、俺の色に変えてしまいたい・・・

 

「さつき・・・」

 俺は何度も彼女の名前を呼んだ。

 

 君は俺のところへ来てくれた。俺はずっと君のそばにいる。

 君を絶対に独りになんかしない。何があったって、気合で生き抜いてみせる。

 そしてずっと君と歩いていく。

 俺に、一番大切なものを、教えてくれた女性だから。

 君と出会えたことが、君の存在自体が、奇跡のように思えるから。

 だからもう離さない。俺に、人を愛する事を教えてくれた女性・・・

 俺は心の中でそう、言った。

 

 

「さつき・・・」

 二人はベッドの上でしっかりと寄り添い合っていた。彼女が少し顔を上げる。

「俺、さつきの事本当に愛してる。さつきが俺の気持ちに応えてくれて、すんげーうれしい。こわかったろ、この一歩、踏み出すの。」

「うん・・・」

 彼女がうつむく。俺は抱きしめた腕に力をこめた。

「人はみんな、いつかは死んじまう。だから、ずっとそばにいるとか独りにしないとか、そんな出来もしない、君を不安にさせるだけの言葉は言わない。現に、今だって怖いだろ?」

「うん・・・」

「だけどさ、俺達は生きてる。こうしてお互いのぬくもりを、確かめ合うことが出来る。だから、いつ来るかわかんねー悲しみに怯えながら生きるより、日々感じられる精一杯の幸せを見出して、そこに喜びを感じて生きていこう。

 一日一日を、大切に生きてこう。」

「うん、柊・・・ありがとう。あなたに会えて、ほんとによかった。もう、理屈じゃなくて、ただあなたを愛してる。あなたが大切。私、あなたとなら、また生きる事を始められる。」

 二人は、口ずけを交わした。

 

 

「さつき、今度水野さんの墓参り行こう。」

「え?いいの?」

「うん。報告がてらね。」

「うん。」

 彼女がふんわりと微笑む。

「俺は、水野さんの事忘れろなんて言わない。

 だってさつきの人生の一部だろ?

 俺はさつきの全てを愛してるんだ。だからその気持ちごと受け止めたい。」

「柊・・・」

「なーんて、ちとカッコつけすぎかな・・・ほんとはすごく妬けるけど・・・」

 俺はクスッと笑った。

 

 でもそれでいいんだ・・・君は、彼の死を乗り越えて、俺のところに来てくれた。

 思い出の中のあの人より、俺を選んでくれた・・・・

 

「柊、私の未来は、全部あなたのものだよ。私、やっとあの人にさよなら言える。あなただけを見つめて、生きていける。あなたを愛してる。」

 彼女はすごく綺麗な涙を流した。

「泣くなって・・・」

 俺はそっと涙をぬぐった。その涙にすごく感動しながら。

「でもバカだね、私。こんな事がなきゃ、あなたを愛してるって、あなたがどんなに大切かって、気が付かなかったなんて。」

「ほんとだよな。俺はずっとさつきだけを想ってたって言うのに。でも、ちょっとラッキー。俺、何年かかっても待つつもりでいたから。」

「そうなの?」

「うん。」

「自信家ね。待ってれば、必ず私が落ちると思ってたの?」

 彼女がかわいくにらんだ。

「うん。っていうか、絶対手に入れたかった。メチャメチャ惚れてたし。それに・・・」

「それに何?」

「ほんとはどっかで確信してたのかも。いつかは・・・って。だってさつき俺のキスに応えてくれてたろ?」

「それは・・・」

 彼女は顔を赤らめてうつむいた。

「でもあのキスがあってよかったと思う。さつきがどんな風に思ってたか解んないけど、俺は、あのキスがあったからこそ、じっくり待とうと思えたんだ。

 どうせあきらめるなんてできなかったろうけど、少なくともあれ以上がっついたり、自分の気持ち押し付けたりしなくて済んだ。

 さつきの心が溶けるまで、本当の意味で俺の方を向いてくれるまで、穏やかな気持ちで待っていることが出来た。結構切なかったりもしたけど。」

「柊・・・」

 

 彼女が今まで見たことのない、優しさと愛しさの入り混じった瞳で俺を見つめた。

 

「柊・・・ありがとう。

 あなたは私にたくさんの優しさや愛をくれてたんだよね、ずっと・・・

 私はそれに甘えっぱなしだった。でもこれからは、あなたが私を愛してくれるよりいっぱい私があなたを愛するわ。」

「それは不可能だね。だって絶対俺の方が、さつきの事愛してるもん。」

「そんな事ない。」

 クスクス・・・

 

 

 

 

 あなたはここにいる。あなたは生きている。

 だってほら、こんなにもあなたは温かい・・・確かなものがここにある。

 私はこのぬくもりを、何よりも大切に思う。

 あなたを愛している。そう思える自分が大好き。

 だからもう、後ろは振り返らない。

 前を向いて、歩いていく。

 

 悲しくて、辛かっただけのあの人との思い出が、優しい思い出へと変わっていく・・・

 

 ・・・耕作さん、さよなら・・・です。


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